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共有結合  作者: 粥
23/28

23、止めた指先

朝九時、伊達は目覚ましのアラーム音と同じタイミングで目を覚まし、朝ごはんを食べ、準備を始めた。


十時ぴったりに大路の家に着き、インターホンを押す。すると、少しお洒落をした大路が玄関から出てきた。


「おはよ」

「うん」

「電車だよね?行こ」

「うん」


大路と歩きで駅に向かい、電車で小説のロケ地へ向かう。


「伊達くん、これ」

「ん?何この本」

「今から行くところが舞台の本。何も知らないとつまらないだろうから」

「わざわざありがとう」

「いや、こんな短時間で読むの結構キツイから、むしろ申し訳ない」


大路は少しだけ申し訳なさそうに言った。

電車はゆっくり目的地へ向かっていく。快速や急行の電車で向かうのも良いと思ったらしいが、伊達の本を読む時間を考えてわざと各駅停車で向かってくれていた。

出会った当初のままの関係だったら、恐らく急行どころか特急で向かっていただろう。


しばらくして乗り換えになり、伊達と大路は違う路線に乗り換える。

車内は二人以外誰もおらず、まるで二人だけ世界に取り残された様に静かだった。今伊達が読んでいる本の中にも似た様な描写があり、大路は少しおかしかった。


「すごいね。この作者」

「もう読んだの?」

「あまり深く読めてないけど、粗方。でもこの作者の考え方とかは好き。映像化されてたら是非観たいな」

「でしょ?表現力が凄いし、映像化したらもっと分かりやすく世界に入り込めそうなんだ」

「ふふっ」

「なに?」

「熱く語る大路さん、珍しいと思って」

「なにそれ...馬鹿にしてる?」

「してないよ、大路さんのそんな姿初めて見たから凄い嬉しい」

「................」


伊達があまりに真っ直ぐ、優しい笑顔でそう言うので、大路は思わず黙り込んで目を逸らした。

そんな事をしていると、目的地の最寄駅へ着き、二人は下車した。


「なんというか...田舎っぽい」

「都会ではないね」

「人も少ないし、落ち着いてて僕は好き」

「私も」

「あ...うん...」


大路が何気なく、何の考えも無しに伊達の方を見て返事したので伊達は思わず言葉に詰まった。そんな伊達を見て、大路は少し焦った様に弁解した。


「ごめん、私もこの雰囲気が好きっていう意味で...」

「分かってる、分かってるから...大丈夫だから」

「そぅ...じゃ、行こ」

「...ん」


若干の気まずさを残しつつも、二人は聖地巡礼の旅を再開した。

しかし今までゆっくり移動していたので、お昼ご飯にはぴったりの時間になっている。そこで大路は本の中に実際に登場した店に食べに行くことにした。


「実際あるんだ。その店」

「店名は違うけど、この本に書いてある通りの場所に行くとあるらしい」

「ファンがいっぱい居そう」

「かもね」


クリスマスと言うこともあってか、周りの家や木には電飾が飾られていた。夜になればここ一帯が華やかになるのは想像に難くない。


歩くこと十五分。一見よく田舎に点在している、日本家屋の様な佇まいをした店を発見し、大路は立ち止まる。


「ここだ」

「老舗感」

「実際70年やってるお店らしい」

「老舗だ」


大路を先導に店に入ると、腰の曲がったお婆ちゃんが応対してくれた。


「いらっしゃい、二人?」

「はい」

「ではこちらへどうぞ〜」


子供相手だからか、このお婆ちゃんの性格なのか、店に来た客というより家に遊びに来た人へ向ける様な態度だった。二人にとってはそれが何だか心地よく思えた。


「若いねぇ〜デートかい?」

「いやそんな...」

「似た様なものです」

「え...」

「あらぁ〜熱いねぇ。君たちはアレでしょお?本を読んでここに来たんでしょお?」

「はい、よくそういった方は来られるのですか?」

「うんうん、いーっぱい来てくれるよぅ。助かってるねぇ〜」

「その本を書いた作者さんとは、何か接点があるのでしょうか?」

「この辺の家の子でよぉ、よぉくお父さんと一緒に来てたもんなぁ」

「お客さんとして来られてたのですね。...しかし良いお店です、落ち着くと言うか、情緒があって」

「ありがとさん、その本読んだっちゅう人はいくらでも来るんだけど、ここまで褒めてくれた子はいなかったよお」

「それは...人見知りなのかも知れませんね」


大路のこんな丁寧で、和やかな顔を見たことがない伊達は、驚きながらも二人の会話を見守った。

会話が終わり、お婆ちゃんは厨房へ戻っていったところで、ようやく大路と話すことが出来た。


「大路さん、人見知りってわけじゃ無いんだね」

「うん、自分が話したいと思った人だけにしか話さないけど」

「なるほど、合理的」


二人は美味しいご飯に舌鼓を打つ。


「美味しい」

「ね」

「これを食べて育って、あの物語を書いたのかな」

「そうかもね」


ご飯を食べ終わった二人は店を出て、また聖地巡礼を再開する。

次に訪れたのは町から大きく外れた神社。大きくも小さくも無い、誰もおらず、寂しいと思いきや掲示板には元旦に行う祭のチラシが貼られている。

ここもまた、大路の読んでいた本に登場する場所の舞台だ。


「何か静かだね」

「本の中では凄い賑わってたんだけど」

「でもアレは夏祭りの描写だったから」

「それもそっか。今思い出したけどクリスマスだしね、今日」

「何かキリストの誕生日に神社来るってどうなんだろ」

「気にしないでしょ。お参りしよ」


大路は何も気にせず参拝した後、少しだけゆっくりすると言って神社の境内やらを見たり、周りを歩いてみたりしていた。その間、伊達は近くにあったベンチに座って大路の気が済むまで待つことにした。

しかし、案外すぐに帰って来て帰ろうと言い始める。


「もう良いの?まだ見て回ってもいいのに」

「いや、これ以上は伊達くんが寒いだろうし帰ろ」

「大丈夫だよ、今日は大路さんの好きな様にして?」

「................」

「...ど、どしたの?」


大路は優しく微笑んで見つめる伊達を、ただ黙って見つめ返している。


「そんな事、言われたことがないから」

「そんな事...?」

「好きにしていいって。大体こういう時、彼氏は普通に帰ってくから」

「あー...そか」


伊達は大路の発言に納得が行ったが、そこからは何も言えなかった。


「ごめん、何か尻軽女みたいな事言った。彼氏に比べられても反応に困るよね」

「いや...うん、そうかも」


伊達は苦笑しながらそう言った。


「でもいいの、今日は元々この時間に帰ろうとしてたから」

「まだ明るいよ?行きたいところもっとあるんじゃない?」


時刻は十五時、集合から今まで五時間しか経っていないし、場所もそこまで多くは回っていない。


「大丈夫、帰ろ」

「...分かった、帰ろう」


伊達は本当に大路が満足したのだと察して、神社を出た。



電車内の世間話で、クリスマスの過ごし方の話になった。


「クリスマスか...。こうして友達と過ごしたり、去年は彼氏と居たけど、基本家族と過ごしてるよ」

「そうなんだ、プレゼント交換とかするの?」

「妹がいるんだけど、バイトしてから買ってあげてる」

「妹いたんだ、知らなかった。いくつ離れてるの?」

「9つ。だから...8歳か」

「仲良さそう」

「良いんじゃないかな」

「良いお姉ちゃんだね」

「どうかな、それはあっちが決める事だから」


きっととても優しいお姉ちゃんなんだろうと、伊達は勝手に思い込む。時折見せる優しさが物語っていたからだ。


「伊達くんは兄弟とかいないの?」

「一人っ子。だから兄弟とか憧れる」

「良いよ、兄弟は」

「いいね、一緒に買い物とか行くの?」

「行くよ、服とか選んであげるの」

「センスありそう、今日の服も似合ってる」

「あ...ありがと...」


急に褒められ少し照れ臭そうにお礼を言う。その仕草が可愛らしく、伊達は思わずニコッと微笑む。

すると、大路の携帯に通知が来たようで、音と一緒にブーっという振動がポジのポケットから伝わって来た。


「あー...」


画面を見た大路は何やら寂しそうというか、何とも言えない顔をしていた。


「どしたの?」

「家に誰もいないから一人でご飯食べる事になるなーと思って。まぁ何か買って帰ろうかな」

「妹さんは?」

「妹連れてご飯食べに行ったらしい。私がこんなに早く帰るとは思ってなかったんだろうね」

「こんな時間に出るって事は結構遠いかもね」

「うん」

「そっか...」


最寄駅に着き、大路を家の近くまで送って今日はお開きになった。


「じゃあバイバイ」

「うん...」


伊達はしばらく歩いていると、急に服を引っ張られた感覚に陥る。後ろを振り向くと、大路が俯き顔を見せず伊達の着ているコートの裾を指先で摘んでいた。


「大路さん?」

「...あ、ありがと...。今日は、楽しかった...」

「あ...うん」

「あの...本当に嬉しかった...。えと...舞台巡り出来て」

「うん、僕もだよ。今度面白い本に会ったら、僕にも紹介して」

「うん...!もちろん...。じゃあ、今度こそ...ばいばぃ」

「またね」


大路は恥ずかしそうにして帰っていくのを見届けた後、伊達はその場に蹲りそうになるのを堪えて、家に走って帰った。

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