21、ネギ味噌唐揚げ
伊達たちが一年生になって初めての夏休み。伊達は暑い中、バイト先まで自転車を走らせる。
ようやくバイト先である駅近くの唐揚げ屋さんに着いて、バイト着に着替えて接客を始める。
「おはよ〜伊達くん」
「おはようございます」
「伊達くん来たから忙しくなりそうねぇ」
「何でですか」
「伊達くん目当で来るお客さんいっぱいいるもの〜。大抵『あの男の子はいついるの?』とか聞かれるよ」
「知らなかったです」
「まぁここ固定シフトじゃないから一概にここって言えないんだけどね」
そんな会話をパートのおばちゃんと繰り広げていると、おばちゃんの言った通り女性客が増えた。
しかし伊達は毎回混んでいるレジしかやった事がないので誰よりも早く捌く事ができる。
「もう夏休み入ったんだっけ?」
「はい」
「そっかぁ、じゃあ遊び放題だ」
「そうですね」
「彼女と何処か行かないの?」
「彼女いないです」
「えぇ!?そうだったの?勿体無い...。良い子いないの?」
「良い子はいっぱいいます」
「伊達くんだったら選び放題でしょーに」
「そんな事ないです」
伊達は淡々と話しつつ、唐揚げを揚げていく。1年2組伊達、得意料理『唐揚げ』
そんな話をしていると、一人の女子高生らしき客がやってきた。先ほど喋っていたおばちゃんは奥の方へ消えてしまったので、伊達が接客をすることになった。
「はい、いらっしゃ...あれ、大路さん」
「わぁ、伊達くん」
唐揚げを買いに来た女子高生は大路だった。
「何?ここでバイトしてるの?」
「そう」
「へぇ、制服にあってるじゃん」
「ありがとう」
「何か馬鹿みたいで」
「なに?何て?」
大路は伊達の問いかけを無視して唐揚げを選び始める。
「夕飯の買い出し?」
「いや、ちょっとお腹空いたから小腹を満たそうかと」
「おやつ感覚?」
「そんなとこ。これ美味しそう」
「美味しいよそれ」
「じゃあいいや」
「何で?」
「美味しいって分かったから」
「いや...そういう...えぇ...?」
「冗談、買うよ。これと普通のやつ頂戴」
「毎度〜」
大路がそのまま帰ろうとしたところを、伊達が引き留めた。
「あ、大路さん」
「何」
「まだここら辺いる?」
「まぁ一応」
「一緒にご飯食べ行こ」
「え〜...。バイト何時まで?」
「21時」
「また微妙な...」
「間に合わなかったら大丈夫」
「当たり前でしょ」
大路はそう言って駅の方へ出かけて行ってしまった。
バイトも終わり、伊達はバイト着を着替えて普通の私服に戻った。
裏口から出て、携帯で大路を呼ぶ。すると、すぐに出てくれた。
『もしもし』
「もしもし、まだいる?」
『まぁ一応』
「良かった、じゃあご飯行こ。どこいる?」
『駅』
伊達は自転車をバイト先に停めさせて貰い、歩きで駅に向かった。駅までは特に遠くはないのでそこまで大路を待たせることはなかった。
「遅い」
「待たせてないでしょ」
「あと1分遅かったら帰ってた」
「間に合ってよかった」
伊達と大路は二人でファミレスに入った。学生には安くて長く居座れるファミレスはとても良い施設である。
「何頼むの?」
「マグロ」
「寿司屋のメニュー表見てる?」
「マグロの漬け丼」
「なるほど、渋い」
「そっちは?」
「オムライス」
二人はドリンクバーと一緒にメニューを頼み、頼んだものが来る間にドリンクバーで乾杯することにした。
「夏休み始まりに」
「乾杯」
プラスチック製のコップをコツンと当てて二人でジュースを飲む。
「夏休みの予定とかって決まってるの?」
「別に」
「彼氏とどっか行くの?」
「一応どっか行きたいとか言ってた気がする」
「どこ行くの」
「さぁ?いつも好き勝手連れて行けって言ってるし」
「全然乗り気じゃない」
「正直クーラーの効いた部屋でずっとダラダラしていたい」
「ちょっと分かる」
相変わらず冷め切っている大路の恋愛事情を聞いていると、頼んだご飯が来たのでそれを食べながら会話を続ける。
「どうやって付き合ったの?」
「バイト先によく来るお客さんで、よく話しかけてくるなぁと思ってたら好きだったみたいで」
「あーそれで...。すごい行動力」
「ね、キモいよね」
「キモくはないし、仮にキモかったとしてそれと付き合う大路さんはヤバい」
「まぁ別に好きで付き合ってる訳じゃないし」
「ずっと気になってたけど...」
伊達はオムライスを食べる手を止めて大路の目を真っ直ぐ見つめる。
「どうして好きでもないのに付き合うの?」
「...昔、私みたいなのにもそれなりに恋する時期があったわけ」
「うん」
「中学の時、二年生の夏に好きになった男の子がいて、でもその男の子に好きな人がいると分かった途端、一気に冷めた」
「冷めた?諦めたじゃなく?」
「さぁ?でも感情的には『冷めた』に近かったから。で、この間その男子を家の近所で見かけて、あっちも私に気づいたからちょっと話したんだけど...」
「どうだった?」
「何も感じなかった。あれだけ好きだったはずなのに、顔も声も優しい所も何も変わってない筈なのに、彼に一切何も思わなくなってた」
「どうして?」
「さぁ?分かんない。分かんないけど、アレだけ好きだったのを忘れて平気だったって事は恋愛って時間の問題なんだなぁって思った」
「時間?」
「好きで好きでたまらなくて、でもその人とは付き合えなくて、今は辛い思いをしても時が経ってその思いが消えるなら、別に恋愛なんて能動的にしなくても構わない」
「................」
「ずっと好き好き言い合ってるカップルなんていないでしょ?初期ほど好きと言わなくなったけど、それでも付き合い続けてる状態に、人は『安定』という言い訳を作って」
「言い訳...」
「そんな気持ちの持ちようで、時間の問題でコロコロ変わるものに左右されるのは嫌だと思ったから」
大路は淡々と冷たく言う。
伊達はそんな大路の話を聞いて、大路の気持ちを自分の中でまとめてみた。
「つまり、ずっとラブラブでいたいと」
「は?違う」
「でも安定なんて言葉に逃げないで、ずっと好き好き言い合っていたいんじゃないの?」
「違う、単に時間が解決するような感情で作られる関係なら、別にしなくて良いなって...」
「言い訳しなくて良いって」
「言い訳なんてしてない」
的外れな伊達の答えに若干の苛立ちを覚えながら、大路は乱暴に最後の一口を頬張った。




