13、モーニングデート
今日は文化祭のお陰で休み、いわゆる振替休日というもので、良二がモーニングをしてみたいと言うことで、理沙オススメの喫茶店へモーニングに行くことになった。
理沙が家の前で待っていると、良二が遠くの方から歩いて来た。
「あれ、家ん中で待ってりゃ良かったのに」
「様子見に今出て来たんです。来るかなーと思ってたら本当に来たので、息が合いますね」
「はいはい、さっさと行こうぜ。どこなん?場所は」
「少し歩きますが、行きましょう」
理沙と良二は歩いてその喫茶店に向かう様だ。
現在朝の7時。休日に早起きしてまで行きたいものか?と思う者も少なくないだろうが、理沙曰く早く行かないと店が混んで待つ羽目になるらしい。地元民には人気の店の様だ。
「先輩、結構おしゃれですね」
「ん?そうなのか?いつもテキトーに買ってるやつだけど」
「スタイルが良いので、きっちりした服が似合うんですね」
理沙の言う通り、良二は足は長く少し痩せ形なのでスーツなどが似合う。
今日は深い紺色のスリムパンツに黒のTシャツでやってきた。Vネックから見える鎖骨が綺麗で色っぽく見える。
「俺は女子のファッションなんざ知らんが、お前の服装は良いと思うぞ」
「おや、これはまた珍しく褒めてくれましたね。ありがとうございます」
「つかお前、目悪かったの?」
「あーはい、ちょっとだけ」
今日の理沙はお洒落な丸メガネを着けていた。
「中学の時メガネだったんですけど、なんか地味っぽくて」
「へぇ」
「今日もコンタクトにしたかったんですけど、踏んで壊しちゃって...」
「ふーん。俺は良いと思うけどな」
「え…本当ですか?」
「おぅ、なんか話しやすくなった」
「本当ですか!?え、じゃあ学校でもこれで行こうかな…」
「制服にそのメガネは似合わんやろ。そんで別にかけてようが、かけてなかろうが話してんじゃねーか」
「それもそうですけど…。先輩が唯一褒めてくれたところなので」
「お前の自由なんだけどな」
喫茶店に着き、店内に入るとまだ開店してそこまでの時間が経っていなかったのもあり、全く待たずに席に着けた。
「良い雰囲気だな。これこれこういうのだよ俺が求めてたモーニングは」
「気に入って頂けて何よりです」
「休日に来てるんだっけ?」
「そうです、家族で」
「仲良いんだな」
「比較的?よく言われます」
コーヒーとモーニングセットがやって来て、二人は味わいながら、会話しながらそれを楽しんだ。
「どうです?美味しいでしょう?」
「うん、美味い。このあんこ乗っけて食べるの一回やりたかった」
「朝からのカロリー凄いので、早々出来ませんが私もたまに頼みます」
「コーヒーも美味い」
「そういえば先輩ここ前オレンジジュースにはうるさいと仰ってましたよね」
「あの頃の俺とは決別した」
「つい数日前の話ですよ…?」
良二と理沙はモーニングを食べ終わり、店を出た。
満足気にお腹を摩りながら良二はお礼を言う。
「ありがとな、一度やってみたかったからさ」
「良いんですよ、先輩へのお礼なので」
「じゃあ帰るか」
「あ、先輩ちょっと」
「何」
「この後何かありますか?」
「盛大にゴロゴロしようと思ってる」
「街行きませんか?コンタクト買いに行きたいんです」
「やだよめんどくさい」
「じゃあまた街でナンパされて、次は無理矢理拐われて犯し倒されても良いっていうんですね」
「分かったよ行くようるさいなぁ」
「わーい!先輩優しくて好き〜」
理沙は良二の賛同を得て手放しで喜んだ。
街にやって来てすぐにコンタクトを買いに行く。何度も来ているのか手慣れていて手続きを済ませて案外早く買えた。
「じゃあ帰るか」
「あ、先輩タピオカ飲みに行きませんか?」
「なにそれ」
「知らないんですか?台湾で流行ってる黒い粒々が入った飲み物ですよ」
「……………?」
「マジですか…。じゃあ行きましょうきっと気に入りますよ」
「え〜今日飲んでばっか…」
街まで出かけて、理沙はよく友達と行くというタピオカ屋へ向かった。並んでいるのはほとんど女子高生ばかりで、男は彼氏らしき付き添いで、理沙にとってただの先輩である良二はとても居にくい場所だった。
「めっちゃ居づらいなここ」
「まぁまぁ、今日は店で飲まないので」
「当たり前だ」
タピオカを買ってから店を出ると、テレビの取材でもあるのか凄い数の人が店の前にあった。
「何だ…?」
「あ、須賀先輩」
「何だと」
理沙の言う通り、人混みの中心にカメラを向けられて営業スマイルしている須賀がいた。
須賀は今良二たちが出て来た店へ取材に来たらしく、須賀の隣には有名な芸人さんもいる。
「さぁ今日は街で一番客が並ぶと噂されているタピオカ屋さんへやって来ましたー!」
「楽しみでーす」
「めちゃくちゃ愛想笑いですね」
「あいつああいうの苦手なのにな」
「仕事欲しいんですかね」
「ただの興味本位、もしくは仲代さんにやってみようとか唆されたかだな」
「仲代さんとは…?」
「あいつのマネージャー」
「ああ、なるほど」
そそくさと店から遠ざかろうとしたその時、二人は須賀に捕まった。
「あ!今店から出て来たカップルに話を聞いてみましょう!」
「え…」
「マジか」
二人とも驚きながら取材を受ける事になってしまった。相手はもちろん須賀だし、須賀は先程と打って変わって本当に楽しそうにニヤニヤしている。
「カップルで来るほど人気なんですねぇ」
「カップルじゃ無いんですよ」
「あれ?そうなんですかぁ?じゃあお二人どう言ったご関係で?」
「先輩後輩ですかね。ね、先輩?」
「え?あーうんそーですね」
「あれれ〜先輩の方はあまり乗り気じゃなかったんですかぁ」
「そうっすねー本当そうっすねぇ」
良二はマイクを向けてニヤニヤしてる須賀を、今にも思いっきり引っ叩きそうな右手を抑えながら取材を受ける。
「というか私の事知ってます?」
「知ってますよ、『よく』見ますので」
「わー嬉しいです〜!握手しましょう!」
「ええ、是非」
良二と理沙は差し出された須賀の両手を二人で片方ずつ思いっきり硬く握手を交わした。
しかし相手も同じことを思っていたので、ただの握力対決が始まった。
「あらあら二人とも握力が強いんですねぇ…!」
「ははは、そちらこそ…!」
「もっと優しく握手して下さいよぉ…!」
双方譲らず硬く握り合った後、手を離したらくっきり手形が付いていた。
若干息を切らしながら、須賀は店内へと消えて行った。その時ウインクをして来たがお互いそれに突っ込む気になれなかったので無視をキメた。
ようやく人混みを抜けたところで、二人は落ち着いて歩きながら会話が出来た。
「何だかドッと疲れました」
「こんな疲れるなら、店内にいた方が…あ、あいつ店内に用があったのか」
「そうですよ、頭回ってないですね」
「早く帰りたい」
「帰りましょう」
良二たちは朝のゆったりとしたモーニングから一転、ものの10分で疲弊させた須賀を呪いながら帰路を歩いた。




