10、文化祭ですって
秋晴れの日、良二たちの通う学校は明日明後日と行われる文化祭の出し物を用意する日だった。
「羽島くん、今暇?」
「まぁ」
「暗幕をね、取ってきて欲しいんだ。理科室とかから」
「あー了解」
「よろしく〜」
良二はクラスの女子に頼まれて、理科室へ向かった。その道中、作業中の理沙に出会った。
理沙はいつもの学校のスカートにクラス内で作った白いTシャツを着ていた。背中にはクラスメイトの名前が書いてあった。
「おやおや、先輩ではありませんか」
「よぉ、何してんだお前んとこは」
「喫茶店です。男女逆転の」
「男女逆転って何が」
「服です。男子は女装、女子は男装するんですよ」
「へぇ」
「興味無いです?」
「まぁ行かないと思うし」
「えぇ〜私結構似合うんですけど...」
良二が理科室に行くことを知らず、何となく理沙は自分のクラスの手伝いをほっぽり出して着いてきた。
「お前、自分のクラスの手伝いしてこいよ」
「今は買出し係の帰りを待っているので暇なんです。先輩こそ、どこに行くんです?こっちは二年の教室じゃないですよね」
「俺は理科室に暗幕を借りに行ってんだよ」
「なるほど、それでは私は先輩と居たいので一緒に行きます」
「意味分からん」
良二は少し面倒そうに返した。理沙はそういう返事が返ってくる事を分かっていたのか、静かに笑う。
二人で理科室にくると、白衣を着た年配の男性がいた。理科担当の先生だ。
生徒からは理科爺と呼ばれていて、テストが少し難しいと有名だ。
「先生、頼み事があるんですけど、良いですか?」
「なんだい?」
「暗幕を借りたいんです。アレ」
「ふむ...ちゃんと元どおり戻してくれるなら構わないよ」
「ありがとうございます」
先生に許可を取ると、良二は暗幕を取り外し始めた。
理沙も手伝う為に台に乗って取り外す。先生は奥の理科準備室に引きこもってしまい、理科室には暗幕を取り外す音だけ、二人だけの時間が流れる。
「文化祭、土日にやる必要あるんですかね」
「まぁ、保護者とか、学校関係者が来やすいんじゃないか?知らんけど」
「なるほど」
「まぁその次の月、火は休みなんだから良いだろ」
「でも文化祭当日休んだら、4連休ですね」
「良いんじゃないか?周りの迷惑を顧みない感じで」
「先輩は責任感ある人ですから、先輩は土日潰して来ますよね?」
「そらまぁな」
「なら、私も行きますよ」
理沙は良二を見つめてそう言った。良二もこの時の理沙の言葉だけには反応して、理沙の方を見つめる。
すると、理沙は恥ずかしくなったのか外していた暗幕で顔を半分隠した。
「お前ってさぁ...俺の...」
「................」
「........ファン?」
「は?」
「前々から思ってたけど、お前ちょこちょこ俺の事好きだよな」
「はぁ...まぁ嫌いではないですけど...」
「なるほどな、ファンだったか。安心しろよ、後輩というジャンルの中ではお前が一番仲良いぞ」
「はぁ...。先輩って...いや、まぁそういうところですよね、良いです分かってましたので」
「あ?何か言いたい事でもあんのか?」
「無いでしゅ、さっさと取っちゃいましょ」
「おい、台少しズラしてやれ。バランス悪いぞ」
「ダイジョーブですよ〜」
理沙はそう言って台を動かさずに暗幕を取り外そうとすると、台から足を滑らせて落ちそうになった。
「わっ!!」
理沙は目を瞑って落ちる事を覚悟すると、良二が腕を掴んで凄い勢いで理沙を引っ張って落ちるのを防いだ。
勢いそのまま、理沙は良二の胸の中へすっぽり入った。
「言わんこっちゃない」
「あ...すみません」
「ったく、お前もう降りてろ。ありがとな、助かった」
良二は理沙を台から下ろし、残りの暗幕を自分で取り外した。
暗幕を取り外し、良二と理沙は理科室を後にしようとすると、理科爺が理科準備室から出て来て頼み事をされた。
「あぁ良かった、まだ残っていたか」
「................?」
「少しおつかいして来てくれないか?ついでに好きなものを一つずつ二人で買って来ても良いから」
「何を買うんです?」
「今日のお昼ご飯。牛丼を駅まで買って来て欲しい」
「良いですよ。暇なんで」
「私も行きます」
「何で?」
「3回目ともなれば分かりませんか?」
「好きにしてくれ」
良二と理沙は千円札を二枚貰い、二人で駅前の牛丼屋を目指した。
先生からの注文は牛丼とサラダとお茶、残ったお金で自分たちのお昼ご飯かお菓子でもと言っていた。
「先輩って、面倒見いい方ですよね」
「あ?介護士に向いてるって言いたいのか?」
「先生のおつかいも含めですが、何だかんだ私ともちゃんと話してくれるじゃないですか。だからそう思いました、弟さんとかいらっしゃるんですか?」
「いいや、いないな」
良二と理沙は牛丼屋に入って先生に頼まれた牛丼を頼んだ。良二と理沙も食べたくなったので、自分達の分も頼んでいた。
学校に帰り、二人が理科室に戻ると先生が二人も理科室で食べていけと言うのでソファに座って食べた。
「ところで君たち、文化祭の出し物は何するんだい?」
「自分はお化け屋敷だそうです」
「私は男女逆転喫茶です」
「ふむ...僕が高校生だった頃とは随分と風変わりしたようだ」
「先生が私たちの歳の時、文化祭は何をしていたんですか?」
「確か劇をやったよ」
「劇ですか...やるクラスはやりそうですけど、まず一般のクラスはやらなそうですね」
「小っ恥ずかしいからね、そして何より女子が怖い」
「あー何かと仕切りたがる女子が、いつの時代もいらっしゃるんですね」
「私も女子ですが、そういう女子は苦手ですね」
「しかしまぁ、クラスのみんなと何かを成功させるという行事と言って過言ではないのだ、一生懸命やりなさい」
「うちの場合、一生懸命やると泣かれるか、最悪気を失いますけどね」
「学生の出来る範囲なんて決まっているはずだけどね」
「やる時はやるクラスなんで」
「そうか、君のクラスは去年の体育祭で先輩たち抑えて総合優勝したんだっけ」
「凄いですね、先輩たち」
「というよりこの子と、この子といつも一緒にいる子が筆頭だったけど」
「伊達先輩と先輩がですか?意外ですね」
「まぁ、ガラにもなく熱くなりまして」
良二と伊達の意外な才能に驚いたところで、良二と理沙は各々の自分のクラスに呼ばれたので、そそくさと理科準備室を後にした。
「先輩、それではまた」
「おう、そっちも頑張れよ」
「はい。...あ、そうだ先輩」
「あ?」
良二が背を向けようとしたところで、理沙が呼び止めた。
「文化祭、2日目一緒に回りましょうね」
「え、めんどくさい。出来ればクーラーの効いた教室で冷たいアイスティを飲んでいたい」
「妙に具体的な計画で否定された...。私と回るの嫌です...?」
「嫌じゃない。ただただ面倒」
「行きましょう?」
理沙は良二のネクタイを指先で弄りながら、上目遣いで甘えてみせた。
すると、それが嫌だったらしく一緒に回る事を了承する事でやめさせた。
「分かったからそれ辞めろ」
「やたぁ〜!嬉しぃ!」
「さっさと行け」
「は〜い。あ、回るところは私が決めますよ!」
「たりめぇだボケ」
良二は背中越しにそう言って、自分のクラスへ戻っていった。




