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虹色の国々  作者: 山猫ミチル
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紫の国




紫の国




 青の国を離れるごとに気温があたたかくなってきました。



 もう氷のかたまりも見えません。船内でもいただいた毛皮を愛用していた三人でしたが、だんだんと暑くなってきて、ついに脱いでしまいました。



「とうとう、最後の国だなあ。ワシたちよくがんばってるよね」


「まあ、大活躍ってほどでもないがな。俺たちがいてクレパスよかったろう?」


「ええ、オーノは青の国で薪を作るのにキコリの腕が大活躍でしたね。トンカチがいなければ船も修理できなかったのですから、本当にふたりがいなければ僕もここまで来られませんでした。とても感謝しています」


「いやー、それほどでもねえよ。実際、クレパスの知恵のおかげで数々の困難を乗り越えてきたようなもんだろう」


「運がよかったんですよ。さあ、最後の国です。気を抜かないように引きしめて行きましょう」


「へい! ボス」


「ボス! オーノ、最後まで用心棒がんばります」


「ちょっと、やめてくださいよ。ボスだなんて」



 三人が笑い合っていると、潮の香りにまじって甘い花の香りがただよってきました。陸地が近いようです。海の色も紫色です。



 その時、予期せぬことが起こりました。何と、船底からカヨリが出てきたのです。


「ふう、暑くてたえられない。もうかくれていられないよ」


「えええー?」

「おい!」

「うわあーー」


 そして三人が同時に叫びました。

「どうしてここに?」


 カヨリはぺろりと舌を出して。

「ついてきちゃった……」

と言いました。ちゃっかりトンカチのシャツを着ています。脱げよと怒られています。



「僕は一度死のうとした。でもまだ生きている。ということはこれはおまけの人生さ。何だって出来るんだって思ったんだ」


「はあ?」

 トンカチの片方のまゆ毛が思い切りつり上がっています。


「帰る道はないのですよ。僕たちきみを青の国へ送って行くほどひまじゃないんだ」


「君たちの国へ一緒に行くよ。楽園なんだろう? どうしても行ってみたくなったのさ」


「おい、どうすんだよ」


「はあ、まあ、ここまで来てしまったのならしょうがないですね」


「やったー」


「調子に乗んなよ」

 ポカリとトンカチに頭をたたかれています。


「いいか、ここではクレパスがボスだ。ちゃんと言うことを聞くんだぞ」


「はい、ボス」


「だから、ボスはやめてくださいってば」


「取り急ぎボスに報告があります」


「何ですか? カヨリ」


「船底が浸水し始めております」


「なんだとう? そういうことは早く言え!」

 トンカチがどなります。急いで確認すると、少しずつ水が入って来ていました。


「大変です、大急ぎで船を陸へ」



 四人総出でオールを使い、こぎ始めました。


「エッサ! ホイサ! いっそげー」

 オーノが音頭をとって全員をはげまします。


 そして何とか沈没する前に紫の国へ上陸できたのでした。



「ぜーぜーぜー、人使いが荒いよボス」

 カヨリは浜に倒れこんでいます。


「へなちょこだなあ。先が思いやられるぜ」


「どうですか? トンカチ、また修理できそうですか?」


「うーん、青の国で受けた損傷が影響を及ぼしているんだ。どうかな、最後の国だから、あとはレインボー国へ帰るだけなんだけど、六つの国をめぐってもらってきた荷物が重いのかもしれんな」


「荷物を少しへらす必要がありそうですね。この国で何か役に立つといいのですが」



 カヨリが各国でもらった贈り物の中から黄色の国でもらった麦わら帽子をかぶっていました。

「太陽がこんなにまぶしいものだなんて知らなかったよ。だからこれもらってもいいかな」


 どこまでも自由なカヨリはそれでもいいムードメーカーにもなってくれたのです。ずっと三人で来て少し疲れてきてもいたので、それはそれで助かったのです。四人はそれぞれ思い思いの物を持って、紫の国へ潜入して行くこととしました。


 クレパスは売るための絵の具をたくさんせおいます。


 トンカチは珍しい物を選んでかつぎました。


 オーノはこの国にはないだろうと思われる食べ物を選んで持ってきました。


 おしゃれなカヨリは布やら糸やら装飾品を持ってきました。



 紫の国は、とてもきれいで美しい国でした。


 うすい紫の花が一面に咲き乱れ、遠くの山の濃い紫とうすい紫とのグラデーションがきれいなのです。とてもいい香りがします。先ほど船の上でもかいだ匂いがこの花のようです。小さな花弁がぶどうのようにつらなり行く千も垂れていました。



「このように美しい花を見たのは初めてです。そしていい匂いだなあ」


「ええ、本当に。カヨリ、この花は僕たちの島でも見たことがありません。とてもかれんではかなげですね」


「俺たちの島の花はもっと情熱的なんだぜ」


「確かに、赤とか、濃いピンクだったりはっきりとした色が多いね」


 おだやかな気持ちにさえなりました。この国の人々は果たしてどのような人たちのなのでしょう。



 どこからともなく笛の音が聞こえてきました。耳に心地よいその音が風景とあいまって、おごそかな空気がただよっています。四人は笛の音につられるように音の方へみちびかれます。


 先ほどから道に連なっていた花のトンネルが現れました。天井から無数の花が垂れ下がっております。とても美しいトンネルなのでした。


 そのトンネルを抜けると笛の音がいっそう大きく聞こえてきました。そこは、誰かの家の庭のようです。広い庭園にはまた別の種類の花が咲いていました。輝くような紫色の美しい蝶がたくさんひらひらと飛んでいます。


「なんて美しい国なんだ。ここは天国かい?」

 カヨリがはしゃいでいます。


「確かに、今まで行ってきた国とは何かが違いますね」


「何かって? 他の国と違うのかい?」


「うーん、わかりません。何て表現したらいいのか……」


「俺も感じてるよ。よくわからないんだけど、おだやかな気持ちになるんだ。この笛の音がそうさせているのか」


「ああ、ワシも。いつも初めての国に上陸するときの緊張感があまりないんだ。これは一体どういうことなんだ? クレパス」


「紫色の効果なんでしょうか。そしてこの笛の音。あとこの花の香すべてが影響しているのだと思います」



 奥の方まで進むと大きなお屋敷がありました。


 すると、笛の音がぴたりと止んだのです。屋敷の中はうすい紫色のとばりが垂れさがっていて見えません。中からは外が見えるのでしょう。


「何者じゃ」

 と中から女性の声がしました。


「勝手におじゃましてすみません。僕たちはレインボー国という島からやってきました。この国に絵の具を売るためにきた商人でございます」


「青の国からきたカヨリです」

 かぶっていた麦わら帽子を脱いでカヨリはとばりの向こうにいるであろう女性に優雅に挨拶をしています。


「ほう。よその国のものとな。わらわはそのような者に会うのは初めてじゃ」

 その時一瞬だけ、一陣の風が吹いて、うすいとばりが舞い上がりました。中には優雅なたたずまいの美しいかれんな女性が座っておりました。


 クレパスらはここへ来たいきさつを話しました。


「信じられん話じゃ。でもそなたたちを見れば本当のことなのだと言わざるをえん。まことに不思議なことじゃ」


「姫様! どうなされました!」

 突然たくさんの男がわらわらと集まってきました。


「この者たちは通りすがりの者ゆえ、手を出してはならぬ」

 女性がかばうも聞く耳をもちません。


「うぬぬ、おぬしらは何者じゃ」


「あやしい物ではございません。私どもは物を売りにきた商人です」


「話しはあとで聞こう。さあ、この者たちを城へ連れて行け」


「は!」


 オーノは手も足も出せませんでした。男たちが手に持っていたのは長い刀だったのです。


 四人はとらえられたうえ、持ってきた荷物もすべて没収されてしまいました。


 お城は山の上にありました。国中を見下ろすことが出来る天守閣があります。その地下のろう屋に四人はほうりこまれました。


「なあ、誰だよ緊張感がないって言ったの」


「オーノ、お前だよ。クレパスが言ってたじゃねえか。最後の国なんだから気を引きしめていこうって」


「いいえ、トンカチ。私もすっかりこの国のおだやかな雰囲気にのまれていました。油断してしまって、だまって人の家の庭に入ったのですから、驚かれても仕方ありません」


「なあ、初めての国の赤の国と状況一緒じゃねえか」


「ええ、あの時はピンチを切り抜けられましたけど……」


「それより、カヨリさっきからだまっているけど大丈夫か? ははは、ビビッて声も出せねえってか」


「いんや、カヨリの様子何だか変なんだよ」


 見るとぼんやり天を見上げてにやけておりました。時々、ため息もついています。

「おい! カヨリ大丈夫か! おい!」


 ようやくカヨリはみなが自分を注目しているのに気づきました。


「ああ、俺はとうとう見つけたのさ。俺の運命の女性を」


「運命の女性?」


「ああ、姫様、何て美しいのだろう」


 カヨリは恋をしていたのでした。たった一瞬、あのとばりが風で舞い上がった時に、カヨリは中にいたお姫様をしっかりと見ていたのです。そして一目ぼれをしてしまったのです。


「ははは、ついこの前、失恋して死のうとしてやつがもう恋をしてやがる。のん気なもんだぜ」

 トンカチは情け容赦しませんがカヨリはなんのそのです。


「でも、姫様なんだろう? そんなお方には見向きもされないだろう」

 オーノがかわいそうな目でカヨリを見ます。


「おかしいですね」


「何がだい? クレパス」


「姫様なのにどうして、この山の上にあるお城ではなくて、あんな海岸線のお屋敷で暮らしておられるのだろう」


「言われてみれば……」



 その時、天井の一画がすーっと開き、目の周りだけを残し全身紫色の服をまとった人がとび降りてきました。猫のようにとても身軽な動作でした。一切物音を立てずに突然現れた人に四人はびっくりしました。



「ひゃあーー」

 のけぞるオーノ。

「どっから現れたんだい? 魔法かい?」

「だ、誰ですか?」


「しっ!お静かに! 私はくのいちのレイと申します。姫様の使いでやって参りました」


「姫様の!」

 それまでだまっていたカヨリが乗り出してきました。


「これからみなさまを助け出します。さあ、私についてきてください」



 レイがろう屋の鍵をあっさりと開けてしまいました。見張りの番人はすべてレイによって眠らされております。四人はレイのおかげで首尾よくお城から抜け出すことができたのでした。



「見張りがいるので姫様のお屋敷にはお連れできません」


「助けてくださってありがとうございます。姫様にもお礼を言ってください。でも、どうして助けてくださったのですか?」


「それは私も存じません。ただ、姫様の命に従っただけです」


「姫様に見張りがいるってどういうことなんだい?」

 カヨリがレイに食らいついています。レイは何も言いません。


「会いに行っちゃあいけないのかい?」


「姫様にはどなたも会うことはできません。どうかあなた達は、ご自分の国へ帰られるようにと姫様からの伝言でございます。私はあなた達が安全にこの国から出られるまで手助けをするようにと」


「俺は帰らないよ。姫様に会うまでは」


「とりあえず船まで戻りましょう。レイ、お願いがあるのですが」


「はい、何なりと」


「僕たちが乗ってきた船が壊れてしまったのです」


「フネ? 一度私に見せてください。何とかしましょう」



 海岸です。船はこなごなに壊されていました。


「おい! 一体どういうことなんだ。誰がこんなことを」

 トンカチが叫びました。無理もありません。トンカチが一生懸命つくった船だったのですから。ほかのみんなもあぜんとしています。


「船はさっきまでここにちゃんとあったんです。壊れたのは船の底だけで……」


「おそらく竜巻が吹いたのでしょう」

 レイが気の毒そうにいいました。


「たつまき?」


「ええ、この海岸は竜巻がよくおこるのです。竜巻は龍がおこします」


「リュウ? それはどんなものなのでしょう?」

 レイは昔からこの国を守っている龍の話しをしました。


「実は姫様は龍の生贄として囚われているのです。お城から離れて暮らしているのはそのためなのです。姫様が吹く笛の音でいつも大人しくなるのです。龍は何かを感じて怒っているようです」


「何という話だ。私が姫様を助け出す」

 カヨリは抑えがたい怒りがこみ上げてきました。


「いけません。龍はこの国の守り神なのです。姫様はずっと龍のために笛を吹き続けなければなりません」


「そんなことさせない! 姫様は人間なのだ。お前たちも目をさませ。いいか、生贄がないと守らない神様なんていなんだよ!」

 カヨリは止めるひまもなく走っていってしまいました。




 クレパスは考えていました。海岸の岩場で海風に当たりながら、時折指をぬらして風にさらしています。



「クレパスは何をしているのだ。なあ、トンカチ、船はもう一度つくれそうか?」


「うーむ。多くの人手がないと相当時間がかかるだろうなあ」


「私に提案があるのですが……」


「レイ、君たちの忍術ってやつかい? どうしたらいいんだい?」


「ここに毛皮がたくさんありますね」


「ああ、青の国でたんまりもらったもんだ。竜巻で飛ばされたけどあちこちの木に引っかかってやがる」


「これを使いましょう」


「毛皮を? 船に?」


「船でないとダメですか?」




 日が暮れました。カヨリは姫様のお屋敷に忍び込んでいます。青の国の青年は闇にまぎれるのが上手なのです。


 悲し気な笛の音が聞こえてきました。先ほどとは音が違う感じがしました。


「姫様」

「誰?」


「カヨリです」

「どうしてここへ?」

 姫様は急いでカヨリを室内に入れました。


「私はあなたに会うためにここへ来たのです」

「カヨリさん、私もお会いしたかった」


 二人にもう言葉は必要ありませんでした。二人は初めて会った瞬間に、お互いに恋に落ちていたのです。



 一夜をともに過ごし、カヨリはある決心をしていました。それは姫様を逃がすことです。この国から一緒に逃げ出すのです。



 早朝にお屋敷を二人で抜け出しました。見張りは気づいておりません。


 クレパスたちのいる船のところまで行きました。この海岸は竜巻がおこるので国の人は誰も近づかないのだそうです。こわがる姫様を説得して連れてきました。



「やあ、みんな。船の準備は出来たかい?」


「やや、姫様を連れて来ちゃったのかい?」

 驚くトンカチ。みんなもあぜんとしています。


「ああ、一緒に連れていくよ。船は?」


「これが新しい船だ」


「これが?」


 毛皮をつぎはぎした大きなかたまりにロープで箱がつなげられていました。


「これは気球といいます。温めた空気を中に送り込めば空を飛ぶことが出来ます」


 レイがカヨリに向かって説明をします。


「何だって? 空を飛ぶ?」


「ワシは反対したんだ。もう空はあの大鷲でこりごりだ」


「ここからレインボー国まではひとっとびです。風が僕たちを運んでくれるでしょう。それに僕たちはこれまで数々の困難を乗りこえてきました。何か目に見えない力で守られてきたような。だから私は何の心配もしていませんよ」


 その時、竜巻が起こりました。海の上で蛇が空に向かってくねくねとうねっているように見えます。


「見てください。あれが龍の正体なのです。龍が竜巻を起こすのではなくて、竜巻が生き物の龍に見えただけなんです。だから、姫様、あなたが生贄になる必要はまったくないのです」


「私は自由なのね」


「ええ、そうです。誰だってみんな自由なんですよ」


 竜巻はすぐに海上で消滅しました。


「この海の向こうはとても寒い青の国です。そこから時折冷たい風が流れてくると大気の温度差ができてあんな竜巻をおこすのです」


「クレパスは何でそんなことまで知っているんだい?」

 オーノは不思議なものでも見たような顔をクレパスに向けています。


「どうしてでしょうかね? さっき海をながめていたらわかったんです」


「お願いがあります。そのことをこの国の人々にも説明してもらえませんか?」


 姫様がクレパスにたのみました。するとレイが


「姫様、それは無理です。この国の民は龍を信じきっています。神であり、それはこの国の象徴でもあるのです。突然やってきた異国の者の話しを信じるわけがありません」


ともっともなことを言います。


「レイ、あなたの言うとおりだと思います。ただ、僕はこの国にきた一つの使命があります。それをやらずして帰るわけにはいきません」


「クレパス、何をするんだい? まさかまた城へ?」


「ワシらはまた捕らえられるぞ? 一度逃げているのに話しなんて聞いてもらえないだろう」


「大丈夫ですよ。明日、一人でお城に行って来ます」


「クレパス、一緒に行くぜ」


「そうだよ、最後に何を一人でかっこつけやがって。クレパスが言うんなら秘策があるんだろう。俺は用心棒だぜ、一緒に行くさ」


 こうして、三人は最後の商談をするために翌日お城へ向かったのでした。



 三人は手ぶらです。竜巻によって、もう売り物になるものが何一つ残っていなかったからです。


 お城に着きました。門番は三人を見て驚いていました。でも、すんなりと中に通してくれました。


「どうなっているんだ? てっきりとっ捕まえられてまたろう屋行きかと思ったが」

「トンカチ、僕らは守られているんですよ」

「へ? 誰に」

「さあ、それが誰なのか僕にもわかりません」

「何だよ、それ」



 三人は殿様の面前までとおされました。


「そなたたちか、昨日、姫の屋敷にあらわれた商人というのは」


「はい、さようでございます。しかしながら、おそらくは誤解があって昨日は一度捕らえられてしまいました」


「ふむ、聞いておる。では、何故どのようにして逃げたのじゃ」


「天井から龍神様が現れて我々を逃がしてくれたのです」


「何と!」


「私共には使命がございましてどうしてもそれを果たさなければなりません。龍神様が手伝ってくれたのです」


「その使命とは何ぞ?」


 クレパスはこの国へきたいきさつを語りました。


「何と、それはまことの話しか」


 そして、これまでに旅を終えてきた国々の話しも交えてじっくり説明したのでした。



「ふーむ、確かに、昨日そなたたちが持っていた品物はどれもこれも見たことがない物ばかりじゃった」


 殿様は、ここへ持ってまいれと家来に言いつけました。昨日、クレパス達が海岸から運んできた荷物が広げられた。


 クレパスが持ってきた絵の具、トンカチが持ってきたいろんな国でもらった珍しい品物、オーノが持ってきた異国の食べ物や香辛料、カヨリが持ってきたきれいな色の布や装飾品。


「これらは、龍神様にささげるみつぎ物ですのですべて返していただきたいのです」


「え? うむむむ」


 実はこれらの商品を殿様はもう少しずつ試していたのです。


「しかし、居もしない龍神様にみつぎ物をするものおかしいので、これはこの国へ差し上げます。どうぞみな様でお使いください」


「なぬ?」


「龍神様の正体は竜巻でございます。あの海岸で起こる竜巻は自然現象であって、その姿形が龍に見えただけなのです。実は、殿様はもうご存知だったのではないのですか?」


「え?」

 今度はトンカチとオーノが驚く番でした。


「姫様はとてもお美しい。お父様であるあなたは、お年頃になった姫様を誰にも取られないように龍の生贄にしてしまった。あのお屋敷に幽閉して誰の目にもさらさないようにした。あの美しい庭園を見れば、どんなに姫様が大切に大事にされているかわかりました。でも、それは愛情を越えた親のエゴなのではないでしょうか」


「その通りです」


 突然奥方様があらわれました。殿様がひとまわり小さくなりました。


「あの子はもう年ごろとなりました。娘の幸せを考えるのが親のつとめ、さだめなのです。いいかげんに目をさましてくださいな」


「うむむむ。龍のいけにえとなった娘は誰も恐れて近寄らん。この先も相手などあらわれんさ」


「その点なら心配いりやせん、もうとっくに……あっ!」


「何だと?」


「トンカチ! 今それを言っちゃあだめだろう」


「ほほほっ……。あらまあ、心配することなかったのね」


 殿様はカンカンに怒りました。


 でも、愛する愛娘がその男を連れてお城にやってきました。


「お父様、私を龍のいけにえにしたことをうらんではおりません。だって、そのおかげで運命の人に出会えることが出来たのです」


 こう言われてしまっては殿様ももう何も言えないのでした。でも、たった一つ条件が出されました。姫様とあのお屋敷で暮らすこと。国を出て行くことだけは許されませんでした。




「短い旅だったけど、楽しかったよ」

「カヨリ、姫様と幸せに暮らしてください」

「ああ、あの時君たちに命を助けられて本当に感謝している。愛する人とめぐり会えてここが僕の天国だったよ」



 クレパスたちの新しい船、気球はたくさん荷物を積めないので、わずかな土産物だけを積んで旅立つことになりました。


 紫の国ではカヨリが絵の具をあちこちで売ってくれることになりました。これから色が知られていくのかはまだわかりません。


 とうとう、最後の国の旅が終わろうとしています。カヨリと姫様とレイに見送られての出発です。ついに気球がふわりと浮きました。さようなら紫の国。そして、いざレインボー国へ帰るのです。



 風が出てきました。ぐいぐいと空へ飛んで行きます。順調に飛んでいます。



 その時三人は目を疑う光景を見ることになりました。気球の横を龍が飛んでいるのです。



 まごうことなき本物の龍神様でした。三人は驚いて声も出ません。



 龍神様はしばらく三人の気球を守るかのように一緒に横を飛んでいて、やがてくるりと向きを変えました。その時、光る小さな何かが飛んできて気球の中に落ちました。そして、龍神様はそのまま空高くどこまでもどこまでも上昇していき、ついに見えなくなりました。





次回、最終章「エピローグ 〜 レインボー国」へ続く……。





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