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虹色の国々  作者: 山猫ミチル
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黄色の国




黄色の国


 


 オレンジの国を出た一行は、黄色の国へ向かっておりました。



 海水が段々とうすくなって黄色味を帯びてきました。これは黄色い国へ近づいている証拠です。三人の船旅もずいぶんと慣れてきたようです。

 


 黄色い大陸が見えてきました。あまり山のない平たい陸地に見えます。上陸できそうな海岸を探して船を着けます。



「なあ、クレパス変装いるかなあ」

「私も同じことを考えていました。案外、人は肌の色が違う人を見てもそれほど驚かないのでは、とオレンジの国で感じました」

「僕らの顔に黄色い色を塗ってもきっと不自然だろうね。ならばこのままいこうではないか」

「お、小心者のオーノらしくない発言だね」

「なんか暑いんだよ、この国。まぶしいし」



 確かにすべてが黄色い世界は結構まぶしいのです。



「暑さ対策に黄色いターバンでも巻いて歩きましょう」




 一面の麦畑の中を三人は歩いていました。麦畑を抜けるとトウモロコシ畑です。農業の盛んな国なのでしょう。



「あ、誰かいるぞ」背の高いオーノが農作業中の人を見つけたようです。



「こんにちは。突然すみません。僕たち、海の向こうのレインボー国という国からやってきた商売人なのですが」

 小柄な人物が振り返るとしわくちゃのおじいさんでした。



「はいーー?」



 今度は少し声を大きくしてみました。



「あのー僕たちは決してあやしいものではありません。実は商売をしにはるばるやってきてー」



「はいーー?」



「町で商売をしたいのですが、どっちへ行けばいいですか?」



「あんたたち鳥なのかね? 海の向こうから来たんだろ? 町にも飛んでいったらいいんでないか。はっはっは」



「ちゃんと聞こえてるんじゃないか」

 トンカチがイラついてきました。



「僕たちは船という乗り物に乗ってやってきました。鳥じゃありません」



「冗談だよ。あんたたちどう見ても飛べそうには見えんよ。はっはっは」



 真面目なクレパスではたち打ちできません。



 ここは俺にまかせろとトンカチが前に出てきました。

「ここから一番近い町にいきたんだが道を教えてくれねえかなあ」



「あんたら何で同じこと何度もいうのかね。バカかね。はっはっは」



「だったらさっさと教えろってんだ」



「トンカチ! すまんねえ、おじいさん。こいつさっきから黄色い色ばっかり見てて少しイラついてたもんで」



「ああ? 何当たりめえのこと言ってんだかなあ。そう言えばお前さんたちずいぶん変わったいでたちだなあ」



「ええ、僕たちはよその国から来たのです。僕たちの国には様々な色と言うものがあって、実はそれを広めるためにわざわざやって来たのです」



「ほほう。何だかよくわからないが、それはうまいもんなのかね?」



「食べ物ではありません。でも美しいものだと思いますよ」



「では、ひとつ私に売ってくれんかの?」

「え? もちらんです。こちらは七色分の絵の具というものです。さあ、どうぞ」

「で? これはどうやって使うのかね?」

「絵を描いたり……」

「はいーーー?」

「あっ……。えっと、風景や人物などを羊皮紙などに……」



 クレパスは絵の具が売れない理由に気が付きました。一色しかない国の人々にとっては、そもそも絵という概念がないのです。



「ああ、絵を描く道具かね」

「え? 絵を描かれるのですか?」

「はあ? あんた何言ってるのかね。絵ぐらいうちの孫でも描けるわ。はあ、こりゃあいい土産ができた。孫が喜ぶわい」



 一体どんな絵を描くのか、絵が大好きなクレパスは気になって仕方がありませんでした。

「あの、おじいさんのお宅に一緒に行ってもかまいませんか?」

「ああ、うちは広いから旅人の三人くらい泊めてやってもかまわんよ」


「へ? クレパス何言ってるんだい? 俺たちは町へ行って商売するんだろ?」

「まあまあ、トンカチ。そう急がなくてもいいじゃありませんか。せっかくここでおじいさんと会えたのも何かの縁ですし、少しこの国の人々の生活を見てからでも遅くないのではないですか」

「そうだなあ、腹もへってきたし、町までは遠そうだしな」

 オーノのお腹はすでにぐーと鳴っています。


「そいじゃあのう、そこからそこまで収穫するのでな、手伝いよろしくたのむわ」




 三人は日が落ちるまで、トウモロコシの収穫を手伝いました。トンカチだけがずっとグチを言っておりました。



「ちっ、結局そういうことじゃねえか。あのじいさん、最初っから俺たちに手伝わそうと思ってたんだよ」

「まあ、一宿一飯のお礼ということでいいではないですか」

「そうだよ、わけのわからない国に潜入するにはまずは調査が必要ってことだよな、クレパス」

「ええ、むしろ、我々の方が正体不明の異国人なのですから、泊めていただくだけでもありがたいです。とても親切なおじいさんですよ」




 くたくたになった三人は、おじいさんについて家まで行きました。



 おじいさんの家は大家族でした。優しそうなおばあさんが嫌な顔ひとつせずに三人を歓迎してくれました。三人の息子さんに、そのお嫁さん、おじいさんのお孫さんは総勢で十六人もいたのです。とても明るくてにぎやかな家族です。



 三人を歓迎するかのように夕げは大宴会です。さまざまなスパイスを使った不思議な味のする料理がたくさん並べられました。からい物がこの国の気候にあっていてとてもおいしいのです。子供たちはクレパスらに興味しんしんで、皆きらきらしたひとみで異国の話しを聞いていました。ひとりの子供が言いました。



「おじいさん、この人達の言っていること本当なの? 海の向こうには別の世界があって、それぞれ違う色なんだって」



「わしはな、実はひいじいさんからそんな言い伝えを聞いたことがあるんじゃ」



 これにはクレパスたちの方が驚きました。

「この国では他の国のことを知っていたのですか?」

「うんまあ、古い言い伝えなんじゃが」

「へえ、そりゃあいったいどんな言い伝えだったんだい?」

 とトンカチが乗り出してきました。



「ああ、神はこの世界に七つの国をお創りになった。色も人種も気候も違った七種類の大陸をな。それぞれの国はまだ未熟でな、神は混ざらないように適度な距離に海でへだてたのじゃ。いつか時が来るまではお互いが干渉し合わないようにとな。言い伝えは本当だったんじゃよ」



「まってよ、おじいちゃん! じゃあ、クレパスさんたちの島は何なの?」

 そう言ったのは孫の中でも始終冷静な態度をとっていた、一番年長のクミン少年でした。



「神はな、その時が来るまでにもうひとつの小さな島を七つの大陸の真ん中にお創りになられたんじゃ。七つの国をわたり、その存在を世界に知らしめるというとても重要な役割を果たすことのできる勇者たちが現れると予言されたのじゃ」



 おじいさんは感極まったように声を震わせ、目を見開いて子供たちに叫びました。



「そして、時が来たのじゃ!」



 子供たちは大騒ぎです。みんなが一斉にクレパスたち三人を見ました。クレパスたちはおじいさんを見ました。



 すると、おじいさんはニヤニヤしています。周りの大人たちを見ると、おじいさんの奥さん、息子たち、そのお嫁さんたちもニヤニヤしていました。



「ほらほら、おじいちゃんのホラ話にまただまされて。早くご飯を食べてしまいなさい」

 子供たちは

「なーんだ。またウソか」

「いやいや、今日のはなかなかよくできてた」

「信じちゃった」

 と口々に言っていました。



 ポカーンとしたのはクレパスら三人でした。トンカチは半ば切れ気味で

「ちょっと、じいさん、ひでぇじゃねぇか。もっともらしいこと言うもんだから、え?俺らはひょっとしたら神の使い? とか思っちゃったじゃねえか」

「ああ、ワシも、レインボー国だけは選ばれし神の島? って震えたもん!」

「はーーはっはっはーーー。悪い、悪い。ああ面白かった」




 クレパスだけはあの不思議な黒マントのおばあさんのことを考えていました。




 ―あの方は一体誰だったのだろう。どうして他の国のことを知っていたのだろう。




 食事の後も子供たちは三人にまとわりついて離れません。特にオーノは小さい子供たちに大人気です。トンカチは奥さんたちにスパイスの使い方を聞いています。



 クレパスは年長のクミンに話しかけました。

「ねえ、もし良かったら君が描いた絵を見せてくれない?」

「絵ですか? いいですよ。朝日がのぼったらこの家のそと壁を見てください」




 次の朝、さっそくクレパスら三人は、外に出て家の壁を見てみました。



 黄色い壁には壁画が描かれていました。そこには凹凸がたくさんあって真横から登ってくる朝日を受けて凹凸の影が絵を浮かび上がらせていたのです。美しい幾何学模様が刻まれておりました。



「彼は才能があるなあ。農家の跡取りではもったいない。大工にしたらいい匠になるだろうなあ」

「美しい。こんな細かな装飾を家の壁にほどこすなんてとても豊かだね」

「ええ、素晴らしいですね。でも、やはりこれは絵ではありません」

「そう言ってしまったらおしまいだがね、でもまあ絵ではないな」

「絵って何か知らないんじゃないの」



 オーノは大あくびをしながら言いました。とっくに学校へ行っていたはずのクミンが、いつの間にかかたわらにいて、三人の話しを聞いていました。クミンに気づいた三人はハッとしました。



「これが僕の絵なんだ。あなたたちの国の絵がどうだって言うんだ。絵の具をきのうもらったけど、どんなに色がそろってたって見たこともないものの絵なんて描けないよ!」

 クミンはくるりと向きを変え走り出しました。



「しまった!」

 口を押えるオーノ。

「まってください。クミン!」

 もうクミンの姿は見えません。走って学校に行ってしまったのでしょう。



「私は何か勘違いをしていたのではないでしょうか。クミンの言うとおりです。どんな色の絵の具があっても、赤い花、青い鳥を見たことがないこの国の人には意味のないことだったのです。結局、クミンを傷つけてしまいました」



 くちびるをかんでうつむくクレパスに二人はなぐさめる言葉が見つかりません。本当にそのとおりだと二人も感じていたのです。 そこへ、おじいさんがやってきました。



「どうしたんだい? あんたたち、今日は町へ行くのじゃろう? わしも用事があるのでな、一緒に来なさい」

「じいさん、助かるぜ。じゃあ、道案内よろしくな」



「いえ、あの……」

 何か思いつめた様子のクレパスをオーノもうながします。

「さあ、早く町へ行こうよ。クレパス」



「ぼく、町よりもクミンの通っている学校に行ってみたいです」

「もう、クミンの言ったこと気にしても僕らにはしょうがないじゃないか。それよりも早くこの国の人にいろいろな色を見てもらうのが先決じゃないか?」

「じゃあ、先に行っていてくれませんか? 僕は後から追いかけます」



「ああ、それじゃあ、二手に分かれるか」

「ええー、トンカチと二人で商売なんかできるのかなあ」

「なんだとう? 役立たずの用心棒ならぬ、でくの坊が何をぬかしやがる」

「これこれ、仲たがいしておる場合かね? あんたらには重要な役目があるのじゃろ? クレパスには何か考えがあるのじゃろうて。ワシの三男が学校に作物をおさめに行くはずじゃから、案内させよう」



 こうしてトンカチとオーノはおじいさんと一緒に町へ、クレパスはおじいさんの三番目の息子さんと学校へ行くことになりました。




「じいさん、町までは遠いのかね?」

「一番近い町ならすぐじゃよ。みんな畑で作ったものを売ったり交換するのじゃよ。あと、町には他の村から来た商人もたくさんおる。珍しい香辛料や、果物が手に入るのじゃ」



「お城にも行けたらいいんだけど、クレパスが合流してからの方がいいね」

「ふん、クレパスがいなくたって交渉くらい朝飯前よ」

「はーはっはっは。あんたらは本当に選ばれし者なのかね」

「え? おじいさん、今、なんと?」

「オーノ、またじいさんのたわごとが始まっただけさ。うちらはただの異国の商人さ」




 クレパスはおじいさんの三男のガラムさんとゾウに乗って学校まで行きました。



 この国はとても子供が多いのだそうです。学校におさめる作物もゾウがいないと運べないほど大量なのです。クレパスの島にゾウはいません。初めてゾウを見た時に、クレパスはその姿に腰を抜かすほど驚きました。オレンジの国でラクダを見た時の比ではありません。何せ大きいのです。そして何よりもビックリしたのは羽のように大きな耳とロープのように長い鼻です。



「こんなに大きな動物は僕の島にはいません」

「この国ではゾウは神様でもあるんだ。とても大切にされているんだよ」

「初めは驚いたけど、よく見るととても優しい目をしていますね」

「ああ、その通り、大人しくて優しい動物さ」

 世界にはまだまだ見たことがない動物がたくさんいるのだなあとクレパスは思いました。



「この国に肉食の動物はいるのですか?」

「うん、トラという大きな猫みたいなやつがいて、時々人をおそうんだ。けど、人里にはめったに出てこないので大丈夫だよ。あと山奥の川にはワニという獰猛なやつもいる」

「ガラムさんは見たことがありますか?」

「トラは昔うちで飼っていたらしい」

「えええ? 飼っていた?」

「うん、父さんが若いころ、森で母親とはぐれたトラの子供を拾ったんだ。しばらくは牛の乳で育てて、大きくなる前に森へ返したんだって」

「へえ」

「信じたのかい?」

「え?」

「父さんの得意のホラ話だよ」

「なんだ」



 そうこう話しているうちにクミンの通っている学校へ着きました。




 そのころ、トンカチとオーノはおじいさんの案内で町の中を見学していました。まずは人の多さに驚きました。お店の数も相当あります。お城も近くに見えました。



「じいさん、王様ってどんな人なんだい?」

「そうじゃなあ。珍しいもの好きな好奇心旺盛な若い王じゃよ」

「ふーん」

「現在、花嫁を探させておる。おかげで町中の年頃の娘がそわそわしておる」

「それだ! 若いお嬢さんたちにリボンや髪飾りを作ろう」

「トンカチにしてはいいアイデアじゃない! いいね。素材を町で買って絵の具で染めよう」

「クレパスいなくても俺たちで商売できるってところ見せてやろうじゃねえか」



 おじいさんに丁寧にお礼をのべ、ここで別れました。



 さっそく二人で大量のリボンや髪飾りを町で調達して絵の具で染めてみました。ところが染色のプロのクレパスがいないのであまりうまく染まりません。試しに町かどで商品を並べて売ってみましたが、町の乙女は誰一人立ち止まりもしません。



「うまくいかないもんだなあ」

「初めからキレイな布でリボンを作った方がいいよ。船に戻って素材から作り直そうよ」

「それにしてもクレパスは何をしているのだ」

「そうだね、遅いね」




 クレパスはガラムさんにたのんでゾウを少しの間借りました。



 学校では授業が始まっています。学校の大きな壁に壁画を描くことにしたのです。大きな面はゾウの鼻を使ってきれいなブルーを吹きつけてもらいます。たくさんの花や鳥、動物や植物、やがてカラフルな楽園の壁画が完成しました。



 終わるとクレパスはそっとそのままその場を立ち去ります。ガラムさんにゾウを返し、急いで二人が待つ町へ向かいます。




「お、やっと来たぜ。おーい、クレパス! こっちこっち」

 二人は町の中心の広場でゴザを広げて見すぼらしい髪飾りを売っていました。クレパスが自分たちを見つけやすいようにです。



「遅くなりました。はあはあ」

 クレパスは全身絵の具だらけです。

「何やってたんだよう。もう日が暮れちまうぜ」

「これは一体なんなんです?」

 二人は目を見合わせて、これまでのいきさつをしぶしぶ話しました。



「なるほど、それはいいところに目を付けましたね」

「な、目の付けどころはいいんだよ」

「商品はもう一度作りなおしましょう。今日はもう日が暮れるので宿屋を探しましょう」



 三人が見つけた宿屋は古い建物でした。お城に近いので何か情報が得られるかもしれないとそこに決めたのです。もう三人はお腹がペコペコです。何しろ朝ご飯をおじいさんの家でいただいたきり何も食べていなかったのですから。



「いらっしゃい。お客さんたち、どこから来たの? 見たこともないかっこうだわね。それに私達と姿が何か違う?」

 首をかしげたのはこの宿の娘、リアーナです。とても美しいお嬢さんでした。



 宿のご主人は、昔お城で仕えていた大臣だったそうです。話好きのご主人はクレパスらに大変興味を持ち、これまでの話しをお嬢さんと一緒に聞いてくれました。



「ふーん、この国の他にも七つの国があるのか。ずいぶんとっぴな話しだが、お前さんたちが証拠だものなあ」

「ご主人はどうしてお城の大臣を辞められたのです?」

「どうもこうも、先代の王様が亡くなられて今の王様の代にかわって、当時の家来をすべてご自分の家来だけにされたんですよ。年寄りはいらないってね」

「そいつあ、ひでえなあ」

「いえいえ、よくある話です。私はまだこうしてこの宿をもらうことが出来ました。細々とでも暮らしていけるのですから王様には感謝しております。こうして近くで見守ることもできますし」



「くーっ、泣かせるねえ。忠誠心あるじぇねぇか」

「失礼だよ、トンカチ。ところで王様はお妃さまを探しておられるって、さっきおじいさんが言ってたよね」

 とオーノ。



 さっきまで明るくふるまっていたリアーナが、その話題でふっと目をふせました。



「実は、うちの娘は王様が王子様の頃から憧れておりまして、しかし大臣の任を解かれ、今や貧乏暮らしの宿屋の娘になり下がり、身分が違うので候補にすら上がっておりません」

「こんなにお美しいのに」

 なぐさめるつもりでオーノは言ったのですが、とうとうリアーナは泣き出してしまいました。



「おいおい、オーノ」

「え? ワシ何かしたのか」

「それより、何かい? そんなに王様っていうのはイケメンなのかね」

「また、失礼だよ。トンカチ」

 リアーナの泣き声が一段高くなりました。




 翌日、三人は新たに作ったリボンや髪飾りを昨日と同じ場所で売りました。やはり、ひとりも興味をもちません。



「どうして売れないのかなあ。トンカチが作ったのとは全然違うのに」

「売れない原因は俺じゃなかったってことだな」

「いいわけ言ってる場合じゃないよ。これはピンチなんだぞ」



 クレパスはずっと思案顔です。

「なあ、クレパス」

「え? ああ、はい。要するにこれが何なのかイメージがわかないのでしょう。見たこともないのですから。誰かが付けてくれるといいのですが」

「昨日の宿屋の娘、リアーナにうってつけじゃないか!」

「そうですね。さっそくプレゼントしてしばらくつけてもらいましょうか。あとほかにも何人か知り合いにも分けてもらって」



 その時です。大勢の子供たちが広場に走ってきました。



 何とクミンたちでした。学校の友達をたくさん引きつれて、どうやらクレパスたちを探していたようです。



「やっと見つけた! クレパスさん!」

「やあ、クミン!」



「クレパスさん! あの絵を描いたのはクレパスさんなのでしょう? ガラムおじさんから聞いたよ。すばらしいよ。あれがクレパスさんの国なの?」

「うん、僕の島の風景だよ」



「なんだなんだ?」

 オーノとトンカチはわけがわかりません。昨日クミンの学校の壁に楽園の絵を描いたことを話しました。



「クレパスさん、ぼくクレパスさんにお礼を言いたくて、だから今日は学校が休みだったからみんなで探したんだ」

「お礼だなんて。僕の方こそ君の気持ちを傷つけてしまったことをあやまらなければならないって思っていたんだ」



「いいえ、僕が何も知らなかっただけで、クレパスさんの言うことが正しかった。僕は何にも知らなかった。何にも知らなかったってことがわかったんだ」

 クミンからほとばしるものがあった。彼の中で、心の結界が解けたかのように、色と言うものを受け入れたという事実が伝わってきたのでした。




「子供っていいね。頭がやわらかくて今までなかったものでもすんなり受け入れちゃう」

「ああ、絵の具は学校でほとんど売れたし、あとは徐々にこの国にも受け入れられるんじゃねえか?」

「ええ、大人は時間がかかるのでしょうけども」




 髪飾り作戦は失敗しました。結局、宿屋の娘リアーナもリボンも髪飾りも付けてくれませんでした。でも、クレパスは恋を成就させるべくプレゼントをこっそり渡しておりました。これをつけてくれるのか、はたまたそれで成功するのかはクレパスにはわかりません。




 次の国へ向けて、出航する日が来ました。



 今回もたくさんの食料や黄色の国のもの、特にスパイスなどたくさんもらうことができました。見送りにはたくさんの子供たちが来てくれました。クミンのおじいさんも来てくれています。



「クレパスさん、わしの孫の名誉を守ってくれてありがとう」

「名誉? 一体何のことです?」



 クレパスらが泊まった翌日。クレパスらが話した世界の不思議な話を、当然のことながらクミンたち兄弟は学校で得意げに披露したのです。ところが誰も信じてくれません。それどころかホラ吹きじいさんの孫だから、とうとう遺伝してホラ吹き一族になったと、はやし立てられる始末となりました。


 

 とうとうクミンは級友とつかみあいのけんかに発展してしまったのです。大好きなおじいさんを侮辱されたのが一番くやしかったのです。先生がやってきてわけを聞きました。すると、あろうことか先生もそんな話はでたらめだと言い始め、クミンに級友に謝るように言ったのです。




 そして、授業が終わり全校生徒が見たものは、あの壁画だったのです。クミンがあの壁画を見てどれだけ衝撃を受けたことか。そして、先生と級友たちはクミンに謝らなければならなくなったのです。



「そういうことでしたか」



「なあ、オーノ、俺たちはクレパスにはかなわないよな」

「ああ、確かに。あの時に学校へ行くのを止めていたら何も起きなかった」



「しかし、君たちがいたからクレパスはここに来れたのじゃろう? 選ばれし者たちよ」



「じいさん、ありがとよ。」

「ああ、これからもワシは用心棒としてがんばるよ」



「本当にみなさんお世話になりました。さあ、次は黄緑の国へ出航です! さようならー」







次回、「黄緑の国」へつづく……。






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