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虹色の国々  作者: 山猫ミチル
1/9

七つの国への冒険が始まった!!


プロローグ レインボー国




 

太古の昔、世界には七つの大陸がありました。



七つの大陸はそれぞれ赤、オレンジ、黄色、黄緑、緑、青、紫とひとつの色だけでできておりました。



七つの大陸の真ん中に小さな島国がありました。

この島国のみがあらゆる色を持っていたのです。七つの大陸の国の人々は自分の国以外の色を知りません。



それでも共通のものはありました。太陽と星の光、夜の闇です。

まだ船も、ましてや飛行機もない時代、それぞれの国はお互いの存在を知らずにのんびりと暮らしておりました。



 小さな島国はレインボー国と言います。赤道に近いこの島は一年中が夏です。色とりどりの花が咲きほこり、カラフルな鳥が飛びかうとても美しい島です。たくさんの魚がとれ、そこら中に果物がたわわに実り、島の人々はこの楽園で幸せに暮らしておりました。



 ひとりの若い絵の具売りがおりました。彼の名はクレパスといい、正直者で心が優しく、そしてとてもかしこい青年でした。クレパスは絵を書くのが大好きで、自分で色とりどりの絵の具を作って暮らしを立てておりました。けれどこの島で絵の具を買ってくれる人はあまりいませんでした。


 

 ある日のこと。クレパスが染料となる草木の花びらをつんでいたところに、黒いマントをかぶったかぎ鼻の老婆がやってきました。このおばあさんを島で見たことは一度もありませんでした。そもそも気温の高いこの島でこんな格好をしていたら人目につくはずなのです。おまけに老婆はマントをかぶっているせいか肌の色が白いのです。



「ちょっとすまないがね、この辺で絵の具を売っている若者がいると聞いてきたんじゃが」

「はい。私が絵の具売りでございます」

クレパスはさっそく商売道具の絵の具が入っているカバンを開けました。

「絵の具を買いにきたんじゃないんだよ」

「え?」

「あんたを見こんでたのみがあるんじゃ」

 


 クレパスは海が見わたせる丘の上にいました。そこで近くにあった切り株におばあさんを座らせ、自分は地べたに腰を下ろし、くわしく話を聞くことにしました。

「あの海の向こうにはこの島を囲むように、七つの国があるのじゃ」

「え? 海の向こうに、僕たちの島以外にも国があるのですか?」

「そうじゃ、しかもその七つの国は、赤、オレンジ、黄色、黄緑、緑、青、紫とな、それぞれ一色だけの世界なのじゃ」

「一色?」

「そうじゃ。赤の国は、空も大地も、花も木もすべてが赤いのじゃ。むろん人もな」

 

 レインボー国の人々は、太陽の日差しをいっぱい浴びていてどの人も肌の色は褐色です。クレパスは全身が赤い人や、青い人を想像してみました。

「鳥だって黄色いカナリアもいれば、緑色のオウムもおるじゃろう?」


 ―確かにこのおばあさんも僕と肌の色が違う。


 そう思ったクレパスでしたがまだ半信半疑です。

「はあ……。で、私にたのみ事というのは?」

「その七つの国へ行って絵の具を売ってきてほしいのじゃ」


 クレパスは考えました。色を一色しか知らない人々になら、きっと絵の具は飛ぶように売れるだろう。

「でも、どうやって海をわたるのですか?」

「船を作るのじゃ」

「フネ?」

 おばあさんは持っていた大きな袋から一枚の羊皮紙を取り出して広げました。

「これが設計図じゃ。木材で作る、水に浮かぶ箱のようなものじゃ」


 クレパスたちは木をくりぬいたカヌーでたまに漁をしていましたが、これはもっと大きくて風を受ける帆がついていました。

「こんなに立派なものは私にはつくれません」

「大工にたのむといい」

「木材もありません」

「キコリにたのむといい」

「大工とキコリに払うお金がありません」

「これはたのみごとをしたお礼じゃよ」

 と言って老婆が差し出した大きな布袋にはたくさんの金貨が入っていました。


「うわー! こんなにたくさんの金貨を見たのは初めてだ。ん? 金貨のほかにもいろいろ入っているぞ。これは何だろう。でも、おばあさんは一体どうして?」

 クレパスが金貨に見とれていた間に、老婆の姿はどこにも見えなくなっていました。まだ行くとも言っていないのに老婆は消えてしまったのです。びっくりしたクレパスは、あちこち走りまわって老婆の姿を探しました。けれど、とうとう老婆は見つかりませんでした。



「まいったなー。どうしようこの金貨……」

 そこへ大工のトンカチが通りかかりました。

「やあクレパス、元気か! ん? どうしたんだ浮かない顔をして」

 クレパスはトンカチに事情を説明しました。

「ひゃー。とほうもない話だぜ。そいつは本当なのか?」

「ええ、あのおばあさんはうそをつく人には見えませんでしたし、この金貨も本物でしょう?」

「しかし、冒険心をくすぐる話しじゃないか。それにこの設計図、大工の腕がなるってもんよ。これは俺につくらせてくれないか?」

「えー? 本気ですか? それに僕はまだ、未知の世界に行く勇気がないんです」

「心配するなよ。俺が一緒に行くよ。もっと世の中のことを知りたいんだ」



 とうとうクレパスはトンカチに説得されてしまいました。そして二人は、さっそく木材を調達するためにキコリのオーノに会いに行きました。

「なんだって? 七つの大陸? 一色しかない国? そんなばかな話しがあるものか。信じられない。よし、ワシも一緒についていくぞ。ワシは用心棒にもなったるでー」

 確かにオーノの体格はクレパスの三倍、トンカチの二倍あって、その怪力は森の大木をあっという間に倒してしまうほどでありました。



 こうして三人の冒険の旅が決まりました。




 キコリのオーノが木を切り倒し、大工のトンカチが海岸で船なるものをつくり始め、クレパスは大量の絵の具を精を出して作っていると、レインボー国中にうわさが広まりました。



 ある日とうとうクレパスは、レインボー国の王様から呼び出しを受けてお城に参上します。クレパスはこちこちにかしこまり王様の前でひざをついたのでした。


「クレパスというのはそなたか」

「はい、わたくしがクレパスです」

「うわさを聞いておる。船と言うものを作り、海をわたり七つの国へ行くというのはまことか?」

「はい」

「七つの国がそれぞれ一色でなっており、そこへ絵の具を売りに行くとな?」

「はい。そのとおりでございます」

「ふーむ。そのようなことが本当なのか予も気になる。予もその旅に報酬を与えよう。無事に帰って来られるよう、万全の準備をおこたらぬよう、家来の手も貸そう」

「ははあー。ありがたき幸せにございまする」



 こうして船の建設も、絵の具の製造もとんとん拍子に進み、三か月後にようやく三人は、多くの島民に見送られ、盛大な船出を迎えたのです。


 


 王様とお妃様もみこしにかつがれながら海岸まで見送りに来られています。ほとんどの島民が集まり、珍しげに船をながめたりするもの、クレパスたちに差し入れをする人たち、泣いて別れをおしむ人たち、それぞれでした。



「おーい、おいおいおい……。こんな危険な旅、今からでも遅くない、やめておくれよ」

 泣いて止めているのは、オーノのお母さんです。

「母ちゃん、心配いらないよ。ワシはこの旅に出なくちゃならないんだ。みんなをこのワシが守るんだ」



 荷車を引いた子供たちがやってきました。

「トンカチさん、これうちの畑でとれたおイモです」

「うわー、こんなにたくさん? ありがとう」

「帰ってきたらたくさんみやげ話ししてくださいね。楽しみに待ってます」

 子供たちは目を輝かせながらトンカチに抱きついていました。トンカチは話し上手なので子供たちに人気があるのです。



「クレパス、これ持っていってください」

美しい少女が恥ずかしそうに何かをクレパスに差し出しました。見るとそれは島でとれるいろいろな薬草でした。クレパスの幼なじみのアローラがクレパスのために薬草をつんできてくれたのです。

「体に気を付けて、必ず帰ってきてくださいね」

「アローラ、ありがとう」

二人はしっかりと手をにぎりあい、つかの間でしたが見つめあいました。

「必ず、必ず帰ってくるよ」



 ロープが解かれ、ゆっくりと船が岸を離れていきます。

 さあ、三人の未知の冒険が始まりました。




「赤の国」へつづく……






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