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The Two Days  作者: 李仁古
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二日目

 清水は目が覚めると見覚えのない天井を見て跳び起きた。黒いジャケットが大理石の床に落ちる。すると鼻の穴にティッシュを詰めた神父が笑顔でやってきた。

「ここは?」

「教会です」

 すると、神父が服を差し出した。

「それは汚れております」

 清水はドレスを見た。所々破け、血や土がついていた。率直に服を受け取りると、神父が指をさす先にある部屋に入った。

 その頃、松田は昨日の出来事を整理していた。パーティー会場の襲撃は筋が通るが、署に向かう時にあった襲撃は疑問が残る。明らかに武装も違うし、あそこまで派手にやる必要があったのだろうか。そして、何故あそこを通る事が分かっていたのか。


 警察内部にスパイがいるのか。


 背後から足音。振り返ると、神父がコーヒーカップを持ってきた。コーヒーカップを差し出された松田はそれを受け取った。

「どうも」

 一口飲む。熱いコーヒーが目を覚まさせる。コーヒーカップをテーブルに置くと、大塚が二階から下りてきた。松田と大塚は交代で二階から見張りをしていた。ここ八時間は変わった様子はない。

 大塚は椅子に腰を下ろす。時計を見ると午前九時を回ろうとしていた。すると、松田の携帯電話が震え出した。慌ててポケットから出すと、画面には登録されてない番号が映っていた。松田は恐る恐る電話に出る。

「……もしもし」

『松田! 一体何処にいるんだ?』

 声の主は村上だった。松田はほっと息を漏らした。

「今、大塚と教会にいる。マルタイも無事だ」

『なんでそんなとこにいんだよ!? 署にいるってお前言っただろ!?』

 思考が止まる。罠だ。第六感がそう言っている。すぐに電話を切った。体中の全細胞が危険信号を出している。松田自身、村上にそんな事を言った記憶はない。

 松田はタボールを持って、窓から外を覗く。雨が路面を濡らしいるだけで、特に変わった様子はない。だが、分かるのも時間の問題だと松田はそう思った。

「ここを出よう」

「誰からだったんだ?」

「……村上だ」

 大塚は顔を曇らせながらMK.16を握った。松田はタボールの安全装置を解除し、指は引き金の上ではなく用心金トリガーガードの上。その時、清水がいないのに気づいた。

「清水は何処だ?」

 神父が指をさす。

「あの部屋の中です」

 すぐに向かい、ドアをノックした。しかし反応がない。思い切ってドアを開けると、左手に灰色のパーカーを持ちジーンズの上に手榴弾を乗せたまま座り込んでいた。見るとワイヤーがパーカーに続いている。

「大塚! ば……」

 振り返ると大塚がMK.16の銃口を松田の眉間に合わせていた。

「悪いな」

 凍りつく時間。死へのカウントダウンが始まった。松田は覚悟を決めて、目を閉じた。


 銃声。


 しかしMK.16の音ではない。もっと乾いた音だ。目を開けると、大塚の右膝が撃ち抜かれていた。その後ろで血まみれの神父がワルサーのPPKを握っていた。銃口からは白い煙が立ちのぼっている。

 その隙に松田は大塚に飛び掛かる。銃を蹴飛ばし、右の拳を大塚の顔面に放つ。鼻が潰れる。が、大塚は何事もなかったかのように松田の肩を掴み、後方に投げ飛ばす。だが、空中で背中を反って足から着地。

 松田は大塚の右手を掴むと同時に右の肘を使って左手を払い、半円を描きながら右足を大塚の頭にくらわす。大塚の首が折れ曲がった。右手を離し、清水のもとに駆け寄り再び爆弾を見る。

「左手は成るべく動かすな」

 そう言うと清水は小さく頷いた。ワイヤーは手榴弾の安全ピンを通っており、もう少し手を上げていればピンが外れ、安全レバーが宙に舞って爆発する。松田は安全レバーを握りながら、パーカーについたワイヤーを外そうとした。

 突然、首が絞まった。見ると首が垂れ下がった大塚が両手で松田の首を絞めてきた。

 松田はジーンズに乗った手榴弾を引っ張った。安全ピンがワイヤーによって外れた。次に安全レバーが飛ぶ。それを大塚のジャケットの中に突っ込む。すると大塚は手を離し、慌ててジャケットに手を入れた。松田は彼を蹴り飛ばす。途端に爆発した。

 機械の破片とダミーの皮膚が飛び散る。だが、火花を散らせながら微かに動いていた。アンドロイドは腹部にある動力部があるが、予備の動力部が頭部にもある。しかし、上半身と下半身が真っ二つになっている為、意味がない。

 留めにベレッタで頭部を撃ち抜く。完全に停止した。松田はベレッタをホルスターにしまい、タボールを持ち上げた。

「早く着替えろ。すぐ出るぞ」

 そう言って部屋を出た。清水は言われた通りドレスを脱いで着替え始めた。松田は眼鏡を外し、息を軽く吹きかけてからかけ直した。

 片方の膝をつき、神父の首にある動脈を触れる。反応なし。神父は死んでいた。床に真っ赤な血を流しながら。

 すると、ヘリのプロペラ音が聞こえてきた。そこに着替えが終わった清水が駆けてきた。靴を履かずに。

「行くぞ」

 松田は床に落ちたジャケットを拾い、裏口のドアを開けた。ヘリはいつの間にか遠ざかったのか、音が聞こえなくなった。

 アテンザに乗り込み、エンジンをかける。ワイパーを動かし、雨で濡れたフロントガラスを奇麗にする。

「何処に行くの?」

「分からん」

 それだけ言って走らせた。通りに出て、とにかく走らせた。

「あの……さっきはありがとう」

「仕事だ」

 サイドミラーで後方を確認しながら言った。道路は朝のせいか交通量が少ない。だが、さっきの爆発のせいか何人かが窓から外を見ている。そのうちパトカーの一台でも来るだろう。

「あたし……死ぬの?」

 震える声で清水はそう言った。

「俺が守る」

 信号が赤になり、車を停める。

「それが俺の仕事だ」

 松田はそう言うと清水を見た。清水が何か言おうとしたが、プロペラ音がそれを邪魔した。すると、ヘリコプターが目の前に現れた。横から百連マグを装填したシンガポールのCIS社が開発したウルティマックス100を持った男が出てきた。

 ウルティマックスは軽機関銃の中では比較的軽く、反動も少なく扱いやすくなっている。

 素早くギアを動かし、バックさせる。途端にウルティマックスが火を噴く。ボンネットとフロントガラスに穴が開く。ガラスの破片が飛び散り、銃弾がシートやヘッドレストに吸い込まれていく。

 ハンドルをきり、ブレーキを踏む。アテンザが百八十度回転した。すぐにギアを動かし、アクセルを踏み込む。白い煙をあげながらアテンザがスピードをあげる。

「大丈夫か!?」

「えぇ!」

 清水が叫ぶように言うと、松田は少し安心した。

「伏せてろ!」

 再びアテンザに銃弾が襲う。屋根に穴が開く。それでも松田もアクセルを踏み込んだ。ハンドルをきって角を曲がると、対向車が突っ込んできた。すぐにハンドルをきり、なんとかかわす事が出来た。サイドミラーを見るとヘリコプターが追いかけてくるのが映った。が、銃弾でサイドミラーが吹き飛ぶ。

 横を見ると、地下トンネルがあった。松田はハンドルをきって、トンネルに突っ込んだ。バックミラーで確認するとヘリコプターが上昇していった。

「もう大丈夫だ」

 そう言うとダッシュボードの下に隠れていた清水が出てくる。

「逃げ切ったの?」

 清水が後ろを振り返りながら言った。

「多分な」

 だがスピードは落とさず、時速120キロ以上で走っていた。すると、ボンネットに出来た穴から煙が出てきた。どうやらエンジンをやられたようだ。松田は舌打ちをした。

「壊れたの?」

「さっきのでエンジンをやられたようだ。長くはもたない」

 そう言っていると非常口のサインを見つけた。松田はアテンザのスピードを落とす。アテンザを端に寄せ、停めた。

「降りろ」

 松田は防弾ベストを脱ぎ、ジャケットを着た。タボールを背負い、非常口のドアに向かった。非常口のドアを開け、薄暗い通路を進んでいく。

「何処に通じてるの?」

「さぁな」 そう言いながら暗闇の中を進んでいく。電灯が一定の間隔で取り付けられており、松田と清水は闇に消えたり、現れたりを繰り返ししている。すると、清水が遅れてきた。

「ちょっと待って」

「……一分だけだ。それ以上は待たないぞ」

 清水はその場に座り込み、体を休めた。普段からあまり運動しない清水にとってはかなりきついだろう。

 松田は壁に寄り掛かりながら犯人が誰か考えた。一番有力なのが清水の会社とライバルである今野正樹だろう。アンドロイドを開発する二つの会社は共に世界で発売されている。今野はそれが嫌だったのだろう。それで暗殺を企てた。だが何故あんなに大胆な事をしたのだろうか。


 ガン!


 突然、闇の中から音が聞こえた。松田はタボールを構える。清水が松田の後ろに行く。静寂な時間が流れる。松田たちはゆっくりと後ろに下がっていった瞬間だった。

 急に男が後ろから松田を羽交い締めした。松田は壁を蹴って、反対側の壁に相手をぶつける。それでも男は怯まず、松田の首を絞め始めた。松田は腰のホルスターからベレッタを抜き、腹部に撃ち込む。十発近く撃ってから頭部を撃ち抜いた。

 すると今度は先程、音がした方から現れた。慌ててタボールを拾おうとしたが相手は右手をブレードにしていた。刃が松田を襲う。松田は上半身だけでなんとか躱していく。何度かジャケットや髪の一部が切れたが、それだけだった。

 男は素早い動きで松田を切ろうとしている。何度も服を切られながらも松田はタイミングを合わせて腕を掴み、引き寄せると同時に、腹部に肘打ちをする。一瞬に怯み、その隙に腕を捻り、刃を体に突き刺す。

 松田は男を蹴り倒すと清水に向き直った。すると、清水が口に手を当てた。途端に松田の視界が真っ暗になり、地面に倒れた。松田の後ろにはサングラスをかけた元井が立っていた。

「連れて行け」

 元井がそう言うと後ろからアンドロイドの男たちが清水を素早く囲み、清水の細い腕を掴んだ。抵抗するが、びくともしない。

「放してよ! 放しなさい!」

 一人のアンドロイドが足元に転がったタボールを拾い、銃身バレルを折り曲げていった。元井たちは気絶した松田の横を通り、暗闇に消えていく。清水の声も。

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