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The Two Days  作者: 李仁古
1/6

一週間前

この作品は『空想化学祭』の作品ですが、SFではなくエンターテイメントとして読んで下さい。

 外は相変わらずの雨。かれこれ三日ほど続いているが、一向に晴れる気配はない。そんな雨を色白の肌に肩まである地毛の茶色が混じった長い黒髪が目立ち、小さめの胸の膨らみがきりっとした顔たちで補っている白衣の女がオフィスの窓からコーヒーを飲みながら見ていた。

「今日も出ないわね」

 白衣の女、清水恵しみずめぐみはがっかりとした表情を浮かべていた。


 それもその筈だ。


 太陽がなくなり、世界は絶望で満ちていた。そこに日本とアメリカの共同開発、ライジングサン計画が二十年前から始められた。そして、今年――二二五八年――の八月七日に完成して宇宙に打ち上げられたのだ。それが四日前の事だ。

「天気予報だと、あと三日ほど降ると」

 短めの髪に無表情なメイド服に身を包んでデスクの上を整理しているメイド型アンドロイド――世間ではX7型と呼ばれている――、クロエが透き通る奇麗な声で言った。それを聞いた清水は溜め息をついた。

 清水は半透明のコーヒーカップに入った、砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲み干す。アナログの腕時計――今ではスラム街と化した歌舞伎町でしか手に入らない――に目を落とすと、午後九時を過ぎた所だった。

 突然、電子音が部屋に響き渡る。清水はデスクの上にある青く点滅した『客間』と映るパネルに触れた。すると、清水の目の前にある厚さ3ミリの液晶画面に、青い瞳をしたクロエと同じX7型のマニーが現れた。

『清水様。お客様が来ております』

「分かったわ」

 そう言うと、画面からマニーが消えた。

 コーヒーカップをクロエに渡し、清水はガラス製――レーザーでも焼き切れない――のドアに向かうとセンサーに反応し、ドアが横にスライドした。

 真っ白な廊下をまっすぐ進むと、マニーがドアの前に立っていた。清水がドアの前まで来ると、マニーがドアを開けてくれる。

 中は赤いカーペットが敷かれており、その上にガラスで出来たテーブルと最高級のソファーが置かれていた。ソファーにはグレーのスーツを着た青い瞳をした男が座っていた。その横にサングラスをかけたいかにもボディーガードの男が立っている。護衛アンドロイドのA6型かと清水は思った。

「あぁ、清水さん」

 男が清水に気づいて、立ち上がると手を出した。

「あの、どちらの方でしょうか?」

「あぁ、申し遅れました。わたくし、アームズ社のバジル・ササキと申します」

 そう言うとバジルが電話番号が内蔵されたプラスチックの名刺を差し出した。清水はそれを受け取る。

 アームズ社とは主に護衛アンドロイドなど戦闘アンドロイドを作る会社で知られている。ここの会社は政府の要望でアンドロイドを作っており、予算などが全て政府もちなのだ。だが、清水はそんなアームズ社が嫌いだ。

「いや〜、ここはいいですね。我々の会社は都市の真ん中にあるせいで、息苦しくて。それに比べてここは……」

「ご用件をどうぞ」

 清水は淡々と言うと、バジルは横のアンドロイドからステンレス製のアタッシュケースを受け取った。

「では、本題に入りましょう」

 そう言うとバジルはケースを開け、中から紙が取り出された。

「実はこういった用件で」

 清水はバジルから差し出された紙を受け取りながらソファーに座った。

「我々は今、新しいアンドロイドの製作をしておりまして。」

「……ニュースで見ました」

 清水が紙を見ながら口を挟んだ。すると、紙をテーブルに置いた。

「お断りします」

 清水は、はっきりと言った。それを聞いたバジルは驚いたような表情をした。

「私の会社は武力に繋がるアンドロイドは作りません」

 あの紙には清水の会社、フューチャーズ社とアームズ社の合作で優れた戦闘アンドロイドを作る事だった。

 今、世界で売れに売れてるフューチャーズ社とアームズ社。この二つの会社の大きな違いは、言語機能が付いているか。そして、人を助ける為に作られているか。この二つである。

「そんな物騒なアンドロイドは作りませんよ。ただ我々が協力して優れたアンドロイドを作るだけですよ」

「なんと言われようと、お断りします。お帰り下さい」

 そう言うと、マニーがドアを開けて入ってきた。

「マニー。お客様がお帰りよ」

 バジルは顔を引きらせながら紙をアタッシュケースにしまい、アンドロイドを連れてドアに向かった。

「……また来ますよ」

 バジルは笑みを浮かべたが、その目は冷たい。バジルとアンドロイドが部屋を出ていくと、清水は窓から外を見た。傘を差したアンドロイドがバジルを濡れないようにしながら、紺色のBMWの最新型――3シリーズのE95――に乗せた。アンドロイドも乗り込み、BMWが静かに木々の間を走っていく。

 清水は部屋を出ると、クロエがやってきた。

「大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫よ」

 清水は黙ってバジルから貰った名刺をクロエに渡し、自分のオフィスに戻った。デスクチェアーに座ると、電子音。『研究室A』と映るパネルに触れる。色白で少し髭を生やした若い男、新井謙あらいけんが映った。

『教授、ティンペットが完成したそうです』

「分かった。今から行く」

 画面から新井が消えた。

 新井は清水の助手で、一番頼りになる男。某有名大学を卒業し、会社に乗り込んできた期待の男なのだ。そんな彼の父親は飛行車ホバー・カー――トヨタと共同開発し、今年発表された車だ――の開発者であった。

 清水は再び自分のオフィスを出た。

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