79.エピローグ
「・・・そういうことか」
スニークはヲサイヤと二人話し合っていた。彼らにもしばし、休息の時間が与えられていた。
自分が不在にしていた間の経緯を知りたいというスニークの要望に応じ、ヲサイヤが説明していたのである。
「今回の敵は、なかなか頭の悪い奴というわけでもないようだな」
「そうだろうな」
「黒人形を小出しにしてこちらの戦力を伺ったり、ザウルグをけしかけることで最小限の兵力で攻めようとしてきていた。それに何と言っても黒人形のあの数だ。計画的に
頭数を揃えていたに違いない。」
「一度王や白魔法使い達が分散して活動をしていた時にも、行った先に黒人形を待ち構えさせたり、その対応に兵力を割いている間に城に侵入されたり。動きの読める奴でもあった」
「執事は裏切り者の可能性を考えていたらしいな」
「ああ、だが分からず終いだ。単に相手の策略が優れていただけなのかもしれん。その際に真っ先に疑われていたのはスニーク、お前だったんだぞ」
「馬鹿馬鹿しい。ジョートっていう黒魔法使いが俺の潔白を証明してくれたんだろ」
「謎の多いまま消えてしまったようだな。ニラードも取り逃がしたと言っていたが、腕はあの女よりも確かなようだった。囚人たちを解放するという何より迷惑なことをやってくれたようだが、あれも作戦としてわざと塔に掴まったのだとしたら完全に脱帽だな」
「・・本当に全て相手の作戦通りだったと思うか?」スニークが口を挟んだ。
「なんだと?」
「考えてもみろ。こうもやすやすと相手の手に引っかかりまくっているような国であったら、もうみんなとっくに滅びている」
「何が言いたい?」
「或る程度相手の作戦に合うように動き、決定的な損失は被らない。それがこちらの策略だとしたらどうする?」
「本当にそう思うのか?」
「ああ、そうだ。こっちには王はともかくとして、ユハや執事がいる。彼らの頭の良さを知らない訳ではないだろう」
「だとしても、頭の良さだけでは解決できないのが戦いというものだ」
「ああ、戦いにおいてはお前の言う通りかもな。ただ、もう少し大きい流れで見るべきだ。相手の真の目的を知っておけば、それを守るだけの努力をするだけであとは好きなようにやらせて様子を見る。そういう手を打つことができる人間だ。あいつらは」
「あり得んことはない」
「国をわざと空けることで敢えて相手を呼び込んで侵入者から少しでも様子を得ようと考えていたのかもしれん」
「俺は話半分に聞いておくぞ」
「だが、どこで相手の究極的な目的を知ることができたのか、それが疑問だ。今回の主導者はユハで、それに付き合ってなるべく口を挟まないのが執事の方針だったと考えるべきだ。そしてそれには、山海賊や魔女は勿論、例え王家の人間でも、白魔法使いに対してでも作戦が割れてはいけない。なぜなら執事はすっと裏切り者の存在を疑っていたから。白魔法使いの中にそれがいる可能性を考え、なるべく戦いの本番には王家の人間に近づけさせないようにした。俺にイカゴの偵察命令を下したのもその意図があるのだろう」
「なぜ王家の人間にまで作戦がばれてはいけなかったんだ?」
「王と姫にも作戦に無意識に参加してもらう必要があったからだろう。相手が相手だ。この作戦には或る程度の犠牲が伴う可能性がある。王家の人間に聞かれたら止められることが分かっていたから伝えなかったと考えるのが自然だろうな」
「確かに国民を想う立場上は仕方のないことだ」
「城内を最低限の兵、ユハ、執事、王、姫を残したのは『相手の目的が王や姫だったから』
とするのが俺の見解だ。他の王家の人間を図書館に匿わせるように王に仕向けたのもそのためだろう」
「続きを聞こう」
「相手の親玉には一度攻め込まれているという話だったな。また来るとも言っていたそうだ。だからこそ、その決定的な瞬間にユハと執事だけで対処したかったのだろう。王を執事、姫がユハ、といった具合に守る算段だったと考えられる」
「実際は思ったより多くの黒人形が城に攻め込んできて、危うくユハ一人で二人を守ることになりそうだったがな」
「ああ、そこが今回の肝要な部分だ。敵の黒魔法使い-名前はキツォーだったか-は国王の目の前で竜に街を亡ぼさせることにより絶望感を味わわせようとしていたようだったが、実際には王自身が迷いもなく飛び出していった。これが敵にとっても、ユハにとっても誤算だったのだ」
「誤算?」
「ああ。キツォーにとっては、まさか王自身が身を呈して国民を守りに行くとは思わなかっただろうからかなり驚いたはずだ。ユハはユハで、守る対象が図らずも一人減ったことで一気に動きやすくなったというプラスの誤算が生じている」
「そんな決定的な瞬間に、執事は下の階で雑魚を相手に苦戦していたというわけか」
「そこに関してはあまり俺の興味は介入しない。単に数が多かったか、なるべく城を傷つけずに始末したかったか、そういったことだろう」
「戦いの殆どに参加しなかったのに、よくそこまでの考察を展開することができるな」
「ああ。多分こういうことだろうということだ。いいか。単純な戦闘でいったらヲサイヤ、お前に俺は勝つことができないだろう、だが頭の良さで言ったらお前は俺に勝てない。一般的な国民の頭の良さを50としよう。王は60くらいで、大体お前も同じくらいだ。だが俺とユハは70くらい、執事は80くらいはあるだろう。ともかく、それほどの人たちが策に負けるだなんて考えにくい。だから俺なりに考えてみた。答え合わせをいちいちしようとは思わないがな」
「初めに一言多い奴だな、お前は」
「ともかく、この国も守られたわけだ。お前をはじめとする人たちの活躍によってな。それは素直に評価すべきことだろう」
もうすでに夕刻であった。わずかな休息ももう終わろうとしている。近いうち、各々が次の課題に向き合わなければならないだろう。
ヲサイヤは最後にこう呟いた。
「そろそろ俺も行く。何かできることはないか、考えてみるさ」
現在、城は副兵長率いる部隊によって守られている。ソランやソールは既に帰るべき場所に戻った。兵長部隊は黒人形の残党を退治するのに各地を巡っていて、ニラード率いる特殊部隊が、脱獄した囚人たちの行方を探っている。平穏が訪れたかのように見えたこの地には、まだまだ問題が隠れていた。
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