77.その戦いの終わり
キツォーの黒い感情の刃が3本、姫の元へと向かっていく。
「ダメっ!」
咄嗟に王家の守りの魔法を発動させる姫。だがその力は彼の力を防ぐほどには強力ではなかった。呆気なく守りは突破される。キツォーの黒い嵐は真っすぐで揺るぎない意志をもっているかのようであった。その距離が2メートルほどまで近づく。
「そんな・・」
二歩下がる姫。そこへ飛び込むユハ。彼は自身がその間に入ることで、刃の一本を体で引き受けた。急所付近に傷を受けたせいで鮮血が飛び散った。音もなくゆっくりとそのまま倒れていく。床にその体が横たわり、最後の力を振り絞り、その口はキツォーの方を向いて何かの単語を言っていたようだった。
「ユ・・ハ・・くん?」
咄嗟の状況が極まり、ソランも反応が追い付かない。まだ2本の刃が残っていて、そのまま1メートルのところまで迫っている。
「やっとだ・・やっと・・・!」キツォーの悲願が達成されようとしている瞬間だった。彼の家族を奪った王国の末路がこれである。その復習が今まさに遂げられようとしていた。
「・・・」もはや声も出せなくなった姫に、容赦なく刃が突き刺さった。姫は動かなくなり、その場に力を失くして立っているだけのように見えた。
「やったよ・・・ついに!!」キツォーの顔は喜び、怒り、そして深い悲しみに満ちている。その頬を流れる涙はそのどれと言っても納得のいく表情をしていた。
「父さん。トキーアサン。待ってたよな。遅くなってごめん。もうこれで二人も浮かばれるから・・・」
これ以上ない達成感に彼は包まれていた。目の前には倒れている仇の白魔法使い、そして力を失った姫。王の生死は後で確認することとしよう。キツォーは姫に近づいた。その亡骸を目に刻もうとする。刃がまだ突き刺さったままだった。その傷が見たかった。
おかしい。何も受けていないかのように、その傷の部分は白い沼のように刃を飲み込んでいる。依然として姫はショック状態であったが、寧ろ何も外傷は受けていない様だった。
「何だって?」
もう少し近づいてみる。その瞬間、その白い沼部分が眩い光を放ち始めた。
「これは・!」
その沼は即座に変容を始める。白い光の槍となり、回避が遅れたキツォーの胸を貫いた。
槍は更に変容を始める。四肢が生え、さらに頭の形を帯びた。
「よっとっと・・・」
声を上げたのは白人形であった。
「あれ・・・」
その場に自分と会話できる人はもはや存在していなかった。気を失っているキツォー、ショック状態にあるソラン、そして倒れているユハ。かつてアサゴでそれぞれが出会い、会話をし、闘っていた縁のある3人。その結末がこれであった。
「久々にここ出てこられたのになあ・・・」
白人形はユハの元へ近づく。
「なんとか言ってくれ。頼まれたこと、しっかりやっておいたよ」
ユハは動かない。
「誰とも話せず、もうこの世界ともお別れか」
その体が力を失い始めた。もう灰世界にいられる時間は残されていない。
「皆さん!」
階下での侵入者を撃退し終えた執事が入り込んでくる。惨事を目の当たりにし、一時声に詰まる。
「こうなりましたか・・・」




