76.ユハとキツォー、その戦い2
「その口で言ってみろ。自分が、自分達が悪なんだってことを。そうしたら犠牲を一人くらいは少なくしてやってもいい」キツォーは手を、姫のいる部屋の扉の方へと向ける。ユハは常の彼女を気にしながら戦っており、彼女は彼の戦う理由でもあった。
「何か言ったらどうなんだ!」
禍々しい感情が彼の中で渦巻いていた。これから確実に何かが起ころうとしている。
だがユハは動かない。キツォーの周りに白牢を作り出し、一時的に彼を閉じ込めた。
「甘い、甘い甘い甘い甘い!」既に焦げて真っ暗な部屋の中、更に暗いものが彼の足元の方から広がっている。
「黒嵐がやってくる」ビキビキと部屋の地の表面が削れてくる。咄嗟にユハはキツォーの方へと手をかざす。視界の中で自分の手でキツォーを掴むと実際に彼は姿を消し、開け放たれた別の扉の方へ向けられたユハのもう片方の手が開かれると、そこにキツォーは移動し、姿が現れた。
その瞬間、ゴォォォォォォンという地鳴りと共に黒い雷が辺りを襲いに襲った。壁は跡形もなく食い尽くされ、モノというモノは全て破壊される。黒い嵐がやって来るとはそのままの意味で、黒の雷、風、雲がその場を支配し、更に激しさを増していく。
「一時命拾いしたな。だがすぐそっちまで行くぞ」
焼き尽くすものがなくなった雷は襲う範囲をどんどん広げていく。ユハは今いる部屋全体を覆うようなベールを広げ守りに徹している。このベールも破られた場合、姫の部屋までその雷が到達してしまう可能性があるだろう。
「なあ、もうちょっとなんだ!死んでくれ!」ユハから見た視界の中では、ベールが全て黒い雨雲に覆われていて外が見えない。轟音と共にキツォーが怒り、悲しみの声を荒げている音のみが空気を切り裂いていく。
「言っただろう、これは呪いなんだ!お前たちが俺にかけた復讐の呪い!これが解けないと俺は自分の人生の主人公に戻れなくなるんだよ!」
風の勢いでどんどん雲は回転を続ける。ベールのおかげで雷は回避できているが、この雲はついに部屋の中まで侵入してきた。
「尊かった世界。家族3人の幸せな世界だった。それが壊されてからというもの、今日この日の為に生きてきたのに!」
ベールに雷が次々と突き刺さる。刺さってくる方向は、依然として先ほどキツォーがいたと思われる部屋である。
「俺もお前の人生を壊してやる。いやそれ以上だ。俺の怒りはこの国を亡ぼすまでに大きい」
まだベールは破れない。どの程度頑丈なのか、いつ破れてしまうのか、そこが分からないのがこの戦況をややこしくさせていた。
「まずは一人だ」
ユハはここで何かに気付き、振り返る。ベールを展開させたまま、ソラン姫の部屋へと突進する。部屋を開くとそこにはキツォーとソランがいた。
先ほどまでキツォーの位置を錯覚させていた雷は全て、ベールを囲む雨雲から放たれていたものであった。周囲が見えず、一方向から飛んでくるように見せかけ、キツォー自身は姫の部屋へと移動していたのである。
「姫よ、姫よ。お前は死ぬべきだ。俺の怒りはこの国を壊すほどに大きい」
姫と黒魔法使いの距離は3メートルほどだった。
「やるよ、父さん、トキーアサン。3本の雷で、皆で。完成させるんだ」
キツォーの足元から3本の雷が伸びる。それはこれまで彼が放ったどの雷よりも黒く、悲しく、心のこもった、復讐の刃だった。




