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75. ユハとキツォー、その戦い1

「俺はいつだって自分が素晴らしい世界に生きているという実感があった」

その黒魔法使い、白魔法使いが対峙しているのは王の間であった。その部屋から続いている扉の1つには、ソラン姫が待機しているものがある。

「ここと比べると何もないところさ。建物なんてろくに見たこともない。人間も父さんしか見たことがない。だが、それで十分だった。心配することなんて何もない人生を送れていたはずだった」

その黒の魔法使いは浮遊椅子に座っている。じっと動かずにユハの方を見つめ、語りかけている。

「中心にいたんだよ。その周りに父さんがいて、トキーアサンがいて、森が守ってくれていた。そんな幸せで温かい記憶が、今でも頭の中に残って俺を暖かい気持ちにさせてくれる」

ユハも動かない。部屋の外、ずっと下の方では執事が攻め込んでいる黒人形に対処していることだろう。そのうちこの部屋にも戻るはずだろうが、それにどれだけの時間をかけるかは分からない。

「その全てを、お前たちが壊したんだ。俺という存在を周辺部に追いやり、自分達が中心であるかのように父さんやトキーアサンを殺したんだ。惨めだろ?あれからこう思うようになったんだ。この世界の中心は遠くの方にあって、俺たちは周辺部にいたから排除される役回りを食らったんだって」

部屋の本棚がカタカタと揺れ始めている。

「今でも泣いているんだよ、俺は。呪いのような感情さ。昔の記憶が心を温かい水に浸してくるんだ。こんなになって、こんなに復讐心に汚れてしまっても、その記憶は、それだけは・・・!」

今や全ての部屋中の家具が悲鳴をあげている。

「俺は使命を果たすよ、父さん、トキーアサン。俺たちをこんな目に遭わせた王家の人間を皆殺しにし、俺の人生の中心を取り戻すんだ」

部屋に存在していたすべての本が本棚から飛び出した。鳥のように表紙を広げ、ユハの方へ襲い掛かってくる。ユハはさっと跳びあがり、その一つ一つを華麗に躱していく。

「お前もそのうちの一人だよ、白の魔法使い。俺が初めて会った人間のうちの一人だが、最も憎いうちの一人だ」

ユハは飛んでくるものを次々と避けていく。八つ裂きにされたクッションの中から羽毛が舞い上がる。ヒラヒラとユハの頭の上にかぶさる羽根の中には、鋭い羽ペンが忍ばせてありユハの脳天を貫こうとする。そのわずかな落下音に気付いたユハは絨毯を浮き上がらせ、盾とした。

「まず殺すべきは勿論国王だ、目の前で町が焼き尽くされる様子を見せたかったんだがな。自分から死にに行ったらしい。俺の手で殺せなかったのは残念だが、悪い結果ではない」

キツォーは机の上の燭台に火を灯す。次いで、部屋中の蝋燭にも光が宿った。

「次に殺すのは姫だ。こいつらがこの国の首なら、間違いなく始末しなければならない」

燭台が飛んでいく。その先の小さな炎が、飛んでいる本に火を受け継がせる。またその火が次から次へと広がり繋がっていった。

「これが俺の復讐の炎だよ、白の魔法使い。この城ごと燃やしてしまうというのも悪くはない。これなら姫も巻き込まれて死ぬだろう。楽しかった思い出と一緒にね」

攻撃を避け続けていたユハは目を光らせた。もう炎は燃えるもの殆どすべてを巻き込んでいる。炎の海は時期に部屋を飲み込み、姫の元へと浸炎するだろう。ユハは自分自身を守るベールを作り出した。その中で力を集中させている。

「自分だけが助かろうと言うのか、白の魔法使いよ。見上げた精神だが、がっかりさせないでくれ。全員ここで死ぬんだよ。せめて王のように自ら死にに来い」

キツォーは炎をかき回した。部屋の壁を削り、その素材をバリバリとかみ砕いていく。このままでは、ソラン姫のいる部屋の扉まで燃やされてしまうだろう。

ユハのベールが解かれ、彼の装服の袖からとめどない水が放出された。

「なんだこれは、どこから・・・」

部屋を覆うほどの炎は、その水によってみるみる鎮火されていく。ユハは城の池に貯まっていた水を繋げ、すんでのところで炎上を防いだ。

「知らないぞ、そんな魔法・・」

しかし、部屋はかなりひどい状態になっていた。ひどく焦げる臭いが充満している。真っ暗な空間で、窓からの光がその黒さを際立たせていた。ユハは相手が予想もつかない攻撃の仕方をしてきたものだから、その対処に思わぬ力を使ってしまっていた。

「だが、これで姫の居場所は分かった」

キツォーが顔向ける。

「水の放出量がわずかに多い、その方向にいるんだろう」


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