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72 ヲサイヤの過去6

見知ったその男は、燃えている家のまさにその火の近くにしゃがんでいて、ぼうっとしている様子であった。そこへ家族4人がゆっくりと近づく。父親が口を開いた。

「お前、ここで何をやっているんだ」

「パンを焼いているんですよ。先ほどいただいたものでして。その節はありがとうこざいました」

「そういうことを聞いているんじゃない。一体この家に何をした?」

「寒かったんですよ。凍えてしまうところでした。こんな寒い中私を放り出すなんて、あなたがたも人が悪い」

「一体何を・・・」

「それにやっぱりほら、いたじゃないですか こども」

母親が咄嗟に二人の子供を自分の背中へと引き寄せる。

「目当てはそれだったのか・・?」

「いや、どちらか一人でいいんです。外の世界に汚れていないこどもが一人欲しくてね。助手のような感じですよ」

「ふざけるな」

「勿論分かってもらおうとは思ってませんわ。だからこうやって多少強引な手も使ってる」

「早く帰れ。さもないと痛い目を見るぞ」

「あなたがたも見たところあまり魔法は使えないようだ。大人しくしていれば、こちらからも手は加えません。さあ、早く差し出して」

「逃げろ!」父親が振り返って3人に指示する。母親が二人の手を握り、一目散に後方へと駆けていく。

「うーん、懸命とは言えないな。まあ、お兄さんの方を頂いていきやすかね」腕をヲサイヤの方へ向ける。手で十字の形を作った。

「このっ」

父親は視点を相手の足元へ向ける焦点が定まり、不可視の杭がその者の片足へと打ち込まれた。

「ん」

片足が地面へ深く釘付けになった。その男は焦るでもなく作った十字を傾け、ズレた標準はそのまま弟の方へと射出された。

母親と走っていた弟はそのまま気を失い、その場に倒れてしまった。

「弟さんでもいいんですよ。いただいていきますね。それ以外は復讐回避の為殺します」

「この野郎!」父親が駆けだしている。そんな父親は次の瞬間、同じように気絶させられることとなる。

「安心してつかあさいな。痛みはありませんよ。他の魔導士とはちげえやす。痛みのないまま、雪に還るように死が迎えに来てくれる」

残された母親は振り返りもせずにヲサイヤの手を引き離れようとする。パニックに陥っているのか、息子一人でも助けようとする母親としての責務か。あの男は、足を打ち付けているためか追って来ない。

「ニッカ!ニッカ」

ダメだ!置いていけない!彼の兄としての弟への愛情がどうしても弟を手放せない。

「離せ!母さん!離せ!!」

彼の力ではとても母親の手を振りほどけなかった。どんどん小さくなる父そして弟の姿。

死ぬな!ニッカ!大事なニッカ!あんな男に、こんなところに・・

 母親の足がメシメシと雪に食い込んでいく音が聞こえる。どれだけ歩いたろう。降ってくる雪の量が多すぎて、彼らの足跡をすぐ埋めていく。

 二人の体力は限界だった。

「もう、無理だ・・」ヲサイヤは歩みを止めようとする。

「ダメよ、逃げないと、逃げないと・・・・」それでも手を引いて行こうとする母親。

「ごめんね、ごめんね・・お父さん、ニッカ・・」

これが彼の聞いた母親の最後の言葉であった。


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