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70 ヲサイヤの過去4

木の扉に響き渡る、人間の指のコンコンという音。家族でニンカ以外、その音の正体が何かを知っている。

「もしもーし」その無機質な声は、くぐもりながらも一つひとつの発音をしっかり部屋の中へと届けていた。

「もしもーし」続けて2回。父親はすぐに振り返り、母親にこう伝えた。

「母さん、子供を隠しなさい」

母親がニンカを抱えヲサイヤを部屋の奥へ促そうと背中でかばったその時、扉が開けられた。勿論父親は扉に手すら触れていない。父親は慌てて扉が開くのを手で押さえ、わずかな隙間にその男の顔を認めた。

「失礼しますよ」

「何をしている?勝手に入ろうとするな」

「申し訳ねえす。でもあなた方も失礼ですね。中にいるのに答えてくれないなんて」

「今開けようとしていたところだ」

「用事はすぐ終わりますわ。一点、聞きたいことがあるんですがね」

「どうした」

「あななたちのところに、二人の子供がいませんかね?先ほどこの森の中で見つけたんでさあ」

「さあな。そんなのはこの辺りにはいない」

「そうですかね?だったらあんたたちも知らないってこった」

「そうだな。お引き取り願おう」

「良かったら、この家の中も探させてもらえませんかねえ?もしかしたら悪い子たちかもしれない。もしかしたらこっそり入り込んで、隠れているのかもしれない。

「余計なお世話だ。それに、知らない人を勝手に部屋にあげるわけがないだろう」

「冷たいんですね。この森の気温のようだ」

「ともかく、お前と話すこともない。もう帰ってくれ」

「外は寒いんですよ。中に入れてくれませんかねえ」

「ダメだ。お前は信用できない」

「チぇっ。この私が野垂れ死んでも良いってんですか」

「用意もなしにこんな森の奥地に来る方がおかしい。それができているってことは、耐えられる手段をもっているんだろう」

「寒いのはつらいんですよ。お腹もすいています」

「分かった。待っていろ」

父親は母親にパンを持ってこさせた。

「これでいいだろう。飢えをしのいだら、こんな何もない森などとっとと出てってくれ」

そう言って父親は扉を閉めた。


しばらくたち、家の全て者が床に就いた。あの男はまだ近くをうろついているのだろうか。どこから何の目的で来て、どこへ向かっていくのだろうか。そういった謎がヲサイヤの関心事であったが、考えても怖くなるばかりで解決する兆しを見せない。それよりも先に彼が眠りに落ちる方が速かった。ともかく就寝時まで何事もなかったことが救いである。

明日のことを考えよう。危険だから森に出かけるのは少しやめよう。その代わり、弟と話す時間をしっかり取ろう。たまにはたくさん話してあげることもいいだろう。両親も許してくれるはずだ。


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