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69 ヲサイヤの過去3

(ヤバイ・・・やばいやばいやばいやばい!)

ヲサイヤは弟ニンカを連れて帰り道を急いでいた。その足がいつもより速くなっていることに、弟は気づいただろうか。

ともかく、一刻も早くあの場から離れる必要があった。あの顔をみて理性が感情に命令する。増幅された感情は本能に語りかけ、身体を動かし、「逃げる」これのみに集中した。

幸いにして謎だったのが、その男が帰り道に追ってくる様子を一切見せなかったことだ。おかげでニンカにも気づかれずに済んだが、あの男は一体何がしたかったのか?

家に帰るとニンカを母親に任せ、ヲサイヤは父親に先の出来事を話した。

父親もその話を聞いて穏やかではなかった。

この地域の来訪者に心当たりはないし、用があったとして何も伝えずにただそこにいただけというのがかなり気味が悪かった。

「ともかく、戸締りを厳重にしよう。明かりが漏れないよう、今日は早めに夕飯を済ませる。母さん、何か温かいものを二人に作ってやってくれ」


夕餉の時間は落ち着いているように見えた。話題の中心はニンカの山菜仕分けテストだったが、その結果が芳しくなかった。

「おいおい・・・どうしたんだこれ。これもこれも、全部食べられるものじゃないぞ?」

「え・・っ!本当だ・・ごめんなさい・・」

いつもならこんな過ちはしない。正答率は99パーセントで今回のテストもクリアできたはすだ。なのに、これでは70%もいいところだ。ニンカはどうして・・?

するとここでもやはり、あの男の色のない顔が浮かぶ。あの男が原因?何か魔法をかけていた?それとも・・・

「おいニンカ、何かお前あの場所で見たんじゃないだろうな」

「見た・・?何を・・・?」

「正直に言ってみろ」

「何の事・・・・・?」

とぼけているといった様子はなかった。声に怯えの色も見られない。あの男が関わっていることに間違いはなさそうだが、そのことは告げず、ヲサイヤはこう言った。

「ともかく今日のテストは不合格だ。まだしばらくは俺を手伝ってもらう」

「うん、分かったよ」

今回は逆になぜか嬉しそうだった。試験に落ちたというのにそんな調子でいるやつがあるか。ほとほと呆れるヲサイヤであったが、両親はニンカの気持ちを良く分かっていた。

「そろそろ食事も終わりだ。今日は皆早く寝た方がいい。腹も膨れているし、よほどよく眠れること-」

父の声を聞いているうちに、ヲサイヤはその場における違和感を抱いた。通常聞こえるはずの風のざわめき、雪が落ちて積もる音など、通常脳がシャットアウトしている雑音の中に、明らかに聞こえてはいけない音がしている。その元を辿った。他の家族は気付いていないようだったが、小さく木を叩く音が聞こえた。ん?なんだこの音は。

父親は何事もなく話を続ける。

「ヲサイヤをニンカも早く寝なさい。お前たちは当分まだキノコ採りだ。ヲサイヤもまだ木こりの作業は-」

-コンコン。

今度はヲサイヤだけではなかった。家族の全員が、その家の扉がノックされる音を聞いてしまった。


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