64 サリア、ニラード
「・・・」両者膠着状態が続いている。王宮から援護の兵が送られ、王家側の魔法使いが多くなっていても依然として変化はなかった。
「中の様子は・・分からないよね?」ニラードはサリアを見た。塔が破られ解放された囚人たちをなるだけ抑え込んでおくには絶好の魔法であったが、それが今や敵の黒魔法使いの隠れ蓑となっている。
「無理ね。中に目でも置いて来ればよかったわ」サリアが訳の分からないことを言っている。
一部分でも壊して中身を確認しようものなら、ここぞとばかりにどっと囚人たちが溢れ出てくるであろうことが容易に想像できた。それにしてもこのドームはよくここまで耐えているものだ。ジョートの魔法以外ではびくともしない。中にいる囚人たちの力が大したことがないのか、サリアの魔力が桁外れなのか。
「一体何をいつまでやっているの?」しびれを切らしそうなニラードであったが、落ち着いて、ドームの周りを兵に囲ませるようにした。唯一空いたドームの出口からはひっきりなしに白牢が出入りして囚人たちを塔へと搬送している。
ドン、ガッ、ズズズ・・・
ドームのどこかで鈍い音がし始めた。音のする方へと兵士が集まる。サリアは咄嗟に飛びあがり、ドームが見下ろせる位置まで移動する。何某かの動きがあったとこに違いない。ジョートか。ニラードは即対応できるように音のしている部分へと向かおうとした。この音。もうじき壁は破られるかもしれない。
待て。落ち着け私。あちらに本当に向かってよいのか?これだけの沈黙を貫いた挙句、単に壁を破って出てくるだけ?何かおかしいことはないか?-音?そう、さっき一度ジョートが壁を天に向かって貫いたとき、それは一瞬の出来事だった。あんなに時間をかけて壁を壊すなんてことはしない。だとしたらあっちは-罠だ-
さっきまで音のしていた壁がついに破られた。空いた穴から囚人たちが次々と出てくる。
「やばい!やつら協力して一か所を-」サリアや他の魔法使いが一斉にそちらへと向かっていった。ただ、ニラードだけがその場を動かなかった。
刹那的だった。彼らが穴の開いた位置を確認しに向かったすぐあと、先ほどとは全く異なった位置から地の裂ける音がした。間違いない。本命だ。
水平に黒い膜が、黒い光の幕が壁を破り、中から黒魔法使いが飛び出してきた。
「来たわね?アンタの作戦なんでオミトオシなんだから!」
「やるね、キミ。でも残念ながらキミには何もできない。このまま大人しく見ているんだね」
ニラードは苦しかった。実際、彼の魔法に太刀打ちできる手段がない。まっすぐ向かってくる黒い腕を避けること。そうしなければ取り返しのつかない重傷を負う。
間一髪で避けたニラードは地に臥した。身体がバランスを崩したのだ。あっさりとこの白魔法使いを抜いて疾走する黒魔法使い。そしてその向かう先は。
「城に向かう気・・・?」
彼は一直線に城のある方角へと向かっていく。しまった。そこまで予想できなかった。地に臥せた状態でニラードを指を構える。
「ここで・!止めないと・・!」
指先に白い光が集中する。
「ゼロ・・フェニックス!!!」
一閃、白い光の小さな鳥が槍のようにジョートへと向かっていく。そうとは知らない彼が気付くよりも先にその脚を貫いた。
「やった・・」
ニラードの視界では、遠くで少年が音もなく平衡感覚を失い倒れるのが見えた。




