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62.最後の竜

遥か上空では、大司書サーロンとソニーワイドの白人形が最後の一体のクスと対峙していた。サーロンの魔法で光の槍と戦っていたクスであったが、かけられた魔法のからくりに気付き、光の槍を反射する鏡に囲まれたこの環境から既に抜け出していた。

周りを確認し、好敵手である国王が視界から消えた今、この竜はあらゆるものに興味を失くしているようであった。

だが、そのままにしておけないのがサーロンと白人形である。

「協力な国王の魔法が使えないこの状況で、どうにかして自分達でこの竜を無力化しなければいけない。」

しかし、国王の退陣に気付いている白人形と気づいていないサーロンとでは、その危機感が全く違う意味を持っていた。

白人形が真っ先に竜に向かっていった。既に魔力を多く消費してしまっているサーロンは援護の体制に入る。

竜は人形の向かってくるスピード等から軌道を読み、その腕を振り下ろして打撃を加えようとした。

そして、その拳が人形に直撃する瞬間、サーロンは声を漏らした。

「信じられない・・・」

竜の拳を人形は受け止めているのである。普通の人間であれば、押し返されるどころかその形が見えなくなるほど骨まで粉砕されている筈のことが起こらなかった。

しかもその後も殊勝なことに、両者は組み手を続けているのだ。

「一体何者なのだ、あの白人形は」

「クスクスクス・・・」組み手の合間に煤の焦げるような匂いが立ち込めた。次の瞬間、火球が巻かれるだろう。

その瞬間をもとらえていた白人形は以前やったように竜の首を蹴り上げる。炎の軌道が首の中で妨害され、暴発したその異常事態に竜は苦しみだした。

「やった・・・!」

そうサーロンが思った刹那、白人形はいきなり暴れ出したクスの尾の鞭をまともに受け、身体が飛ばされ始めていた。

今度こそと思ったのか、クスは再び火球を集め、白人形に向かって放出した。白人形は両手から雪の幕を作り出しそれに対抗しようとしていたが、それでは王のようにまともに防げないだろうことを大司書は察した。

「ヌル・デーレ!」

サーロンが咄嗟に浮かんだ呪文はこれしかなかった。白人形を守るように四角い空間が彼を包み、火球に削られながら空間ごと後退していった。

「これでは勢いは殺せないか・・・!」

どんどん箱が街に向かって降下していく、その間火球はその勢いを止めることを知らない。

「止まれ、止まれえっ!」

四角いその空間が王の展開していたベールをすり抜ける。その後、火球もベール圏内に突入しようとしていたが、ここで漸く勢いが一気に落ちていった。更にそれを、待機していた超級の魔法使い達が封じ込めようとする。二重、三重にも展開される守りと、火球そのものを囲って鎮火しようとする魔法。この両者が働いてやっと火球は姿を消した。

「良かった・・・」

いや、状況は全くよくなっていなかった。このクス自体の解決にはなっていないのである。すっかり調子を取り戻した竜は、機嫌のよさそうに空を飛び回っている。

「万事休す、か・・・!」

白人形も遥か下方に飛ばされてしまっている。自分だけでどれほどもつかなんて、そんなことを考えているだけで惨めになりそうだった。

竜の軌道を読むことしかできないサーロンだったが、その軌道が少しおかしな動きをしていることに気が付いた。

段々この地域から離れて行っているのである。ふらふらするように移動していた竜は、突然何かを確信したように方向を一点に定め、遠くのほうへ飛んで行っているのだ。

サーロンはその先を追った。肉眼で捉えられるか、られないかの点に於いて、何かが存在していた。あの距離であの大きさをしている飛行物体。他の竜か?

竜と戦っていたばかりなのでそれしか考えられなかったのか、本当にそれが他の竜だったのか、当時のことをサーロンは思い出せなかったが、確かにその存在のおかげで町の直接的な被害は食い止められ、事態は安定した。


他のことをやっと考えられるようになった大司書は思い出し、王に向けて声をかけようとした。

「王様、こちらはなんとか・・・!」

だが、その返事は聞こえなかった。


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