58.歴史を体現する者
「クスクスクスススススススス」
煤の匂いが空中に充満している。次の瞬間、竜の口から火球が次々に発せられた。当然その全ては王の元へと向かっていく。竜は竜で王に興味をもっているらしく、力試しの相手のように踏んでいるようだった。
ガンセンはベールの力で火球の威力を減らし、勢いを殺したうえでマントで払う事で無力化していたが、この手法とてノーリスクというわけでは勿論なかった。防戦一方では戦況は好転しない。ただでさえ街を守る体制になっているのだから、自分くらいは攻めに転じなければお話にならない。しかし、この4体という数をどうやって裁くのが一番最短なのだろうか。
「コグン・ソルクラフ」少し後ろでサーロンの呪文が聞こえる。と同時にガンセンの体に力がみなぎり始めた。太陽の力でエネルギーを満たす呪文である。
「決めた」王は手の上に球状のベールを作った。これで一体一体無力化していくしかない。
闇雲に攻撃していても竜を捕らえることなど不可能なのだから、王自身が向かっていくことに決めた。その間の他の竜についてはサーロンや下の超級魔法使い達に任せるほかない。
竜は竜で火球が効かないことが分かると肉弾戦を仕掛けにくる算段であるようだった。一体が王に向かって突進し、残りは自らの火球で仲間を傷つけないよう大人しく見守っている様子だった。
リーチは当然クスの方に分があり、最初の一撃は大きく振りかざされた。しかしそれをガンセンは華麗に躱しベールを竜に触れさせようとする。危険を察知した竜はできる限り体を反転して回避しつつ、その大顎で王の腕もろとも噛みちぎろうとした。
間一髪腕を引っ込めた王は、その隙に竜に再び距離を取られ、ギリギリ竜の爪が届く間合いに入ってしまう。この好機を逃すまいとクスが再び大きな爪を王に向かって振り下ろした。咄嗟に守りのベールを展開させて斬撃を吸収しようとした王だったが、このベールは物理攻撃向けではなかった。その力に押し負けたベールは割れ、クスの爪が勢いを増しながら元の軌道を描いていく。しかし既に王の姿はそこにはなく、ベールが持ちこたえている一瞬の隙に竜の腕の付け根辺りに移動していた。
すかさず球状のベールを作り出し、竜に触れさせる。するとベールはどんどん形を大きくし、竜を包み込んだ。
「やっと一体か」王は残りの3体ににらみを利かせた。
先ほどのベールは空中に固定されたような状態で存在しており、中の竜の足掻きも空しく堂々とその姿を誇示していた。このベールはそもそもが竜の魔力に強い力を持っており、先ほどの火球に耐えられたのも、内部の竜を魔力の根源から弱体化させているのも王家の魔法の力のおかげだった。




