4.拾えない音の中で
容色に恵まれたこの男は、以前はこの国の兵長であった。兵の育成に努め、また、自らも兵として彼らを導くのを事としていた。国を挙げてアサゴを襲撃した際には、王宮の自衛を任され、少数の手勢と共に城を包囲していたのだ。
「何をしていた」
「考え事だ。そう大した用ではない」スニークはそう答え、宿舎の中に帰っていった。白魔法使い同士の会話は、実際に声を交わさなくても可能である。殊この元兵長、ヲサイヤに至っては音を甘受することができないのだから、交信を頼りにするしか方法がない。しかし、魔法使い同士無言でずっといるというのも変に思われるということから、脳内で更新するメッセージと同じ音声を実際に発し、周りの人びとにも考えを共有しろという命令があるため、それに従っている。
ヲサイヤ、そしてスニークの宿舎は城の裏側にある。城の裏口ともいえる扉に面していて、普段はそこにあるということすら意識されない場所だ。
比較的城とは近い位置にあるため、有事の際には呼び出されれば即向かうことができた。
「夜も深いな」彼は散歩をしながらそう呟く。音の感じない世界に飛び込んでからというもの、無機質に見えるものが多すぎる。鳥の羽ばたきのありがたみや、夜のにぎやかさといったものも、もはや拾うことはできない。故に、彼には「自分が音を作っている」という実感が欲しかった。魔法使いになってから、独り言を言う回数、時間が増えていったのである。
スニークは何も見ることができないが、音の世界は享受できる。今この瞬間も、虫の鳴き音や、木の葉の揺れる音を聞いているのだろうか。自分はいつまで、この世界に耐えられるのであろうか。対話を試みることができる存在は、この世に4人。それ以外は?自分にとって
意志の通じることの困難な人間を、他の人はどう思うだろうか。
いけない。考え事をしすぎるな。そんなものは意志の強さだけでどうにでもなる。この国を守るために、ようやく一歩進んだステージへと足を踏み入れたのは、他でもない自分の願望ではないか。
ヲサイヤは宿舎に再び戻ってきた。
まだまだ覚えることは多い。ただ平和なのが何よりだ。時間が保障されている限りは、どうにでもやりようがある。例え明日に何が起ころうと、俺には超えられる力がある。




