38.城内
ソラン、執事、そして背の低い黒魔法使いが同じ場に存在していた。既に城内の魔法使いは無力化されており辺りは静寂に包まれていた。
「姫様、分かりますね」
執事が小声で促した言葉の意味を、姫は理解していた。奥の自分の部屋に一先ず逃げ、安全と時間を少しでも多く稼ぐことが求められていた。
「彼とは私が話を付けます。さあ」
ソランは素早く彼の意図を汲み取り、振り返って一目散に部屋へと向かっていった。
後ろで耳を切り裂くような音が聞こえていても、彼女はその足を止めなかった。
バタンっ。
鍵をかけてすぐさまその場に腰を下ろした。まだ膝が震えている。暗い部屋の月明かりに導かれるように、ソランはガクガクしながら向かっていった。
「怖がらせてしまったかい」
月明かりに照らされて、窓のすぐ下、部屋の内側にその人影は存在していた。
(!!!)恐怖に捉えられた彼女は、全く動くこともできずに、全ての体の機能が停止したような状態に陥った。
「安心してくれ。何も手を出すことはないさ。今日はな」
その影はまだ語り掛けてくる。暗い部屋に目が慣れてきた彼女は、どうやらそれが何か椅子に座っている人間でありそうだという推測に至った。
「あの時とは状況が逆になったみたいだな」
「な・・・何・・?」ようやく彼女は口が利けるようになった。
「実を言うと、俺たちは以前に会ったことがある。尤も、あんたは覚えていないだろうがな」
その姿をよく見ようと目を凝らしたが、暗闇のせいではない。彼の長い髪のせいで、顔を見ることが全くできなかった。
「大丈夫だ。兵士には手を出さないように言ってある。今のところは無事だろうな」
「何をしに来たの・・・?」
「あんたに会いに来たんだよ。まあ、いろいろは言えないが確認作業ってことだな」
「そうじゃなくて、目的は何なの?」少しずつ王家の人間としての威厳を取りもどしてきた姫は、できる限りの情報を引き出そうとした。
「今ここであんたが俺のことを思い出せないようなら、そんな目的なんてのは想像がつかないだろうな。まああんたらにとっちゃ悪いことだよ」
「ごめんなさい、私本当に・・」
「本当に罪があるのはあんたの父さんだがな。あんまり長居はしない。じゃあな。また来るぜ」
「ちょっと!」
その男は消え去っていた。時間にして3分と経たなかっただろう。その男の来訪は何を意味したのだろうか。その答えを知るのにそう時間はかからなかった。




