37.攻城
ジャニーが構えていたのは城のすぐそばの広場であった。門はたった二人の男によって破られ、辺りにはただものでない雰囲気が漂っていた。
彼らの容貌は対照的だった。一人は大男で、その身長は2メートルくらいあるだろう。対してもう一人の男はどう見ても子供だ。その小ささが、あの大男の隣に立つとかなり際立つ。
この緊急時に侵入を許したのはかなり痛手であり、これ以上先に進ませるような失態は避けたかった。
その強制的な侵入は、彼らに友好的な手段が許されていないことを示しており、すなわち力で言い聞かせるしか彼らを退ける方法がないことが予想された。
直感的に、ジャニーは様子を伺うことを選択した。こちらから飛び込んでいっても、未知の相手には悪手であるだろう。
そう考えているうちに向こうの方から攻め込んできた。というよりは変則的な動き方でけん制しようとしているのかもしれなかった。二人は左右に分かれ、それぞれ右、左側から攻城を試みているようだった。
「3・1だ!」ジャニーは叫び、左の方の男に向かって突き進んだ。3・1とは左右に兵力を割くときの比率を示している。右側に左側の3倍の兵力を投入し、少ない側に自分がつくというものだ。いずれからも通してはならない。ジャニーが選択したのは、大男の軌道を遮ることだった。こちらの方が強そうであると判断した彼は、自らその相手をすることを選んだのである。
「止まれ!」当然止まるはずもないと思われていたその男は、さっとその対峙者の品定めをするように動きを止めた。
「少ないな」この数では自分を止めることなどできないぞと主張しているようだった。
「時間稼ぎにもならない」
「時間稼ぎ・・・?」その言葉の意味を噛みしめようとしたジャニーは、後方で誰かが唸る声を耳にした。
異変に振り向きたい気持ちはあったが、戦闘において相手に背を向けることなど言語道断だ。ましてやかなり実力の見込まれるこの男に対し、一瞬でも隙を見せることなどあってはならない。だが、気のせいかその唸り声は次第に数を増しているように感じられた。
「くわっ!!」
という声と共に背に衝撃を感じたジャニーは、前方に2~3メートル吹き飛ばされた。素早く受け身を取りついに振り返った。兵達がものすごい勢いで自分を通り越し、大男の元へと向かっていった。
「おい待て!」止める声も空しく走り去っていく彼らは、一人、また一人と大男に跳びかかっていった。その間大男は特に目立った動きをせず、自分たちの元へ向かってくるのをじっと待っている様子だった。
「なんで勝手に・・・」
そう言っている間にも、兵と男は先頭を始めていた。扇形のように兵は男を囲み、各々魔法で攻撃を仕掛けていた。無数の光の玉を打ち続けるもの、インエイグマを召喚して襲い掛からせるもの、そして結界で封じ込めようとするものなどだ。
「やめろ!無闇に手を出すな!」
それぞれがばらばらに動いている為、攻撃にバリエーションが増えるのは確かだが、考えなしにやってよい戦略ではない。
大男は自身の周りに3層のバリアを張って攻撃を防ごうと試みた。こちらからの攻撃は全て一層目ではじかれているようだったが、そのうちに召喚された2体のインエイグマ、そして4匹のフユゾラガラスが突破した。
この戦闘の局面において何をすべきか分からなかったのが兵長としての彼の落ち度だろう。先陣を切って攻めるタイミングを失ったのに加え、今、入り込んでいっても味方の攻撃に巻き込まれるだろうことが容易に予想された。つまり完全に策を失っていたのである。味方が味方として機能しない場面など想定したことはなかった。
大男はバリアを飛び越えてクマ、そしてカラスの前に躍り出た。その先にさらにバリアを張り、遠隔からの兵の魔法をはじいていた。何を始めるのかと思えば、熊2体、烏4匹を相手に組み手を行っていたのである。
通常、というよりそのようなことは決して有り得ない。
召喚された獣や魔物に対しては、どんなに未熟な魔法使いであっても魔法を使って対処するというのが筋であり、素手で戦ってよい種類のものなど存在しない。
「インエイグマだな」
大男は構える。跳びかかる2頭のクマを躱し、そのうちの一体に拳を食らわせた。再び立ち上がったクマに、今度は蹴りを食らわせる。ただ、勿論インエイグマも並のスタミナではなく、すぐに立ち止まりその腕で男の頭ごと吹き飛ばそうとした。インエイグマの握力は200を優に越しており、腕っぷしでは到底かなわないだろう。一撃でもまともに受ければ、その部位から消滅する。
「思ったより速いな。よく訓練されている」と言いながらひらりひらりと避けていくその男は、思ったよりもかなり身軽な動き方をしていた。それでもこの獣たちは攻撃の手を緩めない。フユゾラガラスも矢のごとく、男目掛けて飛び込んでいく。一匹目のカラスを避けた男は、二匹目を避けるのと同時に叩き落とした。確実に仕留められたその鳥は地面でぐったりとなり、その生涯を即座に閉じた。彼の意志を受け継ぐべく、第三、四の攻撃が続く。腕、足を狙ってその鋭い嘴が狙いを定めた。これにはさすがの男もとらえきれず、左の腕に傷口を許した。
「なんだこれは」男は思っても見なかったという様子でバリアの内側に引き、体制を立て直そうとした。ジャニーはここで、彼がフユゾラガラスについての知識を有していないことを伺うことができた。フユゾラガラス。その嘴、そして趾にかすり傷でも付けられようものならその箇所は凍傷のような症状を起こしてしまうような代物だ。しばらくはあの左腕はうまく機能しないだろう。
一度引いた男はそれからすっかり攻撃の手を打ってこない。バリアの内側でじっとし、その二層先のバリアをインエイグマ二体とフユゾラガラス三匹が壊そうと試みている状況だ。この膠着した戦況の中、ジャニーは左側の様子を見ようと頭を向ける。
地面に転がっていたのはこちら側の兵士の体ばかりであり、皆一様にぐったりとしていた。一切の流血がないことを確認したジャニーは、更に重要な事実に気が付いた。彼らは止められなかったということだ。
なんということだろう。攻城を許してしまった。途方もない脱力感とともに、ジャニーは膝から崩れ落ちた。




