36.襲撃
ジャニーが残りの半分の兵を送ってからもうしばらくたってからのことである。つまり、現在の国の兵は平時の4分の1ほどということになっている。
ニールは他の兵と一緒にルーハイに向かっていた。彼はその土地に住む『湖のラグ』の一人であった。村が襲撃を受けてから危機感を覚え、自らの力で何かを守る力を得るために志願したのである。王都での生活ではまだ慣れないことも多いが、自分の力が強くなっている実感はあった彼であった。今回の任務は、周りの兵たちと一緒に白魔法使いの元へ応援に行くというものである。彼にとっては初めての遠征ということもあり、緊張と自分への期待で頭がいっぱいであった。
「急ぐぞ!」そういう声が前から聞こえる。状況は最初にジャニーから聞いていた通りのものである。緊急で自分達が呼び出されたのは、彼らのみにいくらか危険が迫っていること。つまり、自分たちの到着時間が彼らの身の安全に直結するということだ。あのニラードが苦戦するとは彼は思わないが、それでもそれ以外の人びとにとっては命を落としかねない危険な状況であることは彼にも分かっていた。
おかげで全体的に移動の速さが普段の訓練よりも速く、何か「ブレ」のようなものがあるとニールは感じた。『湖』の出身である彼は人の心の動きを敏感に察知し、異常を感じ取ることが得意なのである。
(急ぐ気持ちは分かるけどもう少し落ち着かないと)そう思う彼であったが、もうあと今のペースをあと一回繰り返せばイカゴに至ることを考え、イメージトレーニングに集中し始めた。
「何も起こらないとよいのですが・・・」
執事は城から見える景色を注意深く眺めていた。間違いなく、過去最大に国力は弱まっている。外に出ている兵の数は3/4。ここには残りの数少ない兵とジャニー、そして自分しか頼りになるような存在はいない。それでも姫と国を守り抜くことが王の命令である。いっそう気を引き締め、姫から離れず見張りを遂行していた。
「戦力が散らばりすぎています」執事は戦況を分析し始めた。
「緊急時とはいえ、有力な魔法使いを各地に派遣しすぎたのが問題だったのかもしれません」
「まさかこんな大変なことになるだなんてね」ソランは聞き役に徹している。
「少しずつ、方々に遣わす形を取った方が余裕を残せたでしょうね。私も判断を誤りました」
「次また同じことが起こらないようにすればいいのよ。一先ず、私達は彼らが無事に帰ってくることを祈りましょう」
「全く自分が不甲斐ない・・・」
「いつも心から尽くしてくれているじゃない。それで十分よ。それに、姫の前で暗い顔は見せないでくれる?」ソランは笑顔だった。
自身もユハの帰りを心配して待っている彼女だったが、王位を継ぐ者としての気概は既に備えていることが彼女の態度から感じられた。
そうこう話しているうちに執事の暗い予感が的中する兆しを見せ始めた。城の門のあたりで何やら鈍い多くの声が聞こえるようになったのである。
「この騒がしさは一体・・・?」執事は正門の方に顔を向けた。ここからだと人々の声しか聞こえない。感知できない場所で何かとてつもなく恐ろしいことが起こっているのではないかというわずかな心配が彼を取り巻く。
「ちょっと様子を」と言いかけて執事は考え直した。ここでもし、様子を伺いに外に出たら姫を一人にすることになる。それこそ彼女を、国を危険に陥れる所業である。執事は踏みとどまり、その場を離れたい気持ちを抑え込んだ。
まもなく、扉が開き一人の兵が真実を告げることとなる。
「二人の魔法使いに侵入されました!とても我々の手に負える輩ではありません」




