34.ルーハイ
ユハ、ニラードとその他軍勢はルーハイに来ている。ここから旅立ち、イカゴへと移る。この日もニラードは親しげにマルナルと話し、近況を交換し合っていた。この地出身なだけあって溶け込むのが上手い。
「ねえ、『レオニアル』って知ってる?」
「聞いたことないなあ、なんなんだい、それ?」
「世界の終わりを伺ってるんだって。で、それを感じたら顔を出して観戦する生き物らしいのよ」
「そんなのはおとぎ話の世界なんじゃないかな。この地に伝わるルー様のように、昔の人たちが考えたんだろう」
「そうよね。でもその情報が載ってる本を隠してた人がいたから気になっちゃって」
「あまりにも空想的な話だから、持ってるのが恥ずかしかった、だったりして?」
「あーら、あの人も案外かわいいとこあるのかも」
なんてやり取りを二人でしているうちに、他の者たちの準備ができた。以前のザウルグの襲撃によってできた空き家がいくつもあり、そこに兵を収容して休ませていた。
岬に立つ彼らを、『海のラグ』の人びととマルナルが見送る運びとなった。マルナルは、ザウルグの襲撃の時にあっという間に解決したニラードの力量を信頼していた。ユハという男は話を聞く限り彼女よりも強いらしく、またその他の兵士も力を伸ばしていると聞いて安心していた。今、王都で訓練しているであろう若い坊主もこれで良い成長をすることができるだろう。
もう殆どのメンバーが旅立っていった。様子を見に行くだけだから帰って来るのにそう時間はかからないだろう。最後の一人が姿を消すのと同時に、マルナルは背伸びをしながら振り返った。岬と空との境界線を辿るように視線を移動させる。この動作を無意識に行っていると、一瞬の間、違和感が彼の脳をよぎった。今何か黒いものが見えた気がする。人型の黒い影に二つの目。再び振り返ると何もなかったため、彼は気にせず戻ることにした。
イカゴ。既にここは戦場だった。彼らが辿り着いたイカゴ側の岬。圧倒的に不利な状況がそこにはあった。黒人形にどこもかしこも埋め尽くされ、全に囲まれる形となったのである。白の側は円を作るような陣形だったが、それを覆うような更に大きい円が外側に存在していた。兵士は押し返そうと戦いを開始するが、黒の円が狭まるにつれ状況は更に厳しいものとなっていく。大きい円と小さい円が対面するとき、小さい円の方が人数的には心細い。1人につき1~2人を相手にしなければいけないことになる。ユハは高く跳びあがり下を見下ろし、また周囲を見回すことでニラードに情報を伝達していた。率先して戦っていたニラードは情報を受け、一度円から離れるように跳んだ。この場において最戦力になる2人は円の中でこぢんまりと戦っている場合ではない。ただでさえ、白の円の内部になるほどに、兵士たちは身動きが取れなくなる。外の兵士が力尽きるまで、つまり、円が更に小さくなるまで戦うことすら許されないのである。
情報がニラードの口より伝えられる。
「かなりの数の黒人形がいるわ。どうして・・・」
ユハの視界とコネクトしたニラードは滅入っていた。あたり一面、黒い景色に覆われているのである。ニラードはできるだけ円を崩し、散らばって戦うよう伝えた。
ユハが伝えた情報はもう一つある。黒人形の形がこれまでとは違うものがある。以前襲撃を受けたときのものと、それよりは体格の少し大きいもの、そしてそれよりも大分大きいもの。
ざっと3種類の姿が確認できるというものであった。そして、新たな2種類をまず始めに自分達で相手をしなければならないということであった。
「なんでこんなに都合よく私たちの前に現われるわけ!?」
既にユハが執事に連絡し応援を要請したところであった。とはいえ、ここまで至るのにはまだかなり時間がかかるだろうことが予想された。長期戦も見込んで闘わなければかなり危い。
目の前に出てきた黒人形は体格が中程度のものであった。これまでとは違うだろう相手にどうぶつかっていこうかを考える間もなく相手はこちらへ突進してきた。殴り込むモーションを相手が見せると、ニラードは盾を作り出して攻撃を防ごうとした。以前の襲撃の際に捉えた黒人形は、これほどの盾を作り出すことで攻撃を防ぎひるんだすきに仕留めることが可能であった。
ところが、そいつの攻撃は盾を容易に破壊し、更に一歩先まで迫って来たのである。ニラードは体勢を崩しながら相手の足元に打撃を加え、相手の足元を狂わせた。すぐさま距離を取って構える。再び立ち上がって向かってくる相手の速さを測定し、自分に達する少し前に檻を落として拘束した。従来の黒人形ほどの速さはなかった。
ニラードが落ち着いたようなのを確認したユハは、彼も得たところの情報を共有した。体格の大きいものは速さはそれほどでもないが、打撃を受け付けるに丈夫で、また違った攻略方法を考えた方がよいという。ここまでの内容を整理して、彼女は大声で兵士に敵について知ったことを伝えた。彼女は従来の黒人形を「シカ」と呼び、打撃の強いものを「オオカミ」、耐久力に秀でたものを「クマ」と呼んだ。
既に息絶えたものが地面に転がっていた。未知の黒人形との戦いで負傷した者が多かった。それでも「シカ」と戦える魔法使いは数多くいて、情報を伝えられてから戦法を変えることで負傷を抑えていた。ユハの戦略は、彼とニラード、超級魔法使いの兵が「オオカミ」や「クマ」と戦い、「シカ」はその他の兵に任せるという事だった。死傷者を多く出したのは事実だが、なんとかこの戦いを収めることができた。
ユハは兵を連れて国に帰ることとした。その帰途、よこしてくれた応援と合流し戻ればよいだろう。執事に連絡を取った彼は、執事のセリフに足を急がせた。
「混戦中だったために伝えることができなかったのですが、こちらで少々困ったことがありまして・・・」




