32.廃滅の家
そこは何ということもない家だった。確かに大きいのだろうが、その大きさがいまいちよくつかめない。というのも、比較対象となるような木々や物体が「全く」存在しないからだ。辺り一面は完全な荒野で、ここあそこの距離感が全く分からない。
魔女は混乱している彼らを家の中へと促す。
中に入るとそれはもう圧巻で、まるで大きな市の図書館に入り込んでいる気持ちがした。
「ほら、お出迎えなさい。失礼よ」
上空からくるくる回りながら降りてきたのは、20代くらいのボーイッシュな女性だった。
「ええ、ええええええええええ!!」
彼らの姿を認めた彼女は尻もちをつき、そのまま後ろへ後ずさっていった。
「部屋へ通してあげなさい。私は彼を治療するわ」
そう言って魔女と、彼女に抱えられた王は奥の部屋へと消えていった。
「・・・」
残された小さな魔女と、王国の魔法使いの間に会話はない。ただでさえ殺風景な土地にいるのに、この場で会話生まれなければさらに人は孤独感を高め、やがて身寄りのない雛のように命を落とすだろう。
「あ、あの」
勇気を出して声をかけてみたこの男について紹介する。先ほど、魔女が王に手を触れるその時まで彼を守ろうとした上級魔法使いだ。ここで初めて、その名をソルメと記す。
「!?!?」
小さな魔女は態度にこそ出さなかったが、明らかに興奮状態にある。一体何が彼女をそのような状態にさせるのだろうか。
「えっと・・・お名前は?」ソルメが訊く。
「さ、ささサリア」うまく聞き取れない。
「ん?もう一回言ってくれるとありがたいのですが・・・」
「サリア!」今度は信じられないほど大きな声で返事をする。
「なるほど、私はソルメといいます。よろしく」そう言って手を差し出す彼に、恐る恐る彼女も手を差し出す。彼以外の魔法使いは彼女と握手しようとはせず、その為彼女と口を利いたものはソルメただ一人だけということになる。
「しばらくは部屋の外で待っていなければなりませんね」ソルメが言うと。
「う、うん。多分体の中の瘴気を消し去っているのだと思うの。その力があまりにも強いから、近づいているのは危ないのよ」ようやく彼女も落ち着いた様子だった。
「そんな力があるのですか」初めて知った魔法の力だった。
「ここら辺は違った力をもった魔女がたくさん住んでてね、基本的にはみんな違うの」
「基本的に、というと?」
「ちょっと複雑でね」とサリア暗い顔を作った。
「ここら辺に他に人はすんでいないのですか?」気持ちを汲み取ったソルメは話題を変える。
「ん?いないよ!この二人だけ」
「本当ですか!人が訪ねてきたりはするでしょう?」
「それもない。魔女は皆縄張りから出てこないから」
「そんなところに生まれてからずっと暮らしてきたのですか?」
「ずっとじゃないの。元々は別のところで生まれたんだけど・・・」
そこで扉が開き、国王と魔女が部屋を出てきた。その姿はなんとも堂々としたものだ。凌雲の気がその場に立ち込め魔法使い達の顔が明るくなった。
「出発だ」王は曇り一つない表情だった。
「お体の方は・・・」魔法使いたちはそれでもまだ心配である。
「完治させたわ」魔女は得意顔であった。
「ここに来る間に二つの領域を通ったみたいね。無事で来られるなんて信じられない」
「一人失ってしまった」
「それでも褒めたものよ。これだけの人を抱えてこんなところまで来たんだから。」
「突然訪ねたりして悪かった。また会おう」魔女に背を向けて王は歩き出した。
「国王様!」超級魔法使いが声をあげる。
「それはつまり・・・」
「そうだ。オブノーラは来ない」その魔女の名がここで明かされた。
「その代わりサリアが行くわ」オブノーラはその場にいるもう一人の魔女に顔を向ける。
「わ、私?」いきなり自分の話題になったせいか、少し焦っている。
「魔女も今の時期は大変なの」魔女の視線が魔法使い達の方へと向かう。
「なるほど!でも私がいなくなって大丈夫なんですか?」
「問題ないわ。甘く見ないでちょうだい」
「ああ、悪いがじっとしている時間はもうない。少しでも早く国に帰らねば」ガンセンは既に扉の前に立っている。急いで魔法使い達は駆け寄り、遅れてサリアが歩いてきた。
「よし、これでいいだろう。すぐ変身する。近づいてくれ」
「サリアは大丈夫よ。それよりももっと安心な道を先導してあげてね」オブノーラは優しいまなざしをサリアに向ける。
「分かった!私に任せて!」隣には既に光をまとった鹿が控えている。
「でも・・でも!!!」
「いきなりすぎて私事情何も分かってない!!」




