2.王と姫
王宮の食卓にて、ガンセン王とソラン姫が食事を取っている。机の上には今も昔も変わらず豪勢な食事が並べられており、この間には王も姫も時間きっかりに到着する。
「この建物の中だけはいつまでも変わらないな。国もそう余裕をもってはいられないというのに」
「先祖様に感謝しなくちゃね。なら私たちは私たちで、この状態を維持しなきゃならないわ。折角たくさんの人が作り上げてきたものを、ここで壊すわけにはいきませんもの」
「分かっている。しかしそう簡単にもいかん。これまで国民遍く、各々の仕事に就いていたというのに、また新たに徴兵するとなると国全体の産業均衡が崩れる可能性もある」
「今一番の問題がそこよね。本当は兵なんてなくてもいいのに」
その場で控えていたユハが少し、頬を緩めた。王の隣で待機している執事も、顔を背けている。
「突飛なことを言いだすな、いつもお前は」
王は王で、スープを口に運ぶ匙を置いた。次どんな言葉が彼女の口から出るか、分かったものではないのである。
「勿論、今すぐに。ってわけじゃないわ。もうちょっと先の話よ」
王は再びスープを口にし始めた。
「それってつまり、争いのない世界ってことじゃない。悪い人がいなくなったってことよ。過去この国は絶えず争いがあったし、その度にたくさんの血が流れたわ。でもそれがなくなったら、兵もいらなくなるし、もう誰も死ななくてもよくなる。そんな国を作れたら、歴代のどの王よりも胸を張って椅子に座れると思うの」
「理想主義だな。誰にも不満のない世界などあるものか」
「不満はあっていいと思う。それをどう昇華するかの問題じゃない。すぐ力で解決しようっていうのは頭が固すぎるわ。うん。確かに、話し合いで解決できる世界を作れたらそれは一番優れているでしょうけど、現状にはそぐわない。それは私も分かってる。今もどこかに悪い人が舞台に出るタイミングを伺っているかもしれないし、話が通じない人だっている。だから抑止力が必要って話よね」
「そうだ。その最たるものが、お前の傍に控えるユハや、余のソニーワイドを始めとする白魔法使いなのだ。尤も、『国民』を彼らが鎮圧するほどの大きな争いはここ最近でも起きていないがね」