0.プロローグ
夜の帳が下りてから、もう長い時間が経過していた。アサゴというこの国では、建物は全て例外なく白塗りで建てられている。それ故に、夜の暗さはこれらの建築を映えさせてはくれない。一番、その国風にそぐわない時間帯が、夜であった。この国のシンボルともいえる王宮は、その暗闇の中でも威厳を失うことはなかった。杳として捉えにくい輪郭こそあれど、アサゴ王宮は威厳と存在感を常に主張して、国民を長しえに安心させ続けてきたのである。さて、舞台はその地下に降りる。ある部屋の一室で、とある企てが行われていた。
―――
「・・・名を何という」
「スニークだ」
「して、スニークよ。既にソニーワイドから話は聞いている。我は白魔界の山に仕える者、ハロイド。これより白魔法契約の儀式を行う。覚悟はよいな」
「元よりそのつもりだ。お前のような呪いの魔人にだって魂を売ろう。後悔はない」
・
・
・
新しい白魔法使いは部屋から退出した。外では執事がかしこまった様子でたたずんでいる。
「ご無事で何より」
「まるで痛い目を見ることもある、というような口ぶりだが」
「あちらの者を怒らせると、何が起きるか分りませんゆえ」
「心配ない。大きな問題は起こらなかった。確かにこの目、光を失ったが、とうの昔より構えていたこと」
「結構なことで」
「ユハはどこだ。こうもたもたもしていられないのでな」