帰りたいあの日
言わなきゃよかったこと全部訂正したいです。
私は殴りたい、約3年前の泉谷 夏希を。小学校にもかかわらず夏希は160cm 台という高身長でもちろん学年トップのノッポで調子に乗りまくっていた。まず、女子にモテる。男子にケンカに勝ちまくる。女の先生を上から見下せる。
こんなことが続きまして、転校する幼馴染にこんなこと言ってしまったんですよ。ハイ。
『俊がウチより大きくなったら付き合ってあげるから、絶対戻ってきてね!』
付き合うって何?あげるって何や?絶対戻って来んなボケ!と、あの頃の自分に言いたくて仕方ない。なぜって、立山 俊が帰ってきたからに決まっているでしょう。
もちろん、成長期真っ盛りの男子の身長の伸びについていけるわけがない。見事にビッグになってヤツは帰ってきたのだ。(物理的に)
「ねぇ夏希、俊君帰ってきたんでしょ?ぼーっとしてないで引っ越ししたてでご飯大変だろうからタッパーおすそ分けしてきなさいよ、ついでに挨拶してきて。」
「イヤだ。あいつと顔合わせたくない。ママ行って来て。」
「いいじゃない、同じクラスになったなら一言二言しゃべったでしょ、今日。」
ところがしゃべってないのだ。何度か目はあったけど数秒でお互いそらした。私だって聞きに行きたかったけど俊がきれいすっきり忘れてるかもしれないし、
「私が送り出したとき『俊がウチより大きくなったら付き合ってあげるから』なんていったけどわすれてくれていいよ。」
なんていきなり言ったら絶対やばい奴だと思われる。
とは言いましても、
「ほら!いつ行くの、今でしょ!」
といって追い出されましたとさ。なんで微妙にネタが古いんだろうか・・・
夕方の道を歩きながら考えてみると、ウチからヤツの家まで15分ぐらいかかることに気づいた。幼稚園が違うはずの彼と私はどこで出会ったんだろう。小学生の足なら20分ぐらいかかるであろう距離ならご近所さんとも言えないし、親が学生時代の友人というわけでもない。ケータイも持ってなかった。公園は大きくなってから近所にできたから違う。習い事もちがう。
なんて考えているうちに立山家についてしまった。家は建て替えてないみたいであの時のままだ。うちと同じような造りだけど車の数が違う。一台高級外車が増えていることを見るに、おじさんの事業はうまくいってるんだろう。
普通の会社員と専業主婦のうちとは違い、おじさんは社長でおばさんは弁護士だった。少しでもお金が余ればあの人ったら、相談もなく車に使おうとするのよ。困っちゃうわ~なんておばさんがこぼしていたのを覚えている。
・・・余った少しの金で外車?すぐ?今思うと羨ましい限りだ。
チャイムを押すかか、押さないか迷って迷って迷った結果、結局のところタッパーを持って帰ったら母に怒られることに思い当たり押そうとした時だった。
誰かが近づいてくる気配する。街灯が近くにないから人相はわからないけど若くて背の高い男と見た。ホームルームの時に、担任が不審者の目撃情報を言っていたのを思い出すと体が勝手に生垣に隠れてしまう。痴漢だったらどうしよう。
ズカズカ歩いてくる男は、よく見ると大型犬を連れて歩いていた。そのレトリーバーらしき犬は、鼻をクンクンしてから大のお気に入りの餌を見つけたかのようにしっぽを振りまくり、こちらに向かって走ってきた。
こちらに向かって走ってきた!?
「キャーーーーーっ」
そうだ。私たちの出会いってこれだった。
残念なことにうちの周りには公園を含めこれといった遊び場がなかった。いつも友達と遊ぶときは家の中で遊ぶぐらいしかなかった。その日たまたま行った友達の家がものすごく遠い家で、帰り道が暗いわ、門限過ぎてるわ、しんどいわで心細かったんだけど、もうそろそろうちにつく!ってところで立山家のゴールデンレトリーバーに襲われまして。大型犬にタックルされた衝撃に気絶しちゃったんですよ。
結局、肝を冷やした俊がウチまでおぶってくれたのだが、まったく気にしてなかったのに次の日朝から来てくれて、それこそ土下座しそうな勢いで謝られ、それがきっかけで友達になった。
その後、私たちの間にはそれこそ『男友達』という感じの空気しか流れていなかったけれど、周りが変わり始めて私から少し線を引いてしまい、ケンカしたとき俊の引っ越しが決まった。男女のお付き合いがどんなものか全くわかっていなかった私は、付き合えば今まで通り仲良くできると思ったんだと思う。だからあの、
『俊がウチより大きくなったら付き合ってあげるから、絶対戻ってきてね!』発言に至ったのだ。
誰かに揺さぶられている気がする。なんかデジャヴなきがする・・・
「おい!大丈夫か?夏希!」
「ッ俊!何でここに?」
「何でってここうちの前だし、タッパー届けに来てくれたんだろ?母さん喜ぶわ。ありがと」
「うん、まあ、どー致しまして。」
あと、またごめんな。ラッキーが。そう言ってヤツは送ってくれるらしく歩き出した。ちなみにラッキーというのは先ほどのゴールデンレトリーバーのことだ。私は彼から熱いアプローチを受けている。15分の間私たちはほとんどしゃべらなかったけど、不思議とそこに気まずさはなかった。
帰ると親がにやにやしながら待っていて、ロマンス?ロマンス?とうるさかったけど、いつもと同じようにお風呂に入って、ご飯を食べて寝た。
『起きなさい。早く。いつ起きるの、今「明日かな、おやすみ」』
母はいまだにこのネタにはまっている。解せぬ。
身支度をすませていざ鎌倉!と思ったらいつもより30分ぐらい時間が早かった。今日は朝早くない予定だったのだけど。考えているうちにいつの間にか玄関の前まで引っ張られていて、さあ、行ってらっしゃい俊くんヨロシクねといって送り出されてしまった。・・・ん?
「よー大丈夫か?打ってなかった?」
「って大丈夫だけどどうしてここにいるの?」
タッパー返すだけなら待っててくれなくてもいいのに。
すると、にやっと笑って
「だって俺絶対お前より背高いじゃん。約束守ってもらおーと思って。」
さらりと手をつながれちゃったりしました。
恥ずかしーよこの人。ありえないーと思って書いてました。