表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

七年後の日常

基本的にこんな感じでのんびり続いていきます。


朝、俺は外から差し込む光で目を覚ました。窓から差し込む木漏れ日を眺めてから二度寝をしようとした。


「後、一時間ぐらい寝てもいいか……ファアア」

「先生。朝の修練の時間ですよ。ごはんも冷えちゃいますから早く起きてください」


だがその試みは決意の数秒後に寝室に飛び込んできた少女によってかき消された。


「……ララ、後一時間ぐらい寝か……」

「ダメです。それを許したら、先生は昼まで寝ますから」

「うっ、否定材料がないなあ……」

「ほら、早く行きましょう」

「了解」


そう言って俺は布団を抜け出し、すぐ隣にある棚から適当に服を取り出し羽織るとララを追った。






彼女の剣の動きが止まり、いつものように髪をかき上げたのを見たところで俺は彼女に声をかけた。


「じゃあ、朝の基本メニューは終わったね」

「はい。じゃあ次は」

「分かってるよ。一回だけ手合わせしてあげよう」


そう言いながら、俺はいつものように刀を構える。それと相対するように彼女も長剣を大上段に構えた。


「じゃあ、いつでも来なさい」

「もちろん、です」



彼女は言葉と同時に踏み込み、一瞬で俺の懐に飛び込む。それを俺は振り上げた刀で止めて、その反動で距離をとる。

すかさず再び飛び込む彼女の横の二連斬りをバックステップで回避して彼女の腕が開ききった瞬間に彼女の首元に剣を向ける。

が、それも彼女は首を大きく振り、それでできた間を利用してこちらの刀を上方向にはじいた。と同時に彼女は俺から距離を取った。


「半年前なら、さっきの一手で終わらせられたんだけどなあ」

「私だって成長してるんですよ。……それより先生、よそ見しないでください」

「うおう……こりゃあ俺も少し本気を出そうか」


彼女が魔術による分身と自身の高速移動による残像を使って、俺に斬りかかる。魔術による分身の方はあたっても多少のダメージで済むが、残像の方は致命傷を喰らいかねない。

俺は即座に刀に魔力を纏わせ、すでに見切っている分身を斬撃を飛ばして粉砕する。さらに残った六体の残像の攻撃を避けながら、最後に飛び込んできた本人の斬撃を下からのカウンターで跳ね上げる。


「くっ、まだ負けてません……もう一発」

「残念ながら今日もまだ君の斬撃は俺に届かないよ、ララ」


もう一度振り落とそうとする彼女の剣を右方向に払い、上空に吹き飛ばす。最後にその反動で後ろに倒れた彼女の首に刀を突き付けて終了ゲームセットだ。


「うう……また負けました……」

「まだ弟子に負けるわけにはいかないよ。さて、続きは後だ。ごはんを食べようか」


そう言いながら落ちてきた彼女の剣を掴んで、俺は落ち込むララを連れて家に入った。






食事中、ふと彼女の顔を見ながら考え事をしていると、ララは怪訝そうな顔でこちらに聞いて来た。


「先生、私の顔に何かついてますか」

「いや、なにも。……ただ、大きくなったなあと思ってね」

「なに、老人臭いことを言ってるんですか。先生もまだまだお若いじゃないですか」

「……まあ、そうなんだけどねえ」


ララを弟子に取ってから、早や7年。(たぶん)幼い貴族の息女であった彼女も今では俺を脅かすレベルの剣技を持った美しい少女に成長していた。

その銀の髪は流れるように滑らかで美しく、その瞳は透き通るような青い光を湛えている。剣の修練を続けていたおかげでスタイルも抜群だし、誰もが羨む美少女だと私は思う。

ただ、彼女は今でも国に連れ戻されるのを恐れて、街に出るときは変装をしたうえで気配を消しているので、その美貌を目にできるのが俺だけなのは残念でならない。


「先生、ぼーっとしてないで早く食べてくださいよ。さっさと洗って洗濯したいですから」

「ああ、分かった」


しかも、今のうちの家事は全て彼女が担当している。多分間違いなく彼女がいなくなったら俺の生活はダメ人間へとなり下がるだろう。まあ、今の時点で十分そうな気もするが。



食後、彼女が洗濯を始めたところで俺は上着を羽織り、鞄を腰にかけた。するとララが気づいて声をかけてくる。


「先生、外出ですか。行き先はどちらで」

「少し薬草でも摘みにね。場所はこの辺の山一帯かな」

「分かりました。あっ、そういえばこの間街に出た時ですけど、周辺に複数の劣等竜ワイバーンが目撃されてるそうです。先生なら大丈夫でしょうけど……一応気を付けて下さいね」

「了解、注意しておくよ。君の方も気を付けて」

「大丈夫です。必ず一歩で動ける範囲に剣は置いておきますから」


その彼女の発言に苦笑しながら、私は最後に腰に愛刀を提げて家を出た。






「ふう、これぐらいかな。……うちは訓練が激しいせいか、ララがよく薬草を使うからなあ。まあ、どちらかと言えば痛み止めや頭痛薬の減りが早いから、訓練と関連してるとも限らないのかな」


2時間ほど山の中を歩くと、ある程度使えるレベルの薬草が確保できた。ということで、俺は少しのんびりと森の中を歩いてから家に帰ろうとしていた。

そして普通にしていたつもりなのだが、やはり人の気配は消しきれるものではないらしい。俺は上空を見上げてため息をついた。


「……はあ。1,2,3……17体か。これは中規模な群れクラスだね。……そして高度を見るに、狙いは私か……」


俺はぶつぶつ言いながら、腰に差した刀を手に取ると、鞘をつけた状態で振りぬいた。……瞬間、俺に突っ込んできた劣等竜の首が吹き飛び、そのまま真下に落下した。

続けざまに上空を旋回している残りのうち5体の翼を斬撃で切り飛ばし、落ちてきたところで首を切り落とす。

サイズが2,3メートルであるところを見るとどうやら若い竜のようだ。おそらく住処で争いに負けて追い出されてきて、この周辺に住み着いたのだろうが……


「……まあ人にとって害があるのは間違いないし、なにより実入りがいいんだよな」


ちなみに劣等竜というのは他の人間たちにとってみれば、腕のたつ人間数人でようやく仕留められるような厄災そのものであり、それによって入る収入よりも討伐にかかる費用が莫大な事で嫌煙される生き物である。

それを鼻歌交じりで惨殺できるこの男がおかしいのであって、これが一般常識でないことは知っておいた方がいいだろう。






5分後、劣等竜を片付けた俺はその中から高値で売れる部分だけを切り出していた。


「……ふう、ああ終わった。さてと高値で売れる部分だけバッグにまとめて、後は次元の間にでも突っ込みますか……次元切断」


そう言いながら俺が切り裂いた次元の狭間に貴重な部分を切り出した劣等竜をぶち込む。この技を使えばほぼ無限に物が持てるのだが、生憎確実に取り出せるとは限らないので貴重品は入れることができない。


「さてと、帰るか」


全ての作業が終わった俺は家への道を歩き始めた。



数分後、家に帰りついた俺は絶句した。


「……なんか、なます切りにされた劣等竜がゴロゴロいるんだが……」


家の敷地の周りには劣等竜の死体が突き刺さりまくっていた。辺りには猛烈な血の匂いが漂っていた。俺は慌ててララの姿を探した。


「ララ、無事か」

「はい、先生。もちろんそうですけど、どうかしましたか……」

「この惨状を見て、それを言うかい……」


あたりに散らばる劣等竜の数は、全部で二十頭。そしてその全てが最低でも両方の翼を断ち切られ、頭部を四つに割られていた。辺りはむせ返るような血の匂いが充満していて、涙が出てきそうだ。


「ララ……この惨状を作らずにどうにする方法はあっただろう……」

「……確かに、そうですね。ただ、ちょっと反射的に最初の一匹を細切れにしてしまったら……他の個体が狂乱してしまって……」

「そりゃ、するだろうな」

「……ですよね」


俺はおそらくその最初の一匹目であろう、原型どころかもはや血の塊にしか見えない劣等竜を見ながらそう言った。


「もう少し綺麗に倒す方法はいくらでもあっただろうに……衝撃で脳髄を粉砕するとか、剣速を変えて、内臓だけズタズタにするとか……」

「先生。その手法はものすごく高度だと思うのですが……後、そっちの方がえげつない気が……」

「半分ぐらいは冗談だよ」

「半分は本気じゃないですか……まあ、先生なら余裕なんでしょうけど」

「その通りだね」


正直に言えば本気を出せば、劣等竜の群れ程度なら刀なしで体術だけでも壊滅させられるのだが……それを言うとララが落ち込みそうだから黙っておこう。また、実力不足を嘆いて無茶な修行をして倒れられたらことだ。


「ふう。じゃあこの死骸の山をとっとと片づけようか」

「すぐには終わりそうもないですけどね……」

「素材になりそうもないものは次元の底にでも放り込んでおけばいいからすぐだよ」

「分かりました。それじゃあ、やりましょうか……次元切断」


ララはいとも簡単に次元の壁を切断した。この技を軽く扱える時点ですでにこの世界に並び立つレベルの剣士はいないと思うのだが、彼女は俺の弟子をやめようとしない。俺は免許皆伝だと言っているのだが「俺を越えるまでは、私はあなたの下で修業を続けます」だそうだ……まったく、こんな老成した男のもとにいつまでもいなくていいんだがな……


「先生。そっちのほうは終わりましたか」


なんて考え事をしている間に、家を一周してララが戻って来ていた。考え事をしながらでも作業は進めていたのでひとまず死骸だけは片が付いた。まあ、まだ一面が血まみれなんだけどな。


「ああ、終わったよ」

「じゃあ、細かい片づけはお願いできますか。私は夕食の用意をしますので」

「この作業の後にかい」

「先生がいらないのなら先生の分は作りませんけど……」

「冗談だよ、冗談」

「フフ、分かってますよ。じゃあ、後はお願いしますね」


彼女はそう言って微笑んで家に戻って行った。俺は片づけをしつつ、思う。


「あの笑顔を見せられると、やっぱり出て行ってほしくないと思ってしまうんだよな……いや、あの子のためにも出て行かせる方が正しいよな。何を言っているんだ、私は」


夕暮れの山奥で一人、奇妙な気分になりながら私は作業を進めるのだった。

基本的には週一回更新です。


面白かったら、ぜひブクマ等をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ