運命の出会い
国境の小さな森の林道
その中で剣戦の音が鳴り響いていた。
その方向に目を向けると、雨がさんさんと降る中で一人の男が剣をふるっていた。
いや、正確に言うのならその男は盗賊団との交戦状態にあったので抜刀しているのはその男だけではなかった。しかし……
「おい、お前ら何やってやがる。全員でかかってさっさと潰せ」
「無理です、お頭。こいつの剣早すぎ……」
そう言った男は自身の剣を構える間もなく、男の剣によって両断された。
それを見て、慌てて剣を構えた盗賊の頭の前で最後の部下が切り倒された。無論、その間に剣を振れたものはおろか、新たに抜刀できた者すらいなかった。
「おい、嘘だろ……まだ、あんたに剣を抜かせてから3秒もたってないぜ……」
「3秒どころか1秒あればあんたまで斬れてたが、ちょっとだるくて手加減させてもらったよ」
「……そこまでか。あんた一体……まさかぶ……」
頭がその男の正体について言及しようとした瞬間、その首が吹き飛んだ。
しばらくしてドサリと頭が倒れ、再び辺りは静寂に包まれた。その中で男はポツリとつぶやいた。
「また、人を傷つけるために剣をふるってしまったか。……やっぱり人とは変われないのかな……誰だ!」
言葉を止めた男の視線の先には盗賊団が襲っていた馬車があった。
そこから感じる気配に威圧をかけながら男がゆっくりと近づくと、そこから一人の少女が出てきた。
少女は両手を上げて俺の方に向かってきた。その様子に敵意がないことを確認した俺は威圧をやめて、剣を収めた。
「ま、待って下さい。怪しいものじゃありませんから」
「それぐらいは分かってる。ただ、なぜか馬車の中の生存者が把握できなかったからつい反応してしまったんだよ」
「た、多分それはこの馬車の下部にある避難用スペースがあって、それが中の人物を隠蔽しているからだと思います」
「確かに……隠蔽魔法がかかってるな」
しかし、戦闘時の俺でも簡単には感知できない結界となるとこの子どんなお偉方の子なんだ。服装を見ても高位貴族か下手すると王族クラスなんじゃ……
……って、考えてても仕方ないか。ひとまずこの子を元の家に帰してやらないと。
「君の名前は」
「ラ……ララフローリアと言います」
「そうか……生まれはどこの国なんだい」
「……それは言いたくありません」
「……なぜだい」
「私を……私を道具としてしか見てくれないあの国に戻るのは……嫌なんです」
「……分かったよ。無理に言えとは言わない」
彼女があまりにいやそうな顔をするので諦めた。しかし身元を言わないとなるとどうするかなあ。……多分この近隣国の王女クラスなんだろうが……四か国の中から選ぶのはさすがにギャンブルが過ぎるよなあ……
「じゃあ、隣国まで送ってあげよう。そこで孤児院に入れてあげることなら……」
「嫌です」
「じゃ俺にどうしろと……」
「あなたが引き取ってください」
「はっ、そんなこと無理にき……」
「じゃあメイドでも召使いでも奴隷でも性奴隷でもどんな扱いでもいいです、私を雇ってください」
「そ、そこまで言われてもなあ……」
「隣国の孤児院クラスじゃすぐに消息がばれます。なによりあなたなら私を守ってくれると思うんです」
なんだか出会ったばかりなのにものすごく押しが強い……多分、よっぽど戻るのが嫌なんだな。たっく、もうなるべく人と関わらずのんびり生きる気だったんだが……仕方ない、か。まあ一人の道中よりは気が楽だろうし……ちょっと最後に数日ぐらい弟子を取ってやるか。
「はあ……分かった」
「それじゃあ、良いってことですか」
「最後まで話を聞いてくれ。僕が君を弟子として引き取ろう」
「弟子、ですか……」
「ああ。そのかわり僕はきっちり指導するから耐えられなくなったら孤児院に……」
「絶対に耐えきってみせます」
「分かった。じゃあそのかわりに君の安全は保障しよう」
「はい、よろしくお願いします。……先生って呼ぶのでいいですよね」
そう言って彼女はようやく満面の笑みを見せてくれた。
こうして俺は半ば強引にララフローリア……ララを弟子に取ることになった。この時の俺は適当に厳しく鍛えてさっさと孤児院に送ろうと思っていた。そうでなければ国に帰らせることすら視野に入れていた。
だが、まさか……こんなことになろうとは全く予想もしていなかった。
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