94話 クライマックス直前で、弟妹が乱入しました
うちの両親の恋物語を聞いている同級生たちに、両親の祖先には、北にある雪の国の国王が居ると知れ渡りました。
王妃候補の一人、赤毛と赤い瞳が特徴で、勝ち気なご令嬢によって。
王太子のレオナール王子と、宰相の子息のラインハルト王子が嫌いな、西地方の貴族によって。
レオ様も、ライ様も、西地方の貴族と言うだけで、無意識にご令嬢にキツいお言葉を投げ掛けているのでしょう。
ご令嬢は、少々落ち込みました。
仕方ないので、フォローしておきましょうか。
王子の不興を買ったのが理由で、ご令嬢の王妃候補の資格を剥奪されたら、我が家が困りますから。
「……レオ様、ライ様。王太子の秘書官として、何度も申し上げますが、西の伯爵令嬢は王妃候補としては、見所があります。
まず、王妃教育の特別授業があったのは、三日前です。ご存知ですよね?」
「それは、知っている」
「ならば、話は簡単です。
我が家の北国の王家に連なる血筋は、特別授業が始まってすぐに王妃様たちによって、明らかにされました。
当事者の私も、北の侯爵家の持つ、雪の王家の血筋は知らなかったので、たどり着くのに一日半かかりましたよ。王宮住まいで、子孫である私が一日半です。
王宮の外に住んでおられる、部外者のご令嬢が血筋をたどるには、どれほどの苦労が必要かご承知ですよね?」
「……王宮に訪れて、しかるべき手続きを踏んだのち、戸籍の閲覧許可が出されるな」
「はい。北の侯爵の血筋は、春の国の貴族なので、簡単に許可がおりましょう。
ですが、雪の国の王族である血筋もたどるとすれば、戸籍の閲覧には国王陛下の許可が必要になります。
私は子孫なので、謁見のときの口頭申請のみで、許可がおりました。
しかし、一介の貴族、ましてや王家の血を持たない新興貴族への許可など、軽々しく出せるはずありません。
おそらく、王妃候補ということで、国王陛下が特別に許可を出したのだと推測されます。
しかも、ご令嬢はテスト期間中に勉学をされながら、きちんと調べたんですよ。
他の王妃候補と比べたら、努力をお認めになられますね?」
「……まあ、アンジェがここまで評価してるなら、多少は努力を認めても良いですかね、レオ」
「仕方ない。アンジェが言うなら、多少は認めてやる。
おい、西の伯爵の娘、喜べ。お前は、将来の王妃の秘書官に、ずいぶんと高く評価をもらえているぞ」
「努力を評価して、当然です。
血筋にあぐらをかき、努力しないような者に、王妃が勤まるとでもお思いですか?
私の持つ、春の国の王家の血筋や、王位継承権すら知らない無能な者より、よっぽど評価します」
本音を言いますと、王子たちの気まぐれで、うちの上の弟の花嫁候補が居なくなったら、めちゃめちゃ困るんですよ!
努力しない、おバカさんの花嫁なんて、絶対に要りませんからね!
それから、ご令嬢の実家は流れの商人から、西の新興貴族になりました。
つまり、ご令嬢は、憎き西の公爵の血を一滴も持たないと言うことです。
個人的な感情としても、一応、許容範囲ですかね。
「いやはや。私やレオと同じ祖先を持ちながら、王家の血筋をひけらかさず、有能さを見せつけたアンジェの言葉ですからね。説得力がありますよ」
「でもな、ライ。こいつ、王宮に召し上げられて父上に謁見したとき、『偉大なる農耕民族の末裔』だと、名乗ったぞ」
「おやおや。きちんと王家の血筋と、自己紹介したんですか」
「そうだ。それなのに知識のないアホどもは、違う意味で受け取ったみたいだが。
おい、ミケ。お前も農耕民族の子孫であることに、誇りをもっているな?」
「なぜ、そんな当たり前のことを、お聞きになられるのですか?
春の国の王族ならば、農家の血筋を誇るものですよね」
「……やっぱり、アンジェやミケは、生まれついての王家の血筋だな。
王位を継ぐ者として、心構えをきちんと受け継いでいるぞ、ライ」
「そうですね、レオ。塩伯爵家は、王家の歴史を、きちんと継承している証拠です」
レオ様に急に話を振られた私の弟、ミケランジェロは、不思議そうに首を傾げました。
弟や王子たちの反応に、ざわめく者がいました。
西地方の新興貴族、平民の豪農から貴族に任命された同級生たちです。
「春の国を建国した初代国王、創始王は農耕民族の長だった。
我ら春の国の王族や、王家の血を持つ貴族は、農家の子孫と言うことになる。
昨今では、王家の歴史を忘れたアホが、農家を見下しているがな。
農家を軽ろんじると言うことは、王家の歴史を軽んじると同じこと。
頭の悪さを言いふらしてるも同然。アンジェが、一番体験しただろう」
レオ様とライ様が意味ありげに、何度もまばたきをしてきました。
何か言えという、合図のようです。
どうやら、腹黒策士の二人は、私の父の話ついでに、我が家の持つ王家の血筋を、とことん持ち上げておくつもりのようですね。
はいはい、それらしいこと言って、言いくるめますよ。
「……ああ、去年の春のことですか?
初めて王宮に来て、国王陛下に謁見した直後の話です。
湖の塩伯爵出身の祖母の名代として、西の公爵家のファム嬢に、初めてお会いしたときに言われました。
『高貴なる王家の血を持つわたくしが、平民の農家の子孫に過ぎない、下等な血筋に面会してあげることを光栄に思いなさい』と。
どうも、春の国の王族が農家の子孫であることも、私が善良王の直系の子孫であることも、知らない様子。
これほど無学で、知識の無い者が王族の一人で、しかも将来の王妃になる予定なのかと驚き、大変失望しましたよ。
あまりにも、目に余る発言だったので、きちんと訂正して差し上げましたね」
「アンジェ、訂正した内容を、現在の王妃候補に教えてやれ」
「全部ですか? 良いですけど……かなり長くなりますよ?」
「構わん。僕も、ライも、あの場にいたから、内容は知っている。その上で言えと命じているんだ。
今の王妃候補が、アホなファムと同じ道を選んだら困るからな」
「かしこまりました。
『下等な血筋とは、心外ですね。 確かに私の母は平民ですが、善良王を祖先に持ち、春の国の王妃を二人も輩出した、誉れ高い雪花旅一座の出身です。
あなたの出身、西の公爵家と言えば、五代目国王の正室どころか、側室にもなれなかった、平民の妾の子供が祖先でございましたよね?
同じ平民の血を引くとは言え、あなたと私、どちらが下等な血筋と世間は見るでしょうか。
それから、春の国の初代国王は、農耕民族の長です。そして、初代から四代目国王の正室は、農家の出身でした。
つまり、春の国の王族は、偉大なる農家の子孫なのです。
王族ではない私が知っているのに、 王女のあなたが、そんなこともご存じないとは……どのような教育を受けて育ったのですか?』こんな感じでしたかね」
王妃候補の五人を見渡したら、全員、あっけに取られていました。
レオ様は、腕組みしながら、思い出話を語ります。
「あのとき、僕とファムの婚約を確定させる予定で、四方の貴族の総元締めを会議室に呼んでいた。
王位継承権を持つアンジェも、北地方の貴族代表として、西の公爵、東と南の侯爵と同じ部屋に呼ばれたんだ。
最後に呼ばれたアンジェが、ファムを将来の王妃と認めれば、僕とファムの婚約は成立する。そこまで、話は進んでいた。
でも、頭の悪いファムは、アンジェがあの部屋に呼ばれていた真の意味を、理解してなかったんだろうな。
『無礼者! 誰に向かって、そのような口を聞いていますの?
近衛兵、この下等な者を、すぐに捕らえて牢屋に送りなさい!
このような者が貴族だなんて、わたくしは認めません。すぐに爵位を剥奪しなさい』っと、怒りに任せたアホな発言をした」
「私も同席していましたが、直後のアンジェの切り返しは、見事でしたね。
まあ、私が語るより、当事者のアンジェに語ってもらった方が、より臨場感が出るでしょう」
「……ライ様、ファム嬢には、理論立てて説明してあげただけですよ。
『私を捕らえて、爵位を取り上げる? できるのでしたら、どうぞ、ご自由に。
感情に任せて行動し、将来のことも予見できない、愚かな王妃を据えようととしている春の国に、仕えるつもりは毛頭もありませんので。
どうやら、知識の足りないファム王女は、北地方の貴族は雪の国の王家の血を引くことすら、ご存じない様子。
私は、春の国の爵位がなくなった瞬間から、雪の国の王家の親戚を名乗れることをご理解していますか?
親戚が、春の国の王宮に捕らえられたとなれば、雪の国は全武力を投入して、助け出してくれましょう。
さあ、どうぞ、捕らえて牢屋に連れていってください』だったと思いますよ」
私は、雪の国の王女の戸籍を持ちますからね。そして、北地方の唯一の貴族です。
北地方の貴族は、雪の国の王家の血を持つことに、嘘偽りはありません。
レオ様たちは、事情を知っているので、軽く聞き流しました。
ですが、王妃候補たちも、聞き流しています。大問題ですよ。
私が父方の雪の王家に連なる血筋を知ったのは、三日前と先ほど発言しました。
今の話とつじつまが合わないことに気づかないのでは、先が思いやられます。
「どう考えても、アンジェの説明は、筋が通っています。
雪の国の王位継承権を持つアンジェを牢屋に入れれば、雪の国と全面戦争になる口実を与えると、ファムに説いたんですよ。
近衛たちも、雪の国と戦争になるのはマズイと思って、ファムの命令を聞きませんでした」
「さすがに、父親である西の公爵当主も、アンジェの言い分を認めて、当主権限で娘の命令を撤回させた。
アホなファムは、父親がアンジェの味方をしたから、『お父様、下等な血筋の戯れ言を真に受けますの!?』と、ヒステリーを起こした。
そこで、アンジェは、ファムに格の違いを見せつけたんだ」
「レオ様。あれは、自己紹介が遅れただけですよ?」
「よく言う。あのときの一連は、計算された上での発言だ。
おごり高ぶったファムに、心を入れ換えさせるため、あえて憎まれ役を買ったんだろう?
ほら、最期のどんでん返しを、皆に教えてやれ」
……私、計算なんて、しましたっけ?
売られた喧嘩を買って、倍返ししただけなんですけど。
正論で順当に叩き伏せたから、外からは計算づくに見えたのかもしれませんね。
「えーと、長いですよ? 言いますけど。
『そうそう、ファム王女を初めとする皆さんには、自己紹介がまだでしたね。
私は、父方の祖母より、六代目国王である善良王の直系の血筋と、山と湖の塩の採掘権を受け継いだ、北地方の男爵家当主アンジェリークと申します。
ファム王女。王妃になるつもりなら、王家の血筋と王家の親戚くらい、きちんと把握しておいてください。
それから、 ご自分の言動が世間に与える影響も、考えた上で行動を起こすべきです。
短絡的な考えのうえ、私利私欲で王家の権力を振るなど、何を考えているのですか?
私から男爵爵位を取り上げれば、我が家は雪の国に頼らざるを得ないことを、ご理解していますか?
我が家が雪の国の貴族になると言うことは、陸の塩の採掘権は雪の国の権利になり、塩の産地は雪の国の領地になるということですよ』
ここまで言って、ファム嬢の反応を伺いました」
「それで僕が、まだ理解できていないアホなファムに、補足してやった。
『ファム、さっきのお前の感情に任せた命令は、春の国の滅亡を招く所だったんだぞ。
善良王の子孫が、雪の国の貴族になるということは、雪の国に我ら春の国の王族を生かしておく理由が無くなると言うことだ。
軍事国家の雪の国が全力で攻めてくれば、我が国は勝てない。
春の国は、雪の国の領土になり、雪の王家の血を持つ塩伯爵以外、春の王家の血筋は全員処刑される。
塩伯爵が雪の国の新たな領地を治める、領主になればいいだけだからな。
新たな領主が善良王の血筋ならば、元春の国の民たちも簡単に受け入れるだろうから、雪の国としても問題は起こらない。
僕の説明に納得したか? 愚かなお前は、ここまで考えていなかっただろう』
さすがに、ここまで説明したら、部屋の中は静かになったぞ」
「この後のアンジェの言葉は、覚えていますよ。
『春の国の未来のために、はっきり申し上げます。
王位継承権を持つ祖母の名代として、将来の王妃の見極めのためにファム王女と面会しましたが……王妃としての資質を疑います。
王太子のレオナール王子との正式婚約を、認めるわけにはまいりません。
湖の塩伯爵の血筋として、断固として反対します!
もしも、このまま王妃にするつもりなら、我が家は今すぐに爵位返上して雪の国の貴族になり、春の国を見限りますので』
このアンジェの一声で、レオとファムの婚約は保留になりました」
おバカな王妃になんて、仕えたくありません。
春の国の将来のためにも、持てる権力を効果的に使いましたよ。
権力と言うのは、民のためにふるうものです。
私利私欲で振るうしか能のない王女は、愚かな残虐王の血筋らしさを発揮した、立ち振舞いをしましたけどね。
春の国を破滅に導こうとした五代目国王の子孫は、現在も愚か者のまま、西国でのうのうと暮らしています。
近々、息の根を止める予定です。悪党に、お似合いの末路を贈って差し上げますよ。
「その後、父上は、アホなファムを鍛えるために、優秀なアンジェを王妃教育の責任者に任命した。
アンジェが、ファムに王妃の資質が芽生えたと認めたら、僕と正式婚約する予定でな。
結果は、お前たちも知ってのとおりだが」
「今の王妃候補も、同じ条件ですよ。
善良王の子孫で、王家のことに精通するアンジェが認めれば、王妃に近付くことになります」
「僕が求めるのは、深い知識を持った嫁だ。アホな嫁はいらん。
アンジェの塩伯爵の血筋すら知らんのは、王妃以前の問題だぞ。
これからは、心を入れ換えて、精進しろ」
「アンジェは、王妃筆頭候補のクレアですら、なかなか誉めませんからね。
そんな相手が、あなたの努力を誉めました。王妃候補の中では、一歩先に進んだと言うことです。
このまま努力を怠らなければ、いずれ王位継承権を持つ男の妻になれますよ。期待していますからね」
……ライ様は、言葉使いが巧みです。西の伯爵令嬢を丸め込みながら、おだてて誉めました。
王妃候補のご令嬢にしたら、レオ様かライ様の花嫁になれると勘違いしましょう。
ですが、私の弟のミケランジェロやラファエロも、医者伯爵家のローエングリン王子も、王位継承権を持つ未婚の男性になります。
ミケランジェロの花嫁候補と悟らせないようにしながら、努力をするように仕向けましたよ。
「ずいぶん、話がそれたな。アンジェの両親の話に戻すか。
いいか、塩伯爵家の権力は、ほぼ確定していた王妃の話を、白紙に戻せるくらい強い。
だから、娘をアンジェの父上の嫁にしたい、北地方の貴族が多かったんだ。
自分の血筋の価値を知る父上は、それを憂いた。貴族の戸籍を捨てて、平民になり、旅一座の母上を嫁にすると言い出したらしい」
レオ様がそこまで話したとき 場違いな子供の声が聞こえました。
「アンジェ姉さまと兄さま、見つけた!」
聞き覚えある声に、思わず声のする方を見てしまいましたよ。
「やあ。帰りが遅いから、様子を見にきたよ」
教室の入り口で、医者伯爵の子息である、ローエングリン王子が、王家の微笑みを浮かべていました。
抱っこされている、うちの下の弟も、雪の天使の微笑みを浮かべています。
「姉貴、久しぶり♪」
その後ろで、うちの下の妹を抱っこしていた人物も、雪の天使の微笑みを見せました。
「なんで、君がここに居るんだよ!? エルを返せ!」
顔を見たとたんに、上の弟の態度が激変しましたけど。
音を立ててイスから立ち上がると、足早に教室の入り口に向かいます。
父方のはとこから、末っ子を取り上げました。
「お兄さま? どうしました?」
「オデット!? オデットまで連れてきて、どういうつもり!」
はとこの後ろから、私の上の妹が顔を出しました。
……間が悪すぎましたね。上の弟の逆鱗に触れたようです。
末っ子を抱っこしたまま、はとこにつかみかかろうとしました。
「ミケランジェロ、場をわきまえなさい!
王太子をはじめとする、王族の方々の前ですよ」
仕方ないので、立ち上がって、声を張り上げましたよ。
弟は動きを止めて、つかみかかるのをやめましまた。それでも、上の妹を背中にかばいながら間に入り、はとこを睨み付けます。
「皆様、お騒がせして、申し訳ありません。
うちの親戚は、ラインハルト様のような性格なので、弟はピリピリしてるんです」
あっけに取られた同級生たちに、手短に説明しましたよ。
同じく、あっけに取られている王子たちにも、補足しておきましょう。
「レオ様、 ライ様。覚えていませんか?
私のはとこです、藍染工房の跡取り」
「藍染工房……おお、四年ぶりだな!」
気さくに声をかけてきたのは、王太子のレオナール王子です。
雪の天使の微笑みを浮かべていたはとこは、表情をキリッとさせました。
教室に入ってくると、少し広いところに移動します。
レオ様に対して、伯爵階級の貴族として、最上級の紳士の礼を取りました。
「王子殿下の皆々様におかれましては、ご機嫌麗しく。
そして、私のような者を、お記憶に留めてくださるとは、光栄のきわみでございます」
貴族スイッチの入った、はとこは、非の打ち所のない礼を見せました。
私たち兄弟と一緒に、旅一座出身のうちの母から、地獄の演技稽古を受けましたからね。
王子に負けない、立ち振舞いができます。
「今の僕は、王立学園の一生徒だ。
公式の場ではないから、堅苦しくしなくていいぞ。楽に話せ」
王子スマイルを浮かべて、無礼を許すレオ様。
四年前にうちの領地にきたとき、藍染工房を守る、父方の祖父の弟一家と、知り合いましたからね。
懐かしかったんでしょう。
「お心遣い、感謝申し上げます。
そして、我が本家当主のご学友の方々にお会いでき、光栄です」
雪の天使の微笑みを浮かべて、同級生たちにも紳士の礼をする、はとこ。
次に、私のそばまで来ると、片膝をついて、雪の国の言葉で話しかけてきました。
『姫も、ご機嫌麗しゅう。変わらずのお美しさで、安心いたしました。
我が武術は、姫の気高さと美しさを守るために存在いたします。
姫に忠誠を誓うことを、どうぞお許しください』
私は軽く頷き、右手を差し出しました。
はとこは右手の甲に口づけを落とします。
ここまでは、王女と騎士の礼儀作法ですかね。
騎士見習いでもあるはとこは、顔を上げると、あっけにとられている貴族令嬢たちに、軽くウインクしました。
うちの父方の血を色濃く受け継いだ、はとこは、つり目でたくましい顔つきです。
もうちょっと成長すれば、ワイルドという表現が似合うようになりますかね?
外見は、北地方の貴族らしく、金髪碧眼、雪のように白い肌ですけど。
金髪碧眼が珍しい王都住まいの人からしたら、異国情緒にあれる外見に見えることでしょう。
まあ、はとこは、どうでも良いとして、問題は私の弟と妹です。
王宮に居るはずなのに、なんで王立学園にいるのでしょうか?
「オデット、ラファ、エル。お姉様やお兄様の友達の皆さんに、ごあいさつしなさい。話は、それからです」
「あ、気づかなくてごめんね、姉君。弟君を、下におろすよ」
私の言葉に反応したのは、医者伯爵の子息殿でした。
抱っこしていた私の下の弟を、床の上におろします。
上の弟も、末っ子を腕の中から解放しました。
うちの五人兄弟の三番目から末っ子は、はとこが横に避けた後で、同じ所へ移動します。
弟妹は、私の同級生たちに向かって、挨拶を始めました。
「皆様、お初にお目にかかります。私は北の新興伯爵家の二の姫、オデットと申します。
これからも兄と姉のことを、よろしくお願い申し上げます」
五人兄弟の三番目になる上の妹は、昔から下二人の面倒をよく見てくれています。
自分が弟と妹の手本になるべきと、思っているので、お手本のような素晴らしい淑女の礼をしました。
「僕は、北の新興伯爵家の二の若、ラファエロと申します。
えっと、姉さまや兄さまのお友達にお会いできて、とても嬉しいです」
下の弟は、大人顔負けの紳士の礼をしました。
顔をあげると、無邪気な雪の天使の微笑みを浮かべます。
何人かの同級生は、ほほえましい目線をしていました。
「えりゅは、きちゃのちんこーはくちゃくえ、ちゅえのひみぇ、えりゅともーちまちゅの。よりょちくおあーあ♪」
(エルは、北の新興伯爵家、末の姫、エルと申しますの。よろしくお願いしますわ♪)
末っ子は、舌足らずで自己紹介します。ワンピースの裾を持ち、ちょこんと淑女の礼をしました。
お人形さんみたいに可愛いエルの姿に、あちこちで「かわいい♪」の声がもれていますね。
さて、私は、疑問を解消すべく、はとこに春の国の言葉で話しかけました
「なぜ、あなたが王都に居るんですか?」
「姉貴が呼んだじゃん。夏休みになったから、実家に帰ったとたん、『アンジェから呼び出しがかかってるから、すぐに行け』って、じーちゃんに放りだされたんだぜ」
「姉さん、なんでコイツを呼ぶんだよ!?
姉さんやオデットやエルが、毒牙にかかったら、困るんだからね!」
「……私は知りませんよ。呼び出した覚えは、ありません。
それに毒牙って? 本家を騙して権力を得ようなんて、悪どい真似はしませんよ」
「違う、悪どい手段の毒牙じゃないよ!」
「邪悪な手段の方?」
「あー、もういい! 姉さんは黙ってて、話がややこしくなるから!」
私とはとこの会話に、上の弟のミケランジェロが割り込んできました。
ミケは、いつものようにピリピリしています。
「……いやはや。アンジェが、恋にうとい理由の一端が見えましたね。
ミケが、がっちりガードしていたんですか」
「ライみたいに口の上手いヤツが親戚で、常にそばに居たら、ミケも気が抜けんだろうな」
「私を引き合いに出さないでください」
嫌味まじりの応酬を重ねる、レオ様とライ様。
お互いに冗談で言っていると、分かる雰囲気ですけどね。




