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9話 新しい婚約者候補と顔合わせです

 本日は、国王陛下とレオナール王子に、新たな王太子妃候補の方々が謁見する日です。

 平民から名前が呼ばれ、大広間に入場してきました。

 豪商の娘や、女騎士、新興伯爵の娘など様々です。そして、最後は侯爵家の入場でした。


 最終的に残ったのは、二十名。

 王妃になる覚悟を決めた方か、ご家族が野望を持たれた方。

 そして、王妃の側近を目指す志を持たれた方です。


 王妃教育に携わる秘書官の一人として、皆さんと一緒に、国王陛下のお話をお聞きします。

 将来の王妃たるもの……と、長い長いお話でした。


 さっそく居眠りしている、豪商のご令嬢。

 それ、減点ですよ!



 国王陛下と入れ替わりに、王族の衣装に着替えたレオナール様と、将来の宰相殿が入場されました。

 そして、上座の席に座られました。二人とも、王子スマイルが眩しいです。


 宰相殿は、国王陛下の弟君。ご子息殿は、レオナール様のいとこになりますからね。

 もしも、レオナール様がお世継ぎを作らずに亡くなることがあれば、宰相の子息殿は王太子になり、次の国王になります。


 今回の王太子妃候補は、王族の王子たちの妃選びを兼ねているので、人数が多かったのです。

 先ほど、国王陛下は、正式に発表しました。

 貴族の手を経ず、王族に連なる血筋の者が推薦して選出された、王子の妃候補たち。

 宰相の子息殿に自分の娘を嫁がせて、権力を得ようとようと画策していた貴族が居ましたからね。その企みを、王家は先回りして潰したのです。


 王太子の側近である、外交官の子息殿、騎士団長の子息殿と一緒に、私はお二人の斜め後ろに控えます。

 遠方からきた貴族のご令嬢は、私に奇異な視線を向けておられました。一部は敵視ですかね。

 もっとも多いのは、好奇心の視線。私は、立身出世の代表格になってしまいましたので。

 昨日、男爵家から伯爵家になった我が家は、城下で噂の的でしょう。


 王子達の前に並ぶ、総勢二十名の婚約者候補たち。

 十人の子爵や男爵の貴族は、婚約者がいるとか、家柄が釣り合わないと言い、辞退しました。

 これから王太子妃候補は、座り並ぶ王子たちの前で、挨拶をしていくことになります。

 家柄の順に呼ばれ、自己紹介が始まりました。


 最初は侯爵家のクレア嬢でした。

 個人的な感想ですが、このクレア嬢が、名実ともに将来の王妃最有力候補でしょう。

 この前、王立学園の中立派の貴族や、平民を招待した王家主催のお茶会で、長く会話をする機会があり、友人となりました。

 先日、私の危機をレオナール王子に教えてくださったのも、この方です。恩人ですね。


 クレア嬢は、少々、ソバカスが目立つ方です。そのため、前回の候補者選出のときは、お名前が上がりましたが、すぐに落選しました。国内に居ませんでしたしね。

 ですが、中身は優秀。隣国の東の国へ留学されていただけあり、才女です。

 私が療養で王立学園を休んでいた間に、留学を終えて戻ってこられました。そして、編入早々に、学年首位を取ったほどです。

 ……私が復学してからは、万年二位に転落しましたが。

 王立学園に行かせてくださっている国王陛下のためにも、首位は渡しませんよ。


「東地方の侯爵家のクレアと申します。本日は、尊き方々にお目にかかれて、大変光栄ですわ」

「うむ。最近、王立学園に編入してきたのだったな」

「はい。三年ほど、東国に語学留学しておりました」


 語学留学と聞き、レオナール様に変わって、側近である外交官の子息殿が話しかけられました。東の国の言葉で。


『どの辺りで留学を? 王都の中央の湖畔? 学問の町の北の都?』

『中央の湖畔ですわ。国の中心で、学んでおりました』

『ならば、王妃教育の語学は、そなたが頭一つ抜きん出るな』

『それほどでも、ありませんわ』


 途中からレオ様も会話に割り込み、三人で楽しそうに笑いあっていました。


『いやー、留学されていただけあり、素晴らしい会話力っすね』

『そうですね。あれほど流ちょうな発音は、王立学園の生徒でも、なかなかいないと思いますよ』

『そこの二人、私語は慎むように。仕事中ですから。側近らしく、大人しく控えていてください』

『了解っす』

『申し訳ありませんでした』


 つい、騎士団長の子息殿と雑談していました。宰相の子息殿に注意され、謝りましたよ。

 もちろん、全員、東の国の言葉です。


 侯爵令嬢は、少し驚いた視線で、騎士団長の子息殿と秘書官の私を見ました。

 同世代では、自分と王子、そして外交官の子息殿くらいしか、東の国の言葉を話せる者は居ないと思っていた表情ですね。


 王子や親友の方々は、隣国の四つの言葉を、子供の頃から勉強しております。国語レベルで、自然に読み書きできますからね。

 私は、前回の王妃教育の監督で、元婚約者候補と一緒に語学授業を受けていたので、会話はできるようになりました。

 北国以外の言葉は、筆記の練習中ですが。


 語学勉強をサボって、発音が下手だったレオナール様も、真面目に勉強され、宰相の子息殿と同等になりました。

 後から習いはじめた私に、発音間違いを指摘されたのが悔しくて、やる気を出したそうです。


『クレア、そんなに驚くな。僕や僕の側近たちは、隣国の四つの言葉は、すべて話せる。将来の国王やその側近なら、当然だろう。

お前も、将来の王妃になるつもりなら、僕たちと同じくらいの語学力になってくれ。期待しているぞ』

『……精進いたしますわ』


 やはり、レオナール様はクレア嬢を、気に入られたようです。王子スマイルを浮かべ、東の言葉で期待を告げられました。

 レオ様の親友のお三方も、クレア嬢が伴侶になるだろうと、直感されたようですね。納得したように、うなずいておりました。


 まことに良きかな、良きかな♪


 優雅に一礼して去っていく、侯爵家のクレア嬢。

 お顔は少しこわばり、最初の軽やかな足取りは、わずかに重くなっておられましたけど。

 自信を傷つけられ、少しショックを受けたようですね。




 続いて呼ばれたのは、西の伯爵家のご令嬢です。女騎士で騎士団に所属している、女傑ですね。

 事前調査では、お家の事情で、婚約者候補を受けるしかなかったようです。野心家の親を持つと、子供は苦労するんですね。

 お名前を述べられた後、はっきりとレオナール様の目を見て、告げられました。


「父がなんと返事したが存じませんが、私は王妃など望んでおりません。騎士として王家に仕えることが、我が喜びであるからです」

「それは、僕の婚約者の権利を捨てる宣言ととらえてよいか?」

「はい。私は、王家の剣として、盾として、仕える所存でございます。

もしも不愉快ならば、この場で切り捨ててください。私は、王家の意向に逆らった、反逆者です」

「ふむ。お前の覚悟は分かった。アンジェ、聞いたな。この者は、僕の嫁にはならないようだ」

「かしこまりました。将来、王妃様の近衛兵候補として、教育指導責任者を承ります」


 私とレオ様のやり取りを聞かれた女騎士は、安堵の表情をします。


「ありがとうございます。この命尽きるまで、王家のために働かせていただきます!」


 片膝をつき、淑女ではなく、騎士の礼を取りました。

 ちらりと外交官の子息殿を見ると、瞬きします。向こうからも、瞬きが返ってきました。


『これで、王家に忠実な騎士を一人、得ることができましたね』

『いやー、あの噂の出所がアンジェだからね。皆、安心して、言い出せるんじゃないかな』


 眼力による会話なんて、貴族には当たり前の芸当ですよね。


 続いて呼ばれた、内務大臣の娘も、王妃ではなく側近希望を述べました。



 実は、「今回の婚約者候補の中には、将来の王妃の側近候補も混ざっているように思える」と、王立学園で噂が流れていました。

 完全にうっかり発言だったのですが、レオナール様たちは、私のことなので何か考えがあるのだろうと思ったようです。

 どんな作戦なんだと、王子の執務室で聞かれました。

 とっさに、「婚約者候補に名前が挙がり、貴族から圧力をかけられて進退窮まった豪商のご令嬢から、婚約者候補の基準を聞かれたので、お答えしただけです。無能な貴族のせいで、優秀な人材が減るのは困りますからね」って、ごまかしましたよ。


 王妃教育の責任者である私が、言い出しっぺですからね。眉唾物の噂ではなく、ほぼ確実な真実として、急速に出回りましたよ。

 豪商のご令嬢は「将来、王妃様の側近として頑張ります!」と宣言して、堂々とレオ様に婚約者候補を承る返事を手渡していました。

 返事を受け取ったレオナール様からは、「平民からも優秀な人材を得れそうなのは、アンジェの作戦のおかげだな」と、お褒め頂きました。

 私は真実を告げられず、深く頭を下げて、無言でやり過ごしましたよ。


 怪我の功名ですかね。あはは……次からは発言に、気を付けましょう。

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