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78話 王妃教育の特別授業、開講です

 テスト二日目が終わり、王立学園が午前中で終了しました。

 明日は、北国からの使者が来る日なので、王宮は慌ただしいです。ほぼすべての準備は終わっているのですが、王族の女性と使者がお茶を語らうこじんまりした会場だけ、準備がまだでした。

 王妃教育、初の実践的な授業として、このお茶会の会場を準備するのです。


 ……どう考えても、先代国王陛下と国王陛下の提案ですね。

 思い付きの命令をする常習犯の王妃様ですが、王妃教育だけは、信念を持って行っておられますから。

 それを、前日になって、特別授業の相談をされるなんて、考えにくいです。

 一昨日の王妃教育が終わったあと、国王陛下と先代国王夫妻は、王妃候補たちが自主的にお茶会の会場の片付けをしないことを、問題視していましたから。


 お茶会の授業は、王妃様のお話を聞いて、王妃の心得を学ぶところです。

 それだけではなく、国賓をもてなすお茶会の会場準備や片付けを含めて学ぶのが、本来の目的だそうですね。

 今まで自主参加だった会場の準備や片付けは、王宮住まいの側近候補、私と二人の女騎士しか参加していません。

 だから、実践的な授業を一回だけ行って、以後の普通のお茶会の授業の動向を見守る予定なのでしょう。


 いつも、お茶会の授業を行う部屋に、王妃候補と側近候補は勢揃いしていました。王妃様の登場をお待ちします。


「アンジェさん、実践的な授業は初めてですわね」

「そうですね。このような形式は、前回の候補者のときも、行っておりませんから。どのようになるか、私にも予想がつきません」


 私に話しかけてきたのは、将来の王妃、筆頭候補。東のクレア侯爵令嬢です。

 先代王妃様の親戚であるクレア嬢は、ソバカスが目立ちますが、王都の貴族にしては肌の白い、美人系の顔立ちです。

 知的な青い瞳の上の眉が、わずかに寄っていました。緊張しているようです。

 視線を巡らせると、女騎士たち以外の参加者は、表情が硬いですよ。


 ……適度な緊張は、授業を受けるのに良いと、王都で聞きました。うちの母の教育方針とは真逆で、驚いた記憶があります。

 皆さん、このまま授業を受けられるのでしょう。

 母は旅一座の元役者で、身体を動かすことを念頭にした演技稽古が、私たちの教育の中心でした。緊張は、ほぐすのが当たり前だったのです。

 おしとやかに振る舞う王都の貴族の方々は、平民のうちの母の演技稽古よりも、しっかりした教育を受けているはずです。

 のんびりした田舎と、キビキビした王都の違いなのでしょう。


 そうこうするうちに、先代王妃様、現王妃様と王弟である宰相殿の奥方様が入室されました。王宮に住まう王族の女性、勢揃いですよ。

 王妃様だけだと思っていた参加者たちは、驚いた気配をまとっています。私も知らされておらず、驚きましたけどね。

 王族を代表して、言葉を発したのは、現王妃様でした。


「今日の準備では、私たちはあなたたちに何も言いません。私たちを観察して、自分で学びなさい」


 いきなり、突き放した宣言から入りましたね。

 果敢に異議を唱えかけたご令嬢を見つけて、宰相の奥方様が先手を打ちました。


「将来の北国の王子妃になるエルですら、私たちの公務に同行しては、観察して学びとっているのです。幼い子供ができることを、成人間近のあなたたちができないなどと、言わないように」


 参加者たちは、私の足元でお行儀よく立てっていた、私の下の妹をご覧になります。

 エルは、私の下の妹です。六才のうちの末っ子は、今年の春に北国の王子と婚約したんですよ。

 元々王妃様が、末っ子の後見人でしたからね。婚約が決まったあとは、将来の王子妃としての英才教育が始まりました。

 視察などの公務ならば、王族の誰かに連れられて、同行しています。

 可愛い笑顔を振り撒いて、王家の好感度上昇に、一役買っているそうですよ。


 ……王子妃の養育と言うよりは、本物の王女並の待遇を受けている気もしますが。

 王妃様も奥方様も、子宝に恵まれず、一人っ子の王子しか授かりませんでしたからね。お人形のような愛らしいエルを、娘代わりに可愛がっているとしか思えません。

 先代国王陛下ですら、孫娘のようなものと言い切っていますからね。


「エルちゃんが、公務に同行ですか?」

「そうです。王族の妃になる教育は、これほど幼い頃から初めても、早すぎることはありません。

場合によっては、エルは将来の国王の祖母になるかもしれないのです。

将来、国の顔の一人となる可能性のある者に、生半可な教育は施せませんからね。あなたたちも、一緒ですよ。

むしろ、エルよりも学び始めが遅いのですから、頑張りなさい」


 王妃候補である、西の伯爵令嬢が疑問を呈すると、先代王妃様は、一瞥して答えました。


 えーと、エルが将来の国王の祖母?

 ……まあ、可能性はありますね。嫁ぎ先は北国の王家の新しい分家になる、新しい南の公爵家ですから。

 エルの娘が王妃になれば、エルの孫が国王になるかもしれません。

 王女のいない現在の王宮では、うちの末っ子は、最も利用価値がある貴族の娘と言い換えることも、できそうですね。


「……先代王妃様、お言葉ですが、エルちゃんは平民の血をお持ちですわ。いかに王族に輿入れと言えど、国王の祖母になるなど、考えにくいですわ」

「エルちゃんは、雪の天使ですよね? 北国の南地方の公爵家がいない今となっては、北国の王家の選択肢としては、十分にあり得ます」

「そうです。北国の古き王族、南の公爵の血筋は、四年前に親戚を含めて、すべてが静粛の対象となりました。一滴も残されていません。

ですが、我が国の北地方の伯爵家の子供は、両親の北の侯爵の血筋経由で、古き王族の血筋を受け継いでいます」


 やっぱり、西の伯爵令嬢は、疑問を続けますね。文官のご令嬢が、やんわりと答えました。

 先代王妃様の黙るようにと言う、視線を感じ取り、口をつぐみましたけど。


 先代王妃様は、女傑の王妃です。西国との戦後処理を王妃として行った、強き王妃なのです。

 その女傑の視線に負けて、西の伯爵令嬢は、瞬間的な恐怖を感じたようですね。


 ……それにしても、文官のご令嬢は、うちの「雪の天使の血筋」を知っているようですね。

 さすが宰相の腹心である、内務大臣のご息女です。王妃の国政の補佐をするために、側近候補になっただけあり、知識を持ち合わせていましたか。

 一年前に、王太子の側近候補を剥奪された、おバカな弟殿とは、大違いの姉君ですよ。


「それにしても、あなたたちは本当に貴族で、王妃候補なのですか?

王妃候補ならば、我が国の利益を強調しこそすれ、不利益になることは、口にするものではありませんよ。

それに、不勉強です。王妃になるつもりなら、我が国の常識だけでは通用しません。他国へも、視線を向けなさい」

「北の伯爵家に、アンジェリーク秘書官やエルのような外見が発現したのは、神の奇跡に等しいでしょう

太陽の光を集めた、金の髪。青空のごとき瞳に、雪のような白肌。これらはすべて、北国の王家の特徴です。

西国で生まれ育ったわたくしでも、知っているくらい、有名な特徴ですよ」

「これほどはっきりした、北国の王家の外見を持つ貴族の娘は、現在の北国でも少ないでしょう。

北の伯爵家は、父方、母方、どちらの血筋を経由しても、北国の歴代国王に血が繋がります」

「そうなのですか!?」


 北国の国王と聞いて、不用意にも、会話に割り込んでしまいました。現王妃様と宰相の奥方様が、交互に話されているときに。

 女傑である、先代王妃様の視線が突き刺さってきましたよ。


「アンジェリーク秘書官。あなたも不勉強です。特に当事者である、あなたが、祖先の血筋を知らなくてどうするのですか!」

「申し訳ありません!」

「特別授業が終わったら、王宮の戸籍を調べなさい。元男爵家や、平民の旅一座ではなく、北の侯爵の血筋を」

「……はい、かしこまりました」


 およ? 旅一座ではなく、侯爵の血筋ですか?

 母方の雪花旅一座は、北国の王家の分家である南の公爵へ、確実にたどり着く「雪の天使の血筋」です。十代以上前へ、遡りますけど。


 対する我が国の北の侯爵家の血筋が、父方に入ったのは六代前。私の祖父のひいおばあ様ですね。

 母方の方は、四代前。私の母のおばあ様です。どちらも、当時の北の侯爵当主の孫娘。

 こちらの新しい血筋を押すんですか? 貴族の血筋は、古ければ、古いほど価値があるのに。


 ……あ、無知な貴族に、うちのエルの輿入れを邪魔されたくないんですね!

 さっきの西の伯爵令嬢みたいに、平民の血筋云々と言って、腹立つことを言ってくれる、おバカさんがいますから。


 ここには、私たちだけではなく、王宮の使用人がいます。それから、王妃教育の参加者も。

 先代王妃様と私の話を聞いて、北の伯爵家の戸籍を調べる貴族も出てくるでしょう。

 それに対する、予防策を張ったんですね。

 平民の旅一座よりも、侯爵家の血筋を理由にした方が、王家への輿入れに対して、貴族の抵抗にあいにくいと思いますよ。 

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