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76話 王子たちが対立しました

 今日は、王立学園のテスト初日でした。テスト期間である今週は、王妃教育もありません。

 王立学園に在籍している将来の王妃候補に、配慮しました。王妃教育の教育システム責任者の私は、王宮に帰宅した後に、王妃様に呼び出されましたけど。


 国王夫妻の謁見の休憩時間に、謁見室にお邪魔しましたよ。私と王妃様の会話は、国王陛下や謁見室にいる大勢の者が聞いています。


「……確かに特別授業には、良き機会です。明後日の午後、北国の使者が到着する見込みですし。ですが、今はテスト期間ですので、強制参加には賛同しかねます」

「他国の使者をお迎えする機会は、限られています。王妃の重要な仕事の一つを学ぶには、向いているのですけれどね。

アンジェリーク秘書官。勉学への支障についての懸念を述べなさい。

王立学園に在籍しながら、王妃教育を受けている一人として」

「個人的に三年に在学中の南の男爵令嬢、文官のご令嬢、二年の東の侯爵令嬢と辺境伯のご令嬢、豪商のご令嬢、一年の西の伯爵令嬢。

以上の王妃候補及び、側近候補の六名は前回は上位五十番には入っているので、問題無いと推測します。

残りの王妃候補三名は、学業成績が五十番以下で中くらいですので、厳しいかもしれません」

「……王妃教育の授業を受けて、学業成績が落ちたと言われても困りますね。

アンジェリーク秘書官。希望者のみ、明日の特別授業に参加するように、すべての家へ通達を出しなさい。

それから、今回のテスト順位が下落したものは、候補の資格を取り消す可能性があると伝えることを忘れないように」

「かしこまりました。すぐに手配をいたします」

「明日の午後は、北国の使者を迎える準備を行います。

王妃教育の特別授業として、私に付き従い、実践的な王妃の仕事を学んでもらいます。

アンジェリーク秘書官は、エルを連れて強制参加ですよ。将来の北国の王家と親戚になるのですから」

「心得ております」


 という訳で、明日の午後は、特別授業の開講決定です。参加者は、何人になるでしょうかね。

 ……多分、全員参加すると思いますけど。

 実践的な王妃教育は、今まで行ったことがありませんでしたから。


 語学授業が苦手な、三人の王妃候補は、テストの成績が落ちるかもしれませんね。

 敵である、西の公爵派の西の貴族二人と、公爵夫人の実家の侯爵家と裏で繋がっている東の男爵家のご令嬢です。

 元々、来月王妃候補の資格を取り消す予定なので、不都合はありません。むしろ、好機でしょう。


 頭を下げて、退出しようとした私に、今度は国王陛下が声をかけられました。


「アンジェリーク秘書官、今回のテスト勉強は大丈夫か?」

「はい。今回も、首位を取るつもりで、努力しております。

王立学園へ行かせてくださっている、国王陛下のご期待に応えるためにも」

「……そうか。昨夜は寝るのが遅くなったようなので、少し心配していた。

相変わらず、秘書官の無知を知らしめたようだな」

「……私は世間知らずですので。世間勉強も、王都で生活する上で、必要だとは思います。

知らぬことが多すぎて、周囲の方々には、驚かれたり、あきれられたりすることが、よくありますので」

「ふむ。そなたは、地方暮らしの子供故、王都の生活には、なかなか慣れぬであろう。

知らぬことがあっても、恥ずべきことではない。時に美徳と映ることもある。勉強方法には、気を付けよ。アレにも、言い聞かせておく」

「かしこまりました。肝に免じておきます」


 正直、受け答えに困りましたよ。

 昨夜、私が王太子のレオナール王子の私室に連れていかれたことを、国王陛下はご存じのようです。

 レオ様の部屋に居た使用人や近衛兵が、報告したんでしょうね。

 一人で寝る前のお茶を飲むのが寂しいからと、私を強制連行した、レオ様の思い付きの行動を。


 この分だと、道中ですれ違った使用人たちの噂の的に、なっているかもしれません。侍女たちは、噂話が好きですからね。


 去年の夏も、ときどき、レオ様の寝る前のお茶会に招待されて、部屋に行ってたいんですけど。

 皆さん、お忘れなのでしょうか?

 

 ……あのときも、最初の一回は、騒ぎになりましたね。

 突然、王太子が私の部屋にやってきて、強制連行でしたから。

 国王陛下から怒られても、レオ様はケロッとして、私をお茶会に誘ってきましたけど。


 二回目以降は、侍女たちを誘ったり、近衛兵を誘ったり、あの手この手で、星空お茶会を開催しましたよ。

 ロマンチストな王子のお茶会は、女性たちをうっとりさせます。

 そのうち侍女たちは、お声をかけられるのを、心待ちにしていましたね。懐かしいです。


 当のレオ様は、いとこのラインハルト王子、親友である騎士団長の子息殿と外交官の子息殿をつれて、四人で出かけておられます。

 将来の王妃、筆頭候補のクレア嬢の家へ。一緒にテスト勉強をされる、おつもりのようです。

 昨夜のお茶会で「お土産を準備してくれ」と言われたので、クレア嬢の好きな花を選び、花束を準備しました。


 現在、クレア嬢とレオ様の仲は、うまくいっていませんからね。

 今日こそ、仲良くなって欲しいものです。



*****



「アンジェ、聞いてくれ!」


 自室でテスト勉強をしていたら、突然、扉が開きました。レオ様が、私の部屋に入ってこられたのです。

 少々驚きながら、入り口を振り返ってしまいましたよ。いとこのライ様と、親友のお二人が続いて、入室してきます。


「レオ、落ち着いて。単に間が悪かっただけですよ!」

「レオ様、アンジェに愚痴るのは止めようよ!」

「そうっす! 次は上手くいくっすよ!」


 賑やかな四人を見て、察しました。またなんか、失敗したんですね。


「……レオ様。またクレア嬢に突き飛ばされたんですか?」

「そうなんだ! 休憩時間に話してて、イケると思ったから、軽く手を握っただけだぞ?

なんで、悲鳴をあげられながら、突き飛ばされないといけないんだ!」

「ですから、レオは間が悪いんですよ。私が握っても、クレアは嫌がりませんよ?」

「僕は悪くない! ライの場合は、要領が良すぎるんだ!

僕が突き飛ばされた後、我に返って、落ち込むクレアを慰めるんだからな!」

「あー、今日も、いつも通りの展開ですか」


 ものすごく鮮明に想像できましたよ。

 レオ様に手を握られて、驚いたクレア嬢が赤面しつつ、手を振り払ったんでしょうね。

 ただ、そのときの振り払い方が、思いっきりやられるので、レオ様が吹っ飛ばされると。

 クレア嬢に悪気はないのですけど、驚きで力加減ができずに、そんなことになるようです。


 何度か、クレア嬢からも「つい過剰反応をしてしまう。どうしたら良いだろう」と、相談をうけました。

 将来の王妃は、純情な方ですからね。ロマンチストなレオ様の行動が、予想の範囲外になるようです。

 兄君に協力してもらい、少しずつロマンチックな行動に慣れるように、助言を行いましたよ。


「アンジェ、こんなときは、どうしたら良いと思う?

お前、クレアの親友なんだから、案を出してくれ!」

「……力いっぱい体を押されても、吹き飛ばされないように、身体を鍛えてみたらどうですか?」

「それじゃあ、根本的な解決にならないだろう! 真面目に答えてくれ!」

「私は真面目ですよ。一度、うちの弟に協力させて、さりげなくレオ様と同じ行動をとらせてみたことがあります。

突き飛ばされても、少し体の重心を乱したくらいで、椅子にとどまったと。

その後、私の差し金だと種明かしをして、笑顔を引き出して、握手をしたそうですよ」

「騎士になるために鍛えている、お前の弟と、公務に追われて鍛えられない僕を比べるな!」


 怒鳴ってくるレオ様がうるさいので、ジト目になりました。

 親友のお二人に視線を送ります。


『うるさいので、なんとかしてください。テスト勉強の邪魔です』

『しばらく、しゃべらしといてよ。そのうち、しゃべり疲れて黙るから』

『ワガママ王子は、ほおっておくのが一番っす』


 外交官の子息殿と、騎士団長の子息殿は、あっさり見捨てましたね。隣の客室に移動していきました。

 仕方ないので、いとこのライ様にも、眼力でお願いしましたよ。


『なんとかしてください。フォローは、ライ様の仕事でしょう?』

『はいはい、しておきますよ』


 軽く肩をすくめて、瞬きの返事をしてくれました。レオ様に話しかけます。

 これで、静かになってくれるといいのですけれど。


「レオ。あなたが、真面目に秘書官の助言を聞かないのなら、挽回のチャンスはないでしょう。

クレアは、私が口説きますよ? なんでもかんでも、クレアのせいにするあなたよりも、幸せにしてあげる自信があります」

「……クレアは、僕の嫁だ。皆が、そう思っているし、僕もそう思っている。ライが口説くな、僕が口説くんだから。

僕は国王になる者として、クレアを娶らないといけない。家族みんなから、念を押されている」

「将来の夫になるつもりなら、努力することですね。

一応、クレアの気持ちは、将来の王妃を目指して、あなたに向いているんですから」

「うるさいな。体を鍛えて、クレアの突きに堪えれば良いんだろう。

吹っ飛ばされなければ、いくらでも抱きしめて、口説けるはずだ」


 仏頂面のレオ様の言葉に、ライ様は無表情になって反論します。


「……レオ。一つだけ、言っておきますよ。選ぶのは、あなたの権利ですが、クレアにも選ぶ権利はあります。

あなたが将来の妻を選ぶように、クレアも、将来の夫を選ぶと思った方が良いですよ」

「なんだそれ。クレアが、王妃にならないようなことを言うつもりか?」

「王妃候補には、王妃だけでは無く、宰相の妻になる未来もあるということですね。

少し前までは、あまりクレアを口説くことに気は進まなかったのですが、私も覚悟を決めましたから」


 仏頂面が氷の瞳を向けると、無表情は王家の微笑みを浮かべて、受け流しました。

 隣の部屋にいた、親友のお二人や、護衛の近衛兵は、驚いた顔で扉から覗いていましたよ。


 一人の女性をめぐって、王子たちが対立しましたからね。大問題がおきました。

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