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7話 恋って、なんですか?

 元王太子妃候補の方々に待ち伏せされ、危険な状態だった私は、レオナール様に救われました。

 仏頂面のレオ様のお供をし、校門に向かうと、レオ様が途中で降りたという、王家の馬車が戻ってきて待機していました。

 いつものように扉を開けて、レオ様が乗り込むを待ちます。


「アンジェも、中に入れ」

「ですが……」

「命令だ、乗れ!」


 馬車に乗りかけた王子は、少し振り返り、私に命じられました。

 朝の学校の通学時、王家の庇護を受ける私は、恐れ多くも、王子の馬車に同乗させてもらっています。

 ですが、男爵の私の指定席は、馬を操る御者席の隅っこです。

 帰りはあちこち秘書官の仕事で立ち寄ることもありますので、徒歩で帰りますし。

 とまどっていると、怒鳴られました。


「今日は、急いで帰りたい。お前が御者席にいたら、速度が出せないだろう。落ちたら困る」

「……かしこまりました」


 仏頂面の視線をたどってみると、元婚約者候補のお二人の姿が。

 私はレオ様に一礼をして、馬車の内部にお邪魔させていただきました。

 ふかふかのクッションに、豪華な装飾。何度見ても、すばらしい馬車です。


「ここに座れ。今は正面から顔を見られたくない」

「はい、失礼します」


 命じられた通り、レオ様の横に座ると、すぐに馬車は出発しました。


 想像していたほど、馬車の速度は出ませんでした。護衛の徒歩の兵士が取り囲むので、そんなに速度を上げられないのでしょう。

 窓が全て開けられているのは、うっそうとした心を開放的にしたいからでしょうね。中の会話は、兵士たちに丸聞こえになりそうです。


 とりとめもなく、そんなことを考えていたら、王子が口を開きました。


「なんで、女はあんなことができるんだ? 僕と言うものがありながら、あいつらは!」


 えーと、これは私に問いかけているのでしょうか?

 それとも、愚痴の独り言なのでしょうか?


「アンジェ、聞いてるのか?」


 あ、問いかけだったんですね。


「なぜと言われましても……レオナール様の女性の扱いが、下手だからだと思います」

「僕は心を砕いたぞ。婚約者候補を二人に絞ってからは、特にな」

「でしたら、レオ様が、女心が分からぬ唐変木(とうへんぼく)だっただけの話です。

公爵家のファム嬢も、子爵家のルタ嬢も、贈り物の値段や品数で相手の愛をはかろうとするタイプの女性でしたから。

ご助言は、しましたよね? 婚約者候補は、貴族のご令嬢ばかりなので、こまめに贈り物をするようにと」

「……そもそも、その考え方が理解できん。愛は握りあった手の温もりや、共に過ごした思い出の数で、確かめあうものだろう! 違うか?」

「つくづく、レオ様って、ロマンチストですよね。両思いなら実現可能だと思いますが、あのお二人のように、恋愛感情以前の段階なら、ありえませんよ。

ましてや、貴族は民から品物を貢がれることに慣れております。他人からもらうのは、当たり前です。

王子から、手作りの花束をもらって純粋に喜ぶ貴族は、貧乏な田舎貴族のうちくらいだと思ってください」

「……お前、傷付いている相手に、塩をぶつけるか?」

「意見を求められたのは、レオ様ですよ。お答えするのが、私の仕事ですので、お忘れなく」


 国の将来を思い、常に理想を追い求めるレオナール様の姿勢は、尊敬しています。

 ですから、ご自分の足元を見ることを忘れないように、忠告を申し上げるのです。


「レオナール様、秘書官として申し上げます。今度選出された婚約者候補に、あなたの理想を求めることは諦めてください。

王家の結婚相手は、権力や利害が絡むことが当たり前です。おとぎ話の姫君のような存在がいるなどと幻想を追い求めず、現実を受け入れてください。

ましてや、先日のお二方のように、性格上の問題点をお知らせしても、『王妃教育を受ければ直るだろう』と楽観視して問題放置するのは、もってのほかです。

過去のあなたの行動の結果が、今の状態なのですから。各方面にどれほどご迷惑をおかけしたか、ご理解していますよね?」

「わかっている。今回のことは、身に染みた。皆に迷惑をかけ、本当に自分が情けなく思う。

だが、もう少しだけ待ってくれ……今は心が痛い。僕は、あの二人を愛そうと努力した。だが、無駄な努力だった。僕は単なる道化だったんだからな」


 そういうと、腕を組み、私に寄りかかってきました。疲れておられるのでしょう。

 ですが、私も疲れています。王妃教育の講師の方々を引き留めるために、奔走しましたから。

 重いですと文句を言おうとすると、先にレオ様が口を開きました。


「……どうして僕は、王子に生まれたのだろう。民たちみたいに、一生を共にする嫁を、自分で選ぶこともできないなんて」

「選ばれたではないですか。見目麗しく、気品あるご令嬢がたを」

「それはそうだが……父上がもっと考えて、候補を選んでくれれば、こんなことにはならなかったかもしれないだろう」

「お父君を悪く言わないでください! 国王陛下のご期待に添えられるような王妃教育を、お二方に施せなかった私の失態です。

国王陛下は、レオ様のご希望通りの方々を選出してくださいましたよ。

『内面は少し足りぬ者が多いから、将来の伸びしろに期待している』と、付け加えておりましたが。

……レオナール様、ご家族の悪口は、絶対に言ってはなりません。親というものは、子供の幸せを願って行動するのですから」


 亡くなった私の父も、そうでした。

 五年前、領地に流行り病が広がったときの行動は、今でもよく覚えています。

 治癒率が低く、かかると命を落とすのが当たり前の、死の病でした。

 父は領民たちを説得し、まだ病にかかってない者を集め、無事な地域へ移動させました。

 そのときの説得の言葉は、「自分は死んでも構わないが、子供だけは助かって欲しい。私の思いに共感する者は、ついてきて欲しい」です。


 父の行為のおかげで、流行り病の被害は、最小限で済みました。

 領地を見回っていた父は、すでに病にかかっており、自分の命が短いことを悟っていたのでしょう。

 私に領主の代行をするように言い含め、祖父に後のことを全てたくし、流行り病の地域に戻っていきました。領民たちと最後を共にしたのです。


 今の私が、領主を務めていられるのは、父のおかげです。父のような、理想の領主を目指していますから。


「アンジェ、聞いてるのか? また貧血か?」


 気が付けば、レオナール様のお顔が、間近にありました。ちょっと物思いに沈んでいたようですね。


「王妃教育の任のことを思うと、気が遠くなるのは当たり前です。責任重大ですから」


 とっさに、ごまかしました。本当のことを告げれば、レオ様がまた過保護になってしまいますからね。


「王妃教育か……どこかに、母上のような者はいないだろうか。そうすれば、すべてが円満に解決できるのに」

「レオ様」

「わかっている。冗談だ。ただ……父上と母上のような関係には、どうしても憧れる。

夜会で初めて出会ったとき、父は母を見て、一目で運命の相手だと悟り、母は父を見て、赤い糸がつながった相手だと思ったそうだ。

父上の婚約者候補の中に、母が選ばれるのは当然だろう。運命の赤い糸で結ばれた相手だったのだから」

「お互いが一目ぼれですか……運命の赤い糸とは素敵な表現ですね。

愛し合う二人なら、どんなも困難も、乗り越えられるでしょう」

「……お前から、愛や、素敵なんて言葉が出るとは思わなかったな。『運命なんて、非現実的だ』と、言うと思っていたぞ」

「失礼ですね! うちの両親だって、相思相愛で結ばれたんですから!」

「怒るな、からかって悪かった。まあ、僕が将来の嫁に求める思いは、両親の影響だと思う。

僕は恋をして、愛を確かめあって、そして結ばれたい。両親のように、恋愛結婚が理想だな」


 ロマンチストなレオ様らしい、願望ですね。次の婚約者候補の中に、恋のできる相手がいることをお祈りしますよ。


「恋がどんなものか、まだよくわからんが、胸がドキドキしたり、心臓の辺りが温かい気持ちになれるそうだ。すごく楽しみだな」

「レオ様、水を差すようですが、それは心臓の病気なのではないでしょうか?」

「……アンジェ、お前は、雰囲気をぶち壊すのが得意だな。絶対、恋したことないだろう?」

「ありません。今のところ、興味ありませんし」

「寂しいやつだな。初恋とかは? 好きなやつくらい、いただろう? 一応、僕の初恋相手は、母上だったんだと思う」

「好きな人など、いませんよ。幼いころは長子として、弟妹の世話に明け暮れていましたし。

十才で父が亡くなり、いきなり名ばかりの領主代行になったんです。

祖父の補佐でようやく安定したかと思えば、十二のときに北国の内乱の余波を受けて、領地が滅茶苦茶になりました。

国の支援を受けて、やっと持ち直して、十四で正式に領主襲名。

さてこれからと言ったところで、国王陛下からのご命令で、十五でレオ様の秘書官です。

どこに、うつつを抜かす時間があるというんですか? ありませんよ」

「……そうか。お前、初恋すら知らない、お子様なのか。聞いた僕が悪かった、本当にすまん」


 ちょっと、なんですか、その憐みの視線。右手で肩を叩かないでくださいよ。

 レオ様が窓を開けているから、兵士たちにも丸聞こえで、同情する声が聞こえて来ますし。


 皆さん、本当に失礼ですね!

 別に恋を知らなくても、問題ありませんよ!

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