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61話 現状分析しました

 王妃教育のお茶会が終わった直後、王子たちは西の公爵家の小飼の王妃候補に囲まれておりました。

 お茶会に乱入した先代国王夫妻が、早くひ孫が抱きたいと、孫たちにせっついたからです。

 その気になった王妃候補のご令嬢は、王太子のレオナール王子の心を射止めようと活動開始したのでした。


「レオナール様、王妃教育が終わりましたし、これから遊びに参りませんか?」

「わたくし、一緒に夕日が落ちるところを見たいですわ」


 積極的なご令嬢たちですね。真夏なので肩の出た服装ばかりですよ。

 これがレオ様の言った、「他の女は頼まなくても、肩を見せてくれる」根拠ですか。

 私は肩を出した服装なんて、舞台衣装以外では着ないですけども。恥ずかしくて、できませんよ。

 王都と田舎の意識の違いでしょうね。


「えーと、この後は公務が残っていて、出かけるのは無理なんだ。

なっ、アンジェリーク秘書官、そう言う予定だったよな?」

「……午後四時から、乗馬して騎士団の演習を視察される予定ですね。

ご令嬢たちと遊びに行くのは難しいと思いますが、三十分のお茶会の延長は可能だと思います」

「という訳だ、お茶会の延長で我慢してくれ。僕は王子としての勤めを果たさないといけないから」


 レオ様は皆さんの視線を私に向けさせた隙に、この場から逃げ出そうとしましたので、退路をふさぎました。

 レオ様は、一瞬、私に恨みがましい視線を向けましたけどね。

 このままでは、ご令嬢たちの暴動が起きかねませんから。王子の勤めを果たしていただきましょう。


「私も、レオと一緒に、演習の視察に行きますから、お茶会で我慢してください」


 そつなくご令嬢たちを誘導する、ラインハルト王子。

 積極的な王妃候補たちは、恋の駆け引きをしているそうです。 

 ライ様は、恋の駆け引きを楽しむ傾向があると、親友である外交官の子息殿から聞きました。

 レオ様と違って、現在の状況をそれなりに楽しんでいるようですね。


「ラインハルト様は、どのような奥方が欲しいですか?」

「私の好きになった娘が、私の妻ですね」


 ライ様の花嫁希望のうち、南の男爵令嬢は、父君である宰相殿から正室にするのを拒否されています。

 それ以外は、やはり敵対勢力なので花嫁になれません。


 積極的な皆さんは 、来月、候補の資格を取り消される事が決まってますけど。

 レオ様やライ様にとって、敵対勢力の娘なので、絶対に王妃にも、側室にも、なれません。

 何も知らない、幸せなおバカさんたちですよね。


 新たな王妃候補が選出されてから、半年以上たちます。

 初期と比べて、かなり状況が変わりました。


 王家の力関係に気づいて、対策するようなご令嬢ならば、レオ様も見直して、王妃候補に残れたかもしれません。

 野心家の父君と決別しようとあがいている、西の伯爵令嬢のようにね。


「ラインハルト様、お隣よろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。あなたが私の隣に座るのは、三週間ぶりですからね」

「まあ、よく覚えていてくださいましたね」

「婚約者候補のことは、一人一人覚えていて当然ですよ」


 このご令嬢は、西国と我が国を巻き込んで進んでいる陰謀に、巻き込まれております。

 本人は、陰謀を全く知らないでしょう。

 ですが、王妃候補に名が上がっているのに、西国へ嫁入りさせらようとしていますからね。

 異変は感じ取っているようです。身を守るために、王子たちに何とか近づこうと頑張っていました。


 父君から「王妃にはなれないのだから、礼儀作法だけ学ばせてもらい、嫁ぎ先で役立てなさい」と言われたようですね。

 王妃になれなくても、国王の側室になる道があります。

 ラインハルト王子に見初められて、将来の宰相の奥方の一人になる道も残されています。

 ご令嬢は、後者の道を選択したようでした。


「西国の個別授業は、進んでいますか?」

「ええ……まあまあ」

「全く知らない言語を最初から学ぶのは大変でしょう。ですが、私の母は西国の出身ですからね。

王家親族の間では、西国の言葉で会話することも良くあります。

あなたは他のご令嬢よりも、西国の語学力に劣りますからね。きちんと頑張ってください」

「こ、心得ております」


 周囲にいる西の公爵派のご令嬢は、センスの裏でクスクス笑っていました。

 相手に目をかけるふりをして、大勢の前で欠点をあげつらい、惨めな思いをさせますか。

 ラインハルト王子は、嫌な戦法を取る方ですね。

 まあ、これくらいでへこたれるような、ご令嬢ではうちの弟の花嫁はつとまりませんからね。


「あ、アンジェの兄弟も、一緒に語学授業を受けることがありますが、どうですか?

エルの言葉の書き間違えは、減っています? 

子供は物覚えが悪くて王妃教育の妨げになるので、集団授業から遠ざけましたけど、……居ないと寂しいんですよね」

「エルちゃんは、まだ右向きと左向きを反対に書いていますね。お兄様が、懸命に正しい書き方を教えておられましたよ」

「そうですか。やっぱり、同じ間違いをしているんですか。

せめて左右を正しく認識できなければ、授業復帰は難しいでしょう」


 子供は邪魔になると言う名目で、うちの末っ子エルは語学授業からは遠ざけました。

 エルは六才の子供です。物覚えは、敵対勢力のおバカな王妃候補より、格段に上ですよ。

 現在の王妃教育の語学授業は、基礎の基礎なので、退屈すぎてエルがぐずるようになったのです。

 なので、個別授業を行ってもらい、語学を教えています。


 うちの末っ子と一緒に、個別授業に放り込まれた王妃候補と側近候補もいます。

 その者たちは、他の王妃授業参加者から学力が劣ると、王子たちは吹聴していました。


 嘘です。情報操作です。

 将来、語学講師にするために、集中して教えているのです。

 私たちの敵である西の公爵は、王宮に自室を持っていて、小飼の王妃候補と会話することがありますからね。怪しまれないようにです。

 個別授業参加者には、味方だけではなく、敵対勢力のご令嬢もいます。

 西の公爵も、こちらの出方を伺って、沈黙しているかんじがしました。


 レオ様は先の見通しを立てて、策を張り巡らすお方ですからね。

 語学講師には、自分の後継者を作る気概で個別授業に挑み、一から基礎を叩きこんで欲しいとお願いしました。

 完璧に覚えるまで、授業は先に進まないので、進度はものすごく遅いです。

 物覚えが悪い者が個別授業を受けさされていると、おバカな王妃候補には写るでしょうね。



「大おじ様、大おば様、ご一緒しても宜しいでしょうか?」

「構わぬ、そこに腰かけよ」


 積極的なご令嬢たちから離れて、先代国王夫妻とお茶会を始めるのは、東地方の貴族たちです。

 東のクレア侯爵令嬢も、辺境伯のご令嬢も、先代王妃様の親戚ですからね。

 レオ様たちに積極的に恋の駆け引きをしなくても、最初から大きなアドバンテージを持っています。

 先代王妃の後ろ楯という、コネをね。


 クレア嬢が筆頭王妃候補と言われるのは、高貴な血筋と語学留学をしていた頭脳を持つからです。

 祖父は先代の王妃様のご兄弟で、ご自身はレオ様やライ様のはとこですからね。

 真面目に王妃教育を受けていれば、よほどの事が無い限り、将来の王妃の座は揺るがないでしょう。


 現状で最も警戒すべきは、クレア嬢の暗殺でしょうね。次いで、東の辺境伯のご令嬢。

 王家の分家である、西地方の公爵家は、自分の派閥の貴族の娘を、王妃にしたいでしょうから。


 ただ、筆頭王妃候補が亡くなったとなれば、黒幕探しは盛大に行われます。

 一番に疑われるのは、王族の本家と仲の悪い、西の公爵。


 ですが、西の公爵ならば、私に罪を擦り付けるでしょうね。

 邪魔な北地方の貴族ですから。

 失脚させて、政治の表舞台から葬り去る作戦をたてるでしょう。


 まあ、実行するには時期が早いと判断する思いますけど。

 うちの領地に、ちょうど北国の使者が来ているんですよ。


 末っ子のエルは、北国の王子と婚約中です。

 そして、一般には知られていませんが、うちの母の祖先は北国の王家です。

 その気になれば王家の血筋を明らかにして、北地方を北国に合併することもできます。

 雪深い北国にとって、まだ雪の少ないうちの領地は、大歓の土地ですからね。


 我が家は、我が国にとって危険因子なんですよ。

 貴族の一員でありながらも、親北国派と判断されていますからね。

 その辺りの事情もあって、西の公爵も、うかつに手が出せません。

 表だって私を敵に回せば、確実に北国が敵になります。

 国王陛下も北国を敵にするつもりはないので、我が家を懐にひきこもうと、あれこれ手厚く庇護をしてくれています。

 私もその辺りを分かっていて、庇護を受けていますからね。もちつもたれつですよ。


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