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6話 逆恨みは困ります、因果応報ですよ

 我が国における王太子妃の条件は、他人よりも何かに秀でていることと思われます。

 王太子妃がいずれなる王妃とは、国の花とも、国の顔ともいえる存在ですからね。

 気高き品位と豊富な知識、誰もが認める美しさ。比類なき慈愛。

 そういったものを、兼ね備えているのではないでしょうか?


 まあ、私の発想は、貧困だと思いますよ。貴族の末席ではありますが、王都とは無縁な田舎貴族でしたからね。

 今なら、レオナール王子の母君である、現在の王妃様のような方が理想と断言します。


 だからでしょう。レオナール様は、婚約者候補に母君のような、気品と美しさを求めました。

 私が国王陛下の命令で王都へ来て、王子の秘書官に任命された時には、もう婚約者候補は五人にしぼられておりました。

 さらに王子がご自身で選ばれたのが、気高さの公爵令嬢。奇跡の美貌の子爵令嬢です。


 本当に外見は、素晴らしい方々ですよ。内面の性格が問題ありなので、王妃教育で矯正する途中でしたけど。

 お二人は、自分から王妃教育を拒否して、王妃の資格の一つ「豊富な知識」を捨てられたのです。

 そして、男爵の私に対する言葉遣いや、学園での行動の問題で、「比類なき慈愛は持ち合わせず」とご自身で証明されました。

 レオナール王子が、婚約者候補の再選考を国王陛下にお願いするのも、仕方ないですよね。



 王子がお願いしてから、二週間後の昨日。正式に、王太子妃候補の撤回が発表されました。

 「将来の王妃として不適」とされたお二方は、今朝から不満タラタラです。

 うるさいので、日中は侯爵令嬢にお願いして、ご友人たちと一緒に過ごさせていただきました。

 ご令嬢は、最近できた、私の友人の一人です。前回の王太子妃候補を決めるときは、隣国に留学中で、最終選考に残らなかった方でした。

 貴族の中で、第二位のご令嬢ですからね。公爵令嬢も、子爵令嬢も、おいそれと手が出せません。本当に助かりましたよ。


 それでも、元婚約者候補たちは、機会をうかがっていたのでしょう。

 取り巻きを引き連れて、校庭に陣取っておりました。帰宅間際の私の前に、立ち塞がるのです。


 ええ、予測はしていましたので、驚きませんでしたよ。内心、あきれておりましたが。

 女性の神経は、本当に図太いですね。いがみ合っていたくせに、結託するのですから。


「アンジェ秘書さん、どういうことですの?」

「ファム嬢。私の仕事には、婚約者候補の秘書として、お二人の学園内の行動を国王陛下に報告することも含まれますので」

「あなた、レオナール様に何言ったの。白状しなさい!」

「国王陛下に報告したのと、同じことを、王子にも報告しただけですよ、ルタ嬢。なにか問題でもありますか?」


 あー、外野がうるさいですね。取り巻きたちから、粗野な言葉が飛び交っています。

 まあ、故郷で起こった暴動を経験すれば、これくらいで怯む私ではありませんが。

 さっさと茶番劇を終わらせて、王宮へ帰りたいですね。


「公爵家のわたくしが、婚約者候補から外れるなんて、考えられませんわ!」

「ファム嬢、ご自分の行動は、ご自分がよく知っておられるでしょう?

理解されたら、そこをどいてください。全生徒たちの通行の邪魔です」

「あなたが、小細工したんでしょう! ずる賢い、男爵風情ですもの」

「言いがかりですね、ルタ嬢。婚約者候補の再選出を願い出たのは、レオナール王子です。理由は王子自身に聞いてください」

「そんなに理由を知りたいのか? 候補取り消しの理由は、決まっているだろう。

補佐をする秘書の忠告を聞かず、自分を律することのできない、自堕落な王妃はいらん。

将来、贅沢三昧をし、国を滅びに導く者を、伴侶にするわけないだろう」


 私の後ろから、王子の声がしました。

 えっと、校舎の中ですよね? おかしくありませんか?


「あれ、レオナール様? 御帰宅なされたのでは、なかったのですか?」

「僕の元婚約者候補が結託して、校庭に向かう相談をしていたって、教えてくれたやつがいてな。

婚約者候補の取り巻きから、お前が危害を加えられかけた前例があっただろう。

心配だから、途中で馬車を下りて徒歩で戻ってきて、あそこの影で話を聞いていたんだ」


 腕組みしながら登場する、レオ様。王子の威厳たっぷりです。


「アンジェがいない間のお前たちの行動、僕がどんな気持ちで観察していたか、考えたことがあるか?

王妃教育は真面目に受けない。学園では貴族の権力を振りかざし、平民の生徒を強いたげる。これが、王妃の器とでも?」


 おバカさんたちは静まり返り、王子に注目しています。


「あげくの果てに、二人とも、僕以外の男を集めて(はべ)らせる。学園内でも、家でもだ。

僕の嫉妬をあおったつもりかもしれんが、男としての嫉妬よりも、人間として軽蔑が強くなったぞ。非常に不愉快だ」

「レオ様、家でもって……家でも集めて(はべ)らせる?」

「そうだ。僕との面会の窓口である、お前が居ないから、二人とも僕と会える機会が減って寂しくて、学園でそんなことをしていると思っていた。

だから、王妃教育が休みの日は、なんとか僕も一日休みを作って、お忍びで午前中は公爵家へ、午後は子爵家へ訪ねて行くことを繰り返していたんだ」


 レオナール様の衝撃の告白に、校庭は静まりかえっておりました。


「そしたら、ファムの部屋からは、いつも男の笑い声が聞こえるんだ。窓を観察すれば、そこにいるやつらの誰かが、見えていた。

一月前は、そっちの男で、二週間前は、そこの男だったよな。

ルタも同じだ。一月前は、あそこのやつ。二週間前は……お前だ」


 いつもの王子スマイルを消し、仏頂面で婚約者候補のお二人と取り巻きを睨む、レオナール王子。

 このときの王子のお顔、父君である国王陛下にそっくりで、威圧感が半端ないんですよね。


「なるほど。毎回お忍び外出の際に、庭園から花を摘み準備されていたのは、元婚約者候補のお二人に花束を贈られるためだったのですね。

行き先をお教えくだされば、贈り物くらい、秘書官の私が手配しましたのに」

「将来の嫁の所へ、訪ねて行くんだぞ。僕自身が準備しなくて、どうする。お前に教えれば、お忍びで会いに行けないし。

ファムは、僕の選ぶ小物はルタにやるくらい、気に入らないようだから、わざわざ手作りの花束に変えたんだ。

毎回、訪ねるたびに無駄になったがな。本当に、花には、かわいそうなことをした」


 硬派に見えるレオ様ですが、実際は、とてもロマンチストです。

 初めてのお忍び外出の時は、花束を準備されて「どうだ良い感じだろう♪」と、出来具合を私に見せに来ました。

 一応、「枯れて捨てられたらかわいそうなので、ドライフラワーにできる花を選んであげてください。そうすれば、長く大切にしてもらえるでしょう」と、ご助言いたしましたよ。

 結局、花束はお二人に貰われず、私の領地へのお見舞いになりましたが。


「ファム、ルタ。お前たちは、僕以上の男をみつけたんだろう? その男たちと仲良くやれ。二度と、僕の婚約者面をするな!

それから、今後、アンジェに危害を加えたら、国賊と判断し、処罰するぞ」

「王子、差し出がましいようですが、それは言い過ぎでは?」

「将来の王太子妃の代わりは、いくらでもいる。だが、将来の王太子妃の秘書は、アンジェしかいない。

我が父が見いだし、将来の国王夫妻を支えるために手元で育て、王家の庇護のもと、学園に行かせている人材なのだからな」

「なるほど。確かに、国王陛下が望まれて、王都に連れてきた子供は、王子の親友であらせられるお二方と私だけですね」

「そう言うことだ」


 レオナール王子の補佐をするのが、秘書官である私の仕事です。王子の理論が崩れないように、補強しておきました。

 学園の生徒が一目おく、王太子の親友。騎士団長の子息殿と外交官の子息殿。その方と私の扱いは、同列と言うことですね。


「アンジェ、帰るぞ。供をせよ」

「かしこまりました」

「そろそろ、新たな僕の婚約者候補の最終選出が、終わったころだろう。

今度は、外見にこだわらず、内面も持ち合わせた候補者を選んでくれるように、父には頼んだ。

あの二人のように、身の程知らずで、外面だけ良い嫁なんて、僕はいらん!」

「……おいたわしや。レオナール様、心中、お察しいたします」


 レオナール様と歩きながらわざと大きな声で、会話をします。

 おバカさんたちに、盛大に恥をかかしてやりましょう。

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