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57話 ……墓穴を掘っていますよ?

 ワガママな一人っ子王子は、ご自分の劣勢を悟られたようです。

 同室にいる年長者たちから、あきれた眼差しで見られても、仕方がないでしょう。


「レオ王子、雪の天使の姫君から、手をお離しください。

一方的な押し付けなど、将来、国を背負う者としてあるまじき行為ですよ」

「嫌だ。アンジェが居ないのに、国を継いで何になる!」


 最初に口を開いたのは、王太子の新しい秘書官殿でした。

 王妃様のご出身である南地方の侯爵の親戚は、レオナール王子に強い口調で声かけができます。


「王子、ワガママも大概になさいませ。見苦しいですよ!」

「ワガママじゃない、自己主張だ!」


 侍女殿は、言葉を強めました。

 東地方の侯爵令嬢だった、先代王妃様の親戚であり、王妃様の親友でいらっしゃいます。

 王太子であるレオナール様が、生まれた頃から接している方ですからね。

 レオ様の体が、びくりと震えたのが、分かりました。恐れているようです。


「王子様、家臣の苦言を無視するなど、愚者のすることですよ。

ご理解されたら、娘を返してください」

「断る! 母上にアンジェを返したら、二度と会えなくなるから、嫌だ」


 私の母は言葉を選びながら、レオ様に話しかけました。

 私を抱きしめたままのレオ様は、益々両腕に力を込めて、離れまいとします。


 ……これは、あれですかね。レオ様は、ご乱心と言うやつですかね。

 こじれる前に、一度冷静になって、きちんと話し合いたいですけど。


 抱きしめられたままでは、私は会話がままなりませんからね。

 どうしたものでしょう。


「アンジェリーク、王子様にきちんと自分の意見をお伝えしなさい。

そして、手を離してもらうのです」


 ……お母様、無茶苦茶を言わないでください。

 そんなことができるなら、とっくにやっていますよ。

 できないから、無言なんですってば!

 何となく、レオ様が焦っている理由は、推理できましたけど。


「アンジェリーク、母の言葉を聞いているのですか?」

「……もしかして、また意識消失を? レオ王子、雪の天使の姫君から離れてください」

「え? アンジェ? おい、アンジェ、また意識が飛んだのか!? 答えろ!」


 えーと、レオ様にあきれて、そっぱを向いてやり過ごそうとしていた、私が悪いんでしょうか?

 抱擁が解けたかと思うと、肩をつかまれ、激しく前後に揺さぶられました。

 視界がガクンガクンと揺れすぎて、気持ち悪いですよ!


「王子、なんて乱暴なことをなさるのですか!

手を離しなさい!」


 すぐに動いたのは、侍女殿でした。容赦なく、レオ様の背中を叩きます。

 良い音とレオ様の悲鳴が響きました。


「女性はか弱いのですから、丁寧に接するようにと、わたくしはお教えしましたよ?

何を聞いているのですか!」

「ひっ、ごめんなさい!」


 およ? レオ様が素直に手を離して、侍女殿に謝りました。


 ……どうも、侍女殿に頭が上がらないようです。

 この様子だと、侍女殿は、レオ様の乳母の一人だったのかもしれませんね。


「秘書官、またとは、どう言うことですか? あなたは、事情を知っているようですね」

「その……医者伯爵様の説明によると、雪の天使の姫君は、精神的負担がかかりすぎると、防衛反応で意識を失うようです。

私が実際に見たのは、昨日が初めてでしたので……先ほどは、どのような対処をすれば、判断がつかなかったので」


 侍女殿に視線を向けられた新米秘書官殿は、しどろもどろに答えております。

 レオ様から解放され、侍女殿にかばわれた私は、ようやく生きた心地がしました。

 ゆっくり息を吐いて、深呼吸をします。


「姫君、気をしっかりお持ちください。

王子が手荒な真似をして、申し訳ありませんでした。

もう少し、女性の扱いかたを、しっかりお教えしますので、ご容赦を」

「……侍女殿、よろしくお願いします。

レオ様は、女心が分からない唐変木ですので、クレア嬢との距離感が掴めず、失敗続きのようですから」

「おい、気がついた第一声がそれか?

このド天然! ひどいじゃないか!」

「私のことを酷いと評するなら、レオ様は悪魔の所業をなさる方です。

私が逆らえないことを利用して、散々、もてあそばれたでしょう!」

「もてあそんだ? 王子様、娘に何をしましたの!?」

「王子、姫君に何をしたのですか? ……まさか、もてあそんだから、妻にするおつもりだと?」


 私の言葉を聞いた母と、侍女殿は、目をつり上げました。

 レオ様に厳しい視線を向けています。


「人聞き悪いことを言うな! 夜伽の意味も知らんやつに、手を出すわけないだろう!」

「……どうして娘が、『夜伽を知らないこと』を、知っているのですか?」

「アンジェに聞いた……むぐ」

「レオ王子、冷静になってください。

墓穴を掘っていますよ。言葉選びは慎重に」


 怒鳴り返すレオ様に、母と侍女殿は、不信のまなざしを向けます。

 気付いた秘書官殿は、レオ様を止めようと、レオ様の口元を押さえました。


 ……私の後輩は、秘書官としての業務に、まだまだ不慣れですね。

 レオ様のフォローをするなら、もう少し早く止めないとダメですよ。

 もしくは、最後まで言わしたあとに、印象を変えるように周囲に働きかけませんと。


 このままでは、うちの母と侍女殿は、レオ様を女性の敵認定しそうですからね。

 これ、私が何とかしないといけませんよね。

 巻き込まれた当事者ですし、王太子の秘書官ですし。


 ああ、また胃が痛くなってきましたよ。


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