5話 祝!婚約者候補が白紙になりました♪
久しぶりに行った王立学園は、大変にぎやかでした。
現状を知って、また腹痛を感じましたよ。
王子の婚約者候補のお二方は、ご存じないでしょうね。
将来の夫になるはずのレオナール様が、私のお見舞いに来るたびに、嘆かれていたことを。
療養期間が一ヶ月過ぎたころから、毎日、同じ事を繰り返しておられました。
「あんなアホな嫁いらん! 新しい嫁が欲しい!」
毎回、王太子秘書官として、仕方なく言動をいさめておりました。
本音としては、さっさとおバカさんには見切りをつけて、幸せな選択をしていただきたいです。
「……分かっている、僕は王太子だ。自分の感情よりも、国の将来のことを優先しなければならない。
僕に至らぬ所があるから、あいつらも、あんなことをしているのだろう。
なんとか、あの二人を愛せるように、もっと努力しなくては」
あんなことって、なんでしょうか?
この部分が引っ掛かり、何度かレオ様や側近仲間に聞きましたが、誰も教えてくれませんでした。
……実際に自分の目で確かめて、納得しましたよ。
口うるさい、お目付け役の私が居ないおかげで、ぶりっこの子爵令嬢は逆ハーレムを加速。
対抗する頭お花畑の公爵令嬢は、ブレーキ役の私が居ないので取り巻きを増やし、廊下の移動がパレード状態。
おバカさんたちは、やりたい放題です。
レオ様同様に、私も、このような伴侶は願い下げですね。
子爵令嬢のような方は、貞操観念を疑ってしまいます。
ルタ嬢には、王太子の秘書として、未婚の間は王子に疑われるような行為は慎むように、忠告しましたよ?
男爵風情が生意気とルタ嬢に反論され、逆ハーレムを構成する方々から、袋叩きにされかけましたが。
病み上がりの私が倒れないか心配して、王子の命令で尾行していた、騎士団長の子息殿のおかげで助かりましたよ。
それから、公爵令嬢は選民思想が強く、王妃になっても、平民には人気が出ないでしょうね。
事実、公爵令嬢の取り巻きは、上位貴族ばかりです。
王太子の秘書以前に、社会のルールとして、廊下は譲り合って歩くように、ファム嬢と取り巻きに注意しました。
それだけで、身分をわきまえぬ男爵が立てついたと言われ、粗野な言葉を投げかけられましたからね。
偶然通りかかった宰相の子息殿が、年下に注意されて怒るなんて、子供以下だとトドメの言葉を放ってくれて、事なきを得ました。
……まったく、王宮で王妃教育を受けるときと、学園でのお二人の態度は、正反対ですよ。
一人の人間として、もう関わりたくありません。
国王陛下の命令がある以上、仕事を放りだすわけにはいきませんが。
お二人の行為を知りつつ、静観している国王陛下。きっと、なにかお考えがあるのでしょう。
※※※※※
今日は、国王陛下のご命令で、話をうかがって行きました。学園の片隅で、ひっそりと生きている平民の生徒たちに。
どうも、私は思ったよりも、人望があったようですね。
平民以外の貴族の方も集まって来て、私の療養期間中の学園の愚痴を聞かされました。
将来の王太子妃候補の二人の増長は、ひどいものだったようです。
王子の側近で、唯一の同学年である、口うるさい秘書の私が居ませんからね。歯止めがききません。
学園の貴族は、公爵令嬢派と子爵令嬢派に大きく割れました。
平民の生徒は、小競り合いを起こす貴族の生徒を、遠巻きに眺める日々。
お二人の取り巻きに入らず、中立を保った貴族は、親レベルで貴族社会から締め出されたようですし。
また、取り巻きでも、王太子妃候補の不興を買ってしまった者は、同じ事をされておりました。
将来の王妃にたてつく、愚か者のレッテルを張られて。
……どっちが愚か者なのでしょうか? おバカさんには、それすら判断できないんですね。
東のことわざでは、「鬼の居ぬ間に、心の洗濯」というそうですが、心の洗濯にも限度があると思いますよ。
国王陛下には、きちんと報告させていただきましたから。
そして、宰相殿の発案で、親レベルで締め出された貴族と、肩身の狭い平民の方々には、救済措置をすることになりました。
日頃、王子と会話する機会のない王立学園の生徒も、王子の学友である。
学友たちとの親交を深めるために、お茶会を主宰したと理由をつけて。
実際は、増長しているおバカさんたちへの、当て付けですけど。
王家主催の私的なお茶会には、王子のサイン入りの招待状をお配りして、家族共々、王宮に呼びました。
そして、お茶会にサプライズで国王夫妻も登場され、大変盛況のうちに終わりましたよ。
国民にとって、王族から声をかけられたと言うことは、重要な意味をもちます。
おバカな貴族ほど、権力を誇示する傾向がありますからね。国王陛下に無視され、ジタンダ踏んだと聞きました。
いい気味ですよ。
お茶会の意味を知ったレオナール王子は、別なことを考えられたようです。
お忍びで出掛けられた、ある日の休日。二つの花束を手にして、虚ろな目で私の部屋にやってこられました。
「もう無理だ。我慢ならん」
「どうなさったのですか?」
「……何でもない。いつも通り、見舞いをもってきたぞ。枕元と窓に飾っておけ」
「ありがとうございます♪ 枯れかけたらドライフラワーにして、次の物資とともに、故郷に贈りますね。
花が乏しい地域なので、レオ様のお心遣いに、妹も、領民たちも大変喜んでいますよ」
「……そうか。人の喜びをもたらせるのなら、僕のつんだ花も、許してはくれるだろう」
「レオ様、何かあったのですか? 変ですよ」
「変か? 花の命は短いが、愛でる気持ちがあれば、永遠に咲き誇ることもできる。
愛でる気持ちが無い者に、贈るよりも、よほど有意義だと思っただけだ」
「失礼しました。いつも通りの夢見がちな、レオナール様ですね」
「夢見がちか……そうだな。夢は、いつか覚める。現実を見つめるときかもしれん。
じゃあな、アンジェ。早く寝て、病気を治せよ」
……よくよく考えれば、この日のレオナール様は、挙動不審でした。
翌日、事態は急展開を迎えます。
ついに王子自ら、婚約者候補の再選出を、国王陛下に願い出たのです。
公爵家のファム嬢。及び、子爵家のルタ嬢。
どちらも、王妃の資格なしと、レオ様は判断したのです。
ずっと静観していた国王陛下は、この日をお待ちになられていたのでしょうね。