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41話 ばったり出会いました

 現在、王都の中央通りにある、白い屋根の喫茶店で、お茶会をしています。

 店の近くでは、王家の馬車と、東の侯爵家の馬車が停車していました。


「王族の皆様とご一緒できるなんて、光栄ですわ」

「同席を許してくださり、心から感謝を申し上げます」


 お客が気を利かせて、そそくさと出ていき、王家の貸し切り状態となった店内。

 唯一残ったお客、東の侯爵令嬢と伯爵令嬢が、深々と頭をさげておりました。


「……なんで、クレアたちが先客で居るんだ? ゆっくりできないじゃないか」

「……仕方ありませんよ、レオ。諦めて王子の勤めを果たしましょう」

「嫌だ。今日はアンジェの弟妹と、兄弟ごっこをするんだ。

それに、クレアとは相性が悪いから、あまり近付きたくない」

「相性悪いですか? レオの場合は、間が悪いんですよ。私は、楽しいですけど」

「じゃあ、二人とも、ライに任せた。僕はチビたちと遊ぶ」

「ご冗談を。私だって、今日は子供たちと遊びたいです」

「じゃあ、クレアたちは無視するか?」

「ええ、無視しましょう」


 離れた所で、ぼそぼそ会話する王子たち。

 多分、お二人の会話が聞こえているのは、近くにいる私だけでしょうね。


 王太子のレオナール王子と宰相の子息のラインハルト王子は、腹黒い本性をお持ちです。

 側近の私には見せても、婚約者候補であるご令嬢たちには、見せたことがありません。

 ご令嬢たちは、憧れの王子様たちが、こんな会話をしているとは、想像もしていないでしょう。


「母上、お茶会の間、僕はアンジェの弟妹と遊んできます。女同士の会話を邪魔してはいけませんから」

「せっかく、小さな子供と外出していますからね。良い思い出を作ってあげたいので」

「あなたたちの婚約者候補と、出会ったのですよ? 一緒に会話くらいしなさい」


 王妃様のお言葉に、困った顔をする王子たち。

 うちの母と一緒に、大人しく席についている弟妹と、婚約者候補のご令嬢たちを見比べます。


 周囲の目があるので、迷っている演技をしているようですね。

 お二人の心は、婚約者候補よりも、うちの弟妹に向いていますから。


「あの……レオナール様とラインハルト様、子供たちを優先してあげてくださいませ」

「わたくしたちは、王妃教育を受けるときに、毎回お会いしていますもの」


 貴族の微笑みを浮かべて、対応するご令嬢たち。本音は、王子たちとお茶会をしたいのです。

 ですが、小さな子供たちのために、年上の対応をしてくれました。

 自分の意見を押し通すワガママ王子たちとは、大違いですよ。

 

「すまんな、お前たち。また王妃教育の授業後に、ゆっくり話そう。ほら、レオ兄様と遊ぶか?」

「たかたかでちゅの♪」

「クレア、また今度、お茶会に誘いますよ。では、ライ兄様と遊びましょうね」

「わあ! 高い、高い♪」


 王子たちは嬉しそうな顔で、私の六才の妹と、十一才の弟を抱き上げました。

 うちの弟妹は、成長が遅れ気味で小柄です。五才と八才くらいの体格しかありません。

 お二人は子供たちを軽々持ち上げて、隣の遊び専用の部屋に連れていきます。

 いつもより高い視界に、抱っこされた弟妹は大喜びしていました。


 ……あれ? さっき小さな違和感を感じましたけど?

 もう一度、お茶会を始めた女性たちを見ます。誰も、何も言いません。私の思い過ごしでしたか。


 気持ちを切り替えて、私も遊びましょう。弟妹の後に続こうとすると、王子たちに追い払われました。


「アンジェ、弟と妹は僕らが面倒を見るから、心配するな。クレアたちとお茶してこい」

「レオと一緒に、きちんと兄様をしますから、安心してください」


 私と視線を会わせた、レオ様とライ様。恐怖の表情を浮かべて、視線で訴えます。


『頼む、母上たちの機嫌を取ってくれ!』

『二人を怒らせると、後が怖いんです!』


 一人っ子の王子たちは、母君の怒りが恐ろしいようです。

 まあ、王太子の秘書官として、日々お二人に接する私は、王宮の出来事を色々と知っていますからね。

 お二人が母君に説教されて、ものすごく落ち込んだ所も見たことありますよ。

 仕方ないので、王妃様たちのご機嫌取りに参上しました。


「王妃様、奥方様。レオ様とライ様が気づかってくれたので、私もお茶会に参加させていただけませんか?」

「構いませんよ。アンジェリーク秘書官は、そちらの母君の隣へお座りなさい」

「ありがとうございます」


 王妃様にすすめられ、うちの母の隣に腰かけました。王妃候補たちと離れた、隣の机ですけどね。


 うーん。これは、王妃様のお茶会に参加すると、都合が悪いんですかね。

 そんなことを考えながら、隣の席のお茶会を観察しました。

 まずは、王妃様が口を開きます。

 

「二人とも、来月の歌劇鑑賞の準備は整えたのですか? 今日一日で、出来る限りの準備をしておきなさいと伝えましたよね。

そのために、今日は王妃教育を全部休みにしたのですから」

「王妃様のお心遣いに、感謝を申し上げます。きちんと整えましたわ」

「はい、王妃様、ありがとうございます。着飾るのが女性の仕事ですもの。準備は滞りなく出来ていますわ」


 ……将来の王妃としては、まずまずの解答でしょうか。二人とも、それなりに、答えていますから。


「アンジェリーク秘書官。あなたも、舞台衣装の準備は出来ていますか?」

「はい。そちらにおられる、東の侯爵令嬢と伯爵令嬢のおかげで、王都で流行しているデザインを知ることが出来ました。

それを参考に、皆様にお見せできる舞台衣装を作り上げましたので」

「よろしい。期待していますよ。

あなたたちも、素敵な舞台ができるように協力してくれたのですね。息子に代わってお礼を言いますわ」


 王妃様に頭を下げられ、恐縮ぎみの王妃候補の二人。それでも、頬は誇らしげに赤くなっていました。

 次に話しかけられたのは、ラインハルト王子の母君。西国出身の奥方様は、西国の言葉で話しかけられました。


『ところで、お二人は、どうしてこのような店へ?』

『同級生が、このお店の噂話をしていましたの。白い屋根で可愛らしいお店とお聞きましたわ。

お菓子が美味しいと評判のようなので、一度訪れたいと思いまして。本日、来店しましたの』

『わたくしは、クレア様に誘われて、ご一緒しましたの。このようなお店があるなんて、知りませんでしたわ』

『そうですか。それにしても、あなたたちの西国の言葉は、この半年で流暢になりましたね。簡単な日常会話なら、西国の国民ともできると思いますよ』

『勿体ないお言葉で、恐縮ですわ』

『もっともっと勉学を重ねます』


 半年間の王妃教育で、二人のご令嬢は西国の言葉を覚えて来ましたからね。

 奥方様も、安心なさったのでしょう。今度は私に視線を向けられました。


『アンジェリーク秘書官は、どうして今日、この店に来ようとしたのですか?』

『同級生から、美味しそうなお菓子を頂いたのが、そもそもきっかけですね。

弟妹にも、食べさせてやりたかったので、場所をお聞きました』

『そう言えば……来る途中で、母君にお菓子をあげたと言っていましたね』

『下見に来たとき、お菓子の種類がたくさんありましたので、迷いました。

あのときは、手で持ち運ぶことを考えて、型崩れしにくいケーキを選んで、買って帰りました。

今日来られなかった弟妹には、この前とは違うお菓子を選ぶ予定です』

『わかりました。それにしても、子供連れで来店できる喫茶店は、珍しいですね。

きちんと別室に遊べる場所を作ってくれているのですから。これなら安心して、家族で来ることもできるでしょう』

『あー、これは、お店の店長のご好意です。お客様のなかには、うちの弟妹のような子供が騒ぐのを、嫌がる方も居ますからね。

下見のときに、小さな子供を連れて来ても良いか、尋ねてみました。構わないといってくれましたので、本日の予約をしたんです。

実際に到着してみれば、遊び専用の部屋を作ってくれていましたからね。弟妹は大喜びで、しばらく母と通いつめる気がします』

『きちんと、小さな子供が遊べる場所を確保してくれるなど、良い対応をしてくれるお店ですね。

わたくしに孫が生まれれば、孫と来たいと思いますよ。将来は、王家の御用達になるやもしれませんね』

『なるほど。これほどのお店ならば、友人たちにも、自信を持って勧められますからね。

お店のことを教えてくれた同級生に、改めてお礼を申し上げなければなりません』

『アンジェリーク秘書官は、ご兄弟をまとめる、長女らしい性格ですね。相手のことをよく見て、考え、行動をしていますよ。

ですから、協力してくれる人も多いのでしょうね』

『お褒めに預り、光栄です。ひとえに両親の教育のおかげだと思っています』

『……わたくしは個人的に、自分以外の人を立ててお話するのも、好ましい性格と思いますね』


 口元に扇子を広げて、コロコロ笑う奥方様。

 私との会話は終わったようです。王妃候補のご令嬢とのお茶会に戻られました。

 よく王宮で顔を会わせる奥方様は、私の語学力を知っていますからね。特に何も言いませんでしたよ。

メモ。総文字数、1~41話で約20万。

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