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4話 職務放棄したくなりました

 胃潰瘍が治り、三ヶ月ぶりに職場復帰!


 ……したのはいいのですが、机の上の書類に絶望を感じました。


 何、この辞表の山。


 えっと、これは歴史の先生、こっちは語学の先生? 残ったのは、刺繍の先生と、ダンスの先生だけですか。

 ……嫌な予感がして、同僚を探しました。


「ちょっとよろしいですか、宰相の子息殿。あなたが、私の療養中に、代理をしてくれたのでしたよね?」

「はい、国王から任命されました」

「なんですか、この辞表の数は? 全部受理が終わっていますし。理由を説明してください!」

「嫌なことをさせるのは王妃教育の妨げになるようなので、短所を直すのを諦め、まず長所を伸ばすことにしたんです。

王太子妃候補の秘書の代理として、密かに新たな人選を始めたところですよ。

『頭の固い年寄りの先生ばかりで、たとえが古臭く、話が良く分からない。若くて頭の良い先生に習う方が、理解しやすくて勉学に身が入る』と、お二人も希望しましたしね」


 ……こみ上げる怒りを抑え、根気よく話を聞いて、理解しました。

 王太子妃候補のお二方に、自分の好きな授業以外を受けさせようとすると、泣き崩れて勉強にならなかったようです。

 毎回泣かれるものだから、あきれた教師たちが、辞表を出したんですね。そして、勝手に受理したと。


「それ、嘘泣きですよ。絶対。私は仕事柄、お二人の性格の問題点も知っているので、断言できます。

あの二人なら、相手によって態度を使い分けるくらい、簡単にやってのけるでしょう」

「アンジェが偏見を持つから嫌われて、王妃教育が遅れていたのではないですか?」

「わかりました。私は、将来の王太子妃の秘書として不適格のようですね。

今後の王妃教育の責任者は、あなたに変更していただけるように、国王陛下にお願いして参ります」


 ……腹立つ。私の苦労も知らないで! ちょっと言い返しても、許されるでしょう。


「講師の方々が辞表を出した件については、あなたが王族の重鎮全員に説明しておいてください。あなたが勝手に受理したんですから。

頭の固い年寄りの先生の中には、先代国王様がお忍びで出向かれて説得し、ようやく重い腰を上げてくださった、世界でも十本の指に入るほどの著名人もいますよ」


 あ、ちょっと冷や汗が流れてきましたね。言い訳があるなら、聞きますよ?


「それほどの方もおいでたのですか……。そうそう、あなたが推薦してくれた、北国の語学講師は別だと思いますが。

『もうろくしてて、常に秘書の兄弟と比べて不出来だと言われ、不快だ』と、おっしゃっていましたよ」

「そうですか。王太子妃候補のお二人が言った言葉、一語一句間違わずに、先代国王陛下に伝えさせていただきます。

北国の歴史と言語の先生は、我が国の先代国王陛下のご学友ですよ。

北国の王宮からの相談に応じ、先代国王陛下のご推薦で我が国の言葉を王子達に教えるべく、北に渡った言語学者だそうです。

三年前の動乱期に北地方の有様を伝え聞き、北の国王に嘆願して、故郷に戻ってきたと先生はおっしゃっておりました」


 私に北国の言葉を教えてくれた恩師に向かって、なんとことを言うんですか! このおバカさん!


「北地方の土着の民と、難民の懸け橋になるべく、我が男爵家に北国の言葉を教えてくださった恩師ですからね。

先代国王陛下がお聞きになれば、どれほど落胆されるやら。おいたわしいことです」


 青い顔になり、動きの止まった同僚。

 宰相の子息殿はほっといて、まずは先代国王陛下に報告に行きましょう。



*****



「……母上が、ファムとルタの王妃教育を放棄するはずだ。二ヶ月前から好きにさせろと言い、二人に直接教えることがなくなった。

アンジェには、胃潰瘍が悪化してまた血を吐いたら困ると、父上の言葉があったから黙っていた」


 先代国王陛下との面会を済ませ、次はレオナール様の王太子執務室を尋ねました。

 側近候補を帰らせ、正式な側近だけを残し、私の報告を聞いていたレオ様。

 腕組みをすると、天井を仰ぎ、つぶやかれました。

 

 国王陛下と王妃様に、こってり絞られた宰相の子息殿。

「女性の涙に騙されました!」と泣きつかないでください。泣きたいのは、こっちです!


「あのですね、宰相の子息殿。女性はあなたが思っている以上に、ずうずうしくて神経が図太いんですよ。

お疑いになるなら隠れて、私と彼女たちとの会話を聞いてみてください。公爵のあなたへの態度と、男爵の私に接するときの態度は、まったく違いますから」


 良いですか? 過去は振り返らず、今後のことを相談しましょう。

 

「レオナール様、王妃教育についてですが、まだ望みを捨ててはいけません。あなたの将来の奥方様になる、ご予定の方々ですからね」

「……アンジェ、お前、前向きだな」

「現実逃避するだけ、時間の無駄ですよ。悪い方に転がるときは、行動しないと好転しません。昔、私の領地で経験されたでしょう?」

「それはそうだが……」

「話は戻りますが、まず王妃教育に携わっていた講師全員の授業を、実際に受けてください。

体験授業を受けるのは、レオ様と正式な側近である、親友のお三方です。ダンスも、刺繍もしてもらいますからね。

授業を受けたあとは、皆さんが納得した方に、私が頭を下げ、講師の再任をお願いしてきます。それでもダメなら、次はやる気に加えて、根気のある先生を中心に探してみます」


 体験授業の案を出した途端、もごもごいう、同僚の二人。

 はっきりと告げてください。聞こえませんよ。


「騎士団長の子息殿、外務官の子息殿、なにか文句でも?」

「王妃教育のダンスって、ヒールのある女の靴を履いて、踊るっすか?」


 騎士団長の子息殿は、素が出てますね。ちょっと衝撃を受けたのでしょうか。

 おもしろいので、その案を採用しましょう♪


「もちろんです。合う靴があれば、履いてもらいますよ。スカートは、大きな布を腰に巻いて代用しましょう。男性のパートは、私が踊るのでご心配なく」


 絶句する騎士団長の子息殿。魂が、明後日の方向に飛んだようですね。


「しっつもーん。男が刺繍するなんてって、聞いたことないけどさ?」

「外交官の子息殿。男が刺繍をするのは、別におかしくありません。うちの領地の新たな特産品を知らないんですか?

北国の刺繍を施した、布かばんです。このかばんを縫っている職人の半分は、男性ですよ。内戦で足を悪くした元傭兵たちは、農作業に向きませんからね」

「元傭兵だと? 大丈夫なのか?」

「レオ様、残念ながら、大丈夫かどうかは、まだ分かりません。念のため、武装した、治安維持支援の兵士の監視する地域で、暮らしてもらっています。

現在は、食料や居住地と引き換えに、男爵家で雇っている状態ですね」


 はっきり言って、これは私の想定外の事態でした。元傭兵は、北に送り返すつもりでしたから。


「なんでそんな、危ない取引するんだ!」

「レオ様、怒らないでください。直接交渉したのは、うちの下の弟なんです。

『僕は領地経営を勉強してるけど、家を継げないから、将来のために手職を身につけるの。おじさんも一緒にやる? 手職をつけておけば、北に帰っても困らないでしょう?』って、無邪気に言ったようですね」

「……子供は、怖いもの知らずだな」

「まあ、国の兵士が見張っていますし、領主の弟に手を出せば、その場で処刑されるのは目に見えてますからね。

足の悪い傭兵たちは、渋々、弟と一緒に裁縫のできる婦人たちから習ったようですね」

「え? 弟君も裁縫を?」

「はい、宰相の子息殿。この特産品を作ったのは、今年十才になる下の弟ですから。子供の発想って、とても柔軟ですよね」


 ……そんなに口を開けて、驚かないでくださいよ、レオナール様。

 二年半前に、うちの領地を広げて、幼い弟や妹まで領地経営しなくてはならないように仕向けたのは、あなたでしょう! 

 まあ、芸は身を助けますからね。下の弟は、領地を継げなくっても、職人兼商売人として生きて行けそうです。

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