28話 水面下で話は進みます
七月から、朝晩、王宮のダンスホールで、歌劇の舞台稽古をしています。
北地方の伯爵領地から、私の母が来ましたので。
母は、国内外でも有名な、雪花旅一座の座長の娘。先代国王夫妻が大ファンの元舞台女優です。
背が低くいため、若々しく見え、私の年の離れた姉でも通用するくらいですかね。
先代国王夫妻が、母の容姿を一言で語ると「浮世離れした美しさ」になるそうです。
我が国の貴族や平民とは、少々違った外見なので、そう感じるのかもしれません。
太陽の光を集めた金髪、青空の碧眼に、雪のような白肌。それに、異国情緒を感じる造形。
おそらく座長の祖先が、「雪の天使」と呼ばれた、北国の王家に連なる血筋だからだと思います。
そんな母の血筋を引いた子供たちは、五人全員が母似でした。
田舎貴族の男爵だった父の血筋の要素は、先っぽまで真っ直ぐサラサラの髪の毛くらいしか残っていませんね。
母もだいたい真っ直ぐな髪の毛ですが先っぽの方が、くるりんと外側に跳ねているんですよ。母にとって、唯一のコンプレックスです。
子供たちは、くるりんカーブを一人も受け継がず、母は大変喜んでいました。
そんな美しい母を見た他人は、娘である私に、「綺麗なお母様でうらやましい」と言います。
ですが……一番目である私と、二番目である上の弟から言わせて貰うと、母は一生逆らえない、とても怖い人です。
「……姉さん。お母さん、今日も最強だったね」
「……はい。今日も、最強のお母様でしたね」
最強の母に演技を教わっている、私と上の弟。
今も、昔も、稽古中の会話は変わりませんでしたよ。
母の地獄の舞台稽古が終わった後、疲れた体を引きずりながら、王宮の廊下を歩きました。
王太子のレオナール様から、王子の執務室に来るように命じられていましたので。
執務室の扉を開けると、ソファーに座って、王子達が雑談しながら待っていました。
私と弟が地獄の舞台稽古を受けるはめになったのは、このレオナール様の思い付きが原因です。
二年前に、私の領地で行った、歌劇の特別公演。それを、王都でも見たいと、ワガママを発揮されたからです。
「レオナール様、宰相の子息殿。失礼します」
「お、やっときたのか。遅かったな、アンジェ」
「遅いから、待ちくたびれましたよ」
国王陛下の一人息子と、王弟の一人息子。
王子様の二人は、こんな腹立つことを言いながら、私の方に顔を向けられました。
……我慢。我慢ですよ、私。腹が立っても、顔に出してはいけません。
母仕込みの演技力で、涼しい表情を作りました。
相手は、一人っ子のワガママな王子たちです。腹を立てるだけ、こちらが損ですからね。
一人っ子は末っ子みたいにワガママだと、王太子の秘書官になってから、思い知りましたよ。
「こんなに夜遅く、私を呼び出した理由は何でしょうか?」
「アンジェリーク。お前に言うべきことができた」
「はい、なんでしょう」
「お前の母上と対談してから、ずっと考えていたんだ。そして決めた。
僕は、理想の嫁を迎える。僕の母上のような知的な青い瞳と白い肌。
そして、お前の母上のような頭脳を持つ者を嫁にする」
……このおバカさん王子は、学習しないんでしょうか。
前回の婚約者候補を、外見の美しさだけで決めて、どえらいことになったんですよ?
最終的に、王都中の貴族を巻き込んで派閥ができ、国政に影響がでたんですからね。
あれを鎮静化するのに、どれだけ秘書官の私が被害を被ったか、忘れたとは言わせません!
「……秘書官として、外見で決めると失敗すると、何度も申し上げましたよ? あなたは、何を聞いていたんですか!」
「無理だ。王妃になるには、語学力と国政に対する知識も必要だからな。頭脳は絶対に譲れんぞ!
それに大人になれば、僕好みの美人になると分かっている女を、みすみす手放してたまるか!」
「……少しは学習したんですか。頭脳を優先するのは、良いことだと思います」
「わかってくれたか! だから、僕の嫁は美しさと頭脳をあわせ持つ……」
「はい、心得ております。王妃筆頭候補、東地方の侯爵令嬢のクレア嬢ですね。
語学力に関しては、現在の婚約者候補の中では、抜きん出ております。王子の希望である、知的な青い瞳をお持ちですし」
「違う、そうじゃない!」
「いえいえ、違いませんよ。北生まれの私ほどではありませんが、王都のご令嬢の中では、色も白い方だと思います」
「お前は、察しが悪すぎる!」
「あー、ソバカスですか? 確かに今は目立ちますが、大人になればそれも消えて、お美しくなりましょう。問題ありません」
あれ? レオナール様は、どうなされたのでしょうか。口をパクパクさせておりますね。
あっ、我に返ったようで、ぐっと表情を引き締めました。レオ様のいとこである、宰相の子息殿に、視線を向けましたね。
「……なるほど、レオの言ってる意味が分かりましたよ。これでは、大変ですね」
「……頼む、本当に頼む。いとこだろ、僕を助けてくれ!」
「はいはい、私が力を貸した方が良さそうですね。あまり気乗りはしないんですが……」
何度も何度も、頷く、宰相の子息殿。眉を寄せて、大変困ったお顔です。
そうですよね。いきなり、レオナール様が条件を掲げて、花嫁を決めたなんて、宣言するんですから。
レオ様が花嫁を選んだ理由を、王妃様たちが納得できるように、説得してあげてください。
懲りずに、お顔を条件にするんですから。
「……とにかくだ、アンジェ。これからは王妃候補のクレアを、鍛えていくつもりだ。
お前は、王妃教育の責任者、及び将来の王妃の秘書として、なるべくクレアと行動を共にしろ。母上とおば上から直接教えをつけてもらう」
「宰相の奥方様からもですか? 西国の言葉でしょうか?」
「そうだ。クレアには、西国の言葉をきっちり覚えてもらう。二か国はしゃべれないと、話にならん」
「息子の私も、時間があれば、母上に代わって教えますからね。ご安心ください」
「アンジェは、将来の王妃の秘書官だからな。王妃と接する時間は、一番長くなる。
王妃を補佐するためにも、一緒に勉強してくれ」
「かしこまりました。王妃筆頭候補であるクレア嬢ならば、特別教育を受けても、皆さん納得されましょう」
将来の王妃は、ついに内定しましたか。私は、沸き上がった疑問をぶつけてみます。
「……宰相の子息殿。私をクレア嬢に随伴させるなら、私を宰相の側室にと、まだ王家はお考えなのでしょうか?」
「男爵家のアンジェなら、間違いなくそうだったでしょう。
ですが、今は伯爵家、そして妹は将来の北国の王子妃ですからね。
将来の宰相や国王の側室どころか、正室になっても、おかしくない身分なんですよ」
「宰相のみならず、国王ですか?」
困った顔のまま、宰相の子息殿が説明してきました。
嬉々としたレオ様の声が、あとに続きます。
「そうだ、アンジェ、お前は将来の僕の嫁だ!
第一、僕が抱きしめたくらいで腰を抜かすんじゃ、他の男は無理だぞ。傍に置いておくからな!」
「……ということは、レオ様の側室……? あの……失礼します!」
言葉にすると、恥ずかしさで顔に血が登ってきました。
つい両手で顔を覆って、逃げ出し、ソファーの陰でしゃがんでしまいましたよ。
私にはお構いなく、レオ様と宰相の子息殿は、男性の会話をはじめます。
「しかし、クレアですか。クレアねぇ……」
「なんだ? お前、まだそんなこと言ってるのか? 僕を助けてくれるんだろう!」
「だって、クレアでは、恋の駆け引きが楽しめませんよ?」
「いいか、目先よりも、将来のことを考えるんだ。
王都の男慣れした女と、クレアやアンジェみたいな純情な女なら、どっちを嫁に選ぶ? 僕は断然、純情な女だ。
お前は、他の男に色目を使う女が良いのか? 僕は経験してるから、絶対にごめんだぞ!」
「……確かに、あんな妻は要りませんよね。こちらから願い下げですよ。
妻に迎えるなら、やっぱり純粋で、自分好みの方がいいですよね。一生を共にする相手ですし」
「そうそう、理想の嫁が居ないなら、作ればいいと僕は気付いた! アンジェのような……」
「私がどうかしたのですか、レオナール様?」
「アンジェ、お前、まだ居たのか!? さっき『失礼します』って、言ったよな?」
「まだ退出の許可を貰っていません。秘書官が勝手に部屋から出ていけるわけ、ありませんよ」
「……そうか。お前、けっこう素直だもんな。まあいい、ここに座れ」
「かしこまりました」
ソファーの陰から声をかけると、レオ様と宰相の子息殿が慌てました。
めずらしく、年頃の青年の表情をされていますね。
立ち上がり、お二人の傍に戻りましたよ。レオ様がご自分の隣を手で叩いて示されたので、何の疑問もなく座りました。
執務室でお茶会をするときは、レオ様の隣が私の指定席ですからね。
秘書官に就任したときから、ずっと、ここが私の指定席です。
それ以前は、親友のお三方が交代で座っていました。
レオ様は、私と言う女性の側近ができて、嬉しかったようですね。
お茶を飲むなら、男の入れたお茶よりも、女の入れたお茶が良い!って、親友たちの前で宣言されましたから。
レオ様の隣が、お茶汲み係りの指定席だったようです。皆さん、喜んで、明け渡してくれましたよ。
新しい側近が増えたとき、皆さん、私の指定席に驚いていましたが。
私の指定席に座ったら、レオ様に強制的にお茶汲み係をさせられたので、真実を悟って避けるようになり、今に至ります。
「レオ様。さっきの理想の嫁を作るって、王妃教育をしっかり受けさせるって意味ですか? まあ、頑張りますけど」
「えっと……そうなんだ、アンジェ、頑張ってくれ。お前のような純真無垢だと、僕の理想通りに育ってくれるはずだ!」
「かしこまりました。レオ様の期待に応えられるように努力します」
「うん、うん、いい返事だ。さすが僕の将来の嫁♪」
そういうと、ちょっと額に口づけしてきたんです! 突然なにするんですか!?
驚きで固まり、赤面して、思考が停止しました。
私が動けないのをいいことに、レオ様は堂々と抱きしめます。
正面にいた宰相の子息殿に顔を向けられ、言い放ちました。
「なっ、こういう初々しくて、恥じらいがある女の方が、嫁にするなら理想だと思うぞ。
何にも知らないから、少しずつ教えて、自分好みにしていける。最高だろう?」
「……そうですよね。理想の花嫁がいないなら、作ればいいんですよね」
「いずれ、増長するかもしれんが、そこは男の腕の見せ所だと思う」
「それなら、自信がありますよ。恋の駆け引きをすれば良いだけですから。
私も、頑張ってみますよ。理想の花嫁が欲しいですからね」
「分かってもらえて、何よりだ。おい、アンジェ。しゃべれるか?」
「……は……い?」
「無理か。ほれ、離してやる。頭を働かせろ」
抱擁から解放され、頭をなでられました。
なんか、レオ様の態度がおかしいです。いつものいじめっこではないというか……。
思考回路が戻ってきました。深呼吸して意識を切り替え、文句を突き付けましょう。
「いきなり、なにをなさるんですか! びっくりしましたよ」
「すまん、すまん、お前の反応は楽しいからな。つい、やってしまった♪
それで、話の続きだが、クレアの王妃教育を重点的にする話以外は、すべて忘れろ。今は僕らの仮定で、王家の決定じゃない。
でも、たぶん、お前が僕の嫁になるのは変更ないと思う。お前は雪の天使の血筋だ。王家としては分家の医者伯爵だけでなく、本家にも取り込みたい」
「……心得ました。四年前のこともありますし、北国との良好な関係を続けるには、必要と判断します」
「その事務的なところは、アレだが……仕方ないな。
今のお前は、北地方の領主だ。北国と国境を接する、重要な場所を治める者として動けばいい。
王家の決定がでれば、僕の両親とお前の母上が話し合いをすると思う」
「かしこまりました。王家の決定に従います。また、クレア嬢を補佐できるように、精進いたします」
レオ様は、私の返事が気に入らなかったのか、仏頂面になりました。
一応、意見を申し上げておきましょうか。
「レオ様に秘書官として、申し上げておきます。先ほどのように、私をからかうのは、ホドホドにしてください。
王太子が最も愛でるべきは、正室になる予定のクレア嬢でございます。側室の私では、ありません」
「……お前、愛でるの意味が分かっているのか?」
「歌劇の王家物語のような、手をつないでお互いの愛を語らうことでしょう? クレア嬢も同じ認識でしたし」
「……本当に、お子様の考えしか持ってないな」
「ちょっと待ってください、クレア? アンジェは、クレアとそんな話をするのですか? 恋愛に興味ないのに?」
「宰相の子息殿。自分の恋愛に興味はなくても、他人の恋話は好きですよ」
レオ様も、宰相の子息殿も、意外そうな顔をされました。
あのですね、私も年頃の女性ですからね。王立学園の同級生たちと、そんな話をしていますよ。
「そうそう、レオ様に情報提供いたします。
クレア嬢は十三才の頃より、三年間東の国へ語学留学をされておりましたので、恋愛観は東国の考えをお持ちです」
「へー、そうなのか。おい、よく聞いとけよ?」
「はいはい、心得ていますよ」
「東の国では、歌劇のような恋愛が主流のようですね。こっちの王都の貴族の恋愛を実践する、レオ様の行為は、私と同じように苦手でしょう」
「……苦手なのか? だから額に口づけたら突き飛ばされて、後ろから抱きしめたら肘鉄されたのか。
舞踏会の後、バラ庭園散策に誘ったら、嫌ですと断られるし。つくづく相性が悪いとは、思っていたんだ」
「あれは、レオの間が悪いですよ。私が休日の王妃教育が終わったあとに誘ったら、バラ庭園に行ってくれましたよ。大変喜んでくれました」
「レオ様、なんで夜にバラ庭園に誘うんですか? 夜なんて、危なくて歩けないのにって、クレア嬢は怒っていましたよ」
「うっ……僕の理想の一つは、満月の下、バラ庭園を二人で歩くことだからだ!」
あーあ、出ましたよ。夢見がちで、ロマンチスト王子の十八番。僕の理想論。
ただ、レオナール様は、理想を夢で終わらせず、策を張り巡らせて、実現する行動力をお持ちです。
理想の花嫁を手に入れるために、今後の王妃教育にアレコレ、口をはさむんでしょうね。
「レオ様の理想は、理解不能です。少なくとも、私やクレア嬢とは、相容れません。
舞踏会の後だったら、正装してるんですし、銀の装飾を付けたバラの花を贈るべきでしょう?」
「はあ? なんだその現実味のない場面は。そっちの方が、理解不能だぞ!」
「現実味がないって……もしかして、知らないんですか? 歌劇『銀のバラの王子』の二幕冒頭の有名な場面ですよ」
「あー、題名に『王子』とついてる話なんて、面白くないと思って、見る気が起こらなかったんだ」
「レオに同感ですね。私も自分自身が王子だから、躊躇してしまいます。
ああいう歌劇には、王子に対する、理想が詰め込まれていますからね」
「そうそう。僕も理想と現実の落差に、打ちのめされたことがある。
努力もせずに、幸せをつかめる白馬の王子なんて、いるもんか! 夢物語だろうが!
まあ、『雪の恋歌』の王子は努力して、幸せをつかんだやつだから、親近感がわいたが」
「あれは私も、王子としてアリだと思いますよ。努力は報われるの成功例だと思います。
調べてみれば、アンジェの祖先の実話でしたからね。真実を知って、納得しましたよ」
「……なるほど。王子には、王子なりの苦労があるんですね……心中お察しします」
レオ様は、恵まれた環境で幸せを掴む、歌劇の王子様は嫌いなご様子。
白馬の王子様は、自由気ままな旅に出て、美しい娘を見初めて、王宮に戻ればすぐに結婚して王位を継げるような存在です。
王位を継ぐために、王太子として常に努力しているレオ様とは、正反対の生き方ですからね。
そうこうするうちに、レオ様が身を乗り出してきました。
歌劇観賞が、ご趣味ですからね。興味をもたれたようです。
「なあ、『銀のバラの王子』は、どんな内容なんだ? あらすじを教えてくれ」
「一言でいうと、年上の女性を愛していた王子が、若い女性を見初めて、乗りかえる話です」
「……思いっきり見たくない、あらすじだぞ。一言でまとめるな! もうちょっと、言い方がなかったのか?」
「そうですね……二幕の冒頭、バラの王子と貴族の娘が一目で恋に落ちるシーンは、歌劇の真骨頂だと思います。母も、私も同意見でした。
個人的に、嫌悪感を催す人物を決闘の末に撃退して、貴族の娘を守る場面は、楽しかったです。
最終幕の年上の女性が、王子のためにそっと身を引く場面は、母が共感できると言っていました」
「ほう……旅一座の座長の娘や孫に、そこまで言わしめるとは。興味がわいてきたぞ」
「先月、私が舞台稽古でお世話になっていた、王都の歌劇団で公演中なんですよ。
明日の晩は、家族水入らずで、見に行く予定です」
「ふーん、どんな席で見るんだ?」
「二階の中央正面にある、貴賓室ですね。お忍びのレオ様たちが、よく行く席です」
歌劇団には、私と弟が舞台稽古でお世話になっていたので、母がお礼を言うために行きたいと言い出したのです。
先日、下校時に寄り道して、歌劇団の座長に伝えたら、特等席を用意してくれました。
「あそこの席は予約制だし、貴賓席だから高いだろう? よく押えられたな」
「無料にしてくれる代わりに、母の歌を求められました。
二十年前の母は、雪花旅一座主演女優を務める役者でしたからね。
今でも、ファンが多いんですよ。お世話になった歌劇団の座長も、母のファンです。
うち母の歌は、レオ様も、お聞きになられたでしょう?」
「うん、昨日の晩餐会は、最高だった! おじい様やおばあ様が、お前の母上の大ファンなわけだ。
初めて聞いた使用人たちが、アンコールを求めたくらい、素晴らしかったし。お前の歌声は、母親譲りだと実感したぞ」
レオ様は、嬉しそうな顔をされました。本当に若い頃の母は、実力のある女優だったんでしょうね。
私の兄弟は、母から歌い方の指導を受けております。
……特に私は、教育ママの地獄特訓を一番長く受けた、一番目の子供ですからね。
「おい、明日、僕らも見に行かないか?」
「良いですね。行きましょう、レオ」
「レオ様たちも来るんですか? 席は?」
「今から、お前の母上に交渉してくる。良いって言ったら、一緒に行くからな」
「……はい?」
えっ? えっ? 家族水入らずに、王子達がついてくるんですか?
「では、アンジェ、また明日。おやすみなさい」
「もう帰っていいぞ、じゃあな。おやすみ」
「ちょっとお待ち……二人とも、帰られましたか」
うちの母に同行する交渉。……きっと、成立しますね。
家臣の母が、王子であるレオナール様の頼みを、断れるはずないですよ。
ワガママな一人っ子王子達が消えた執務室で、ため息を吐きましたよ。




