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SSランカー

後ろに束ねられた白い髪が左右に揺れている。黒に桜色のラインが入ったローブを着ている為、白が映えて見える。それを見ながら咲は今の状況を把握しようとしていた。クラスが解散した後に女性に連れられ、現在どこかへ向かっている。

真理と帰る約束をしていたが、それは果たせなかった。「待ってるよ」と言ってはくれたが、待たせるのも悪いし、話がどれくらいのものかもわからないので帰ってもらうことになった。

女性の斜め後ろを歩いている咲から女性の表情は見えなかった。歩いてからしばらく経つが、女性は特に説明もせず、咲を従えてひたすら歩いていた。ここで咲が女性に聞いてみた。

「あの、どこに向かってるんですか?」

「ここです」

そう言うと女性は立ち止まり、咲の方へ振り返った。女性の右側には重厚で高級感のある扉があり、そこには「校長室」とあった。

咲はそれを見た瞬間苦笑した。何となく面倒そうだったから。

女性が扉の方を向き、トントントンと三回ノックした。部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえてくると女性が扉を開け、中に入っていった。女性に目で促され、咲も中に入った。中に入ると部屋の奥にある椅子に見覚えのある女性が座っていた。当然のことだが、入学式の時に挨拶をしていた校長だ。

「失礼します」

咲がその光景に見入っていると女性が規則正しく挨拶をする。咲もそれ釣られて取って付けたような会釈をした。

「校長、連れてきました」

「ありがとう、光ちゃん」

校長が椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

「改めて、ソフィア学園へようこそ、栗原 咲くん。私は校長の(あまつ) (そら)。よろしくね」

天 空、魔法魔術学校ソフィア学園の校長であり、SSランカーの一人だ。青色のロングヘアーに水色の目が特徴的だ。さらに今は白いローブを着ている為、名前のように空みたいだ。背も長身で天というのも合っている。

「こちらこそ...それより何の御用ですか?」

「まぁ立ち話もなんだから座って」

部屋の中央にあるテーブルを囲むように置かれている二人掛けのソファーに手を向けた。

咲は話が長くなることを確信し、口角がピクッと上がった。

「失礼します...」

低いテンションで言い、そこに座った。

校長が咲の正面に、咲を連れてきた女性はその隣に座るという二対一の形になった。

席に着くなり、校長が話し始めた。

「話というのはあなたの学校での待遇についてよ。SSランクの子が入ってくるなんて初めてのことだからね」

咲は少し驚いたようだった。

「知ってたんですね、僕がSSだって」

「入学前に色々調べさせてもらったわ。だってあなたから送られてきた書類不明な点が多かったんですもの」

「よく入学を許可してくれましたね」

「知ってるでしょ?SSランカー間での情報は公開される。あなたがSSにランクアップした時にあなたの名前を見て興味が出てきたの」

「あぁ、そうだったんですか」

今の「そうだったんですか」は入学を許可した経緯に納得したわけではなく、校長がSSランカーだったということに対してである。

学校ことについて大して知らない咲は校長がSSランカーであることはおろか、校長の名前さえ知らなかった。魔法魔術学校に通う生徒なら普通に知っていていい情報だが、咲はその辺り鈍いところがある。

「その反応、私がSSだって知らなかったでしょ?」

問い詰めるような言い方だ。

咲はそっぽ向いて知らん顔をする。睨まれていたが校長は諦めて「まぁいいわ」とため息を吐く。

それから咲もためていた息を吐いて話を戻した。

「それで待遇というのは?」

「考えた結果、あなたには専属の指導者についてもらうことにしたわ」

「専属?僕だけにってことですか?」

「ええ、あなたに関わること全てに携わってもらうわ」

「そんなことして頂かなくても、僕はただ...」

「もう頼んじゃったから」

校長が明るくそう言うと咲はため息が吐いた。

「それで、どんな方なんですか?」

「私です」

咲はビクッとして声のした方を向いた。声の主は校長の隣に座っていた女性だ。

「あなたが?」

「はい。音門 (ひかる)です。よろしくお願いします」

「音門 光...」

咲は小さな声で囁き、目を見開いて音門を凝視した。咲の呼吸が段々と荒くなったが、視線だけはぶれなかった。

「あの...音門教授...ですか?」

咲がそう言うと音門はふふっと微笑した。

「ええ、私のことは知っていたんですね」

「もちろんです!」

咲の無駄に大きな声が部屋に響いた。校長も音門もビクッとなって体勢が若干後ろに下がった。

音門 光、光属性の研究者としてその名を知られている。魔法師としての腕も高く、咲と同様SSランカーの一人だ。白く長い髪を後ろで束ねたポニーテールに、琥珀色の目が特徴的だ。咲よりも少し背が高く、スラッとした体型が大人の女性という印象を受ける。世でいうキレイ系というやつだ。

同じ光属性の魔法師であり、研究者でもあった音門のことは以前から知ってはいたが、顔出しをしていなかった為、咲も顔を見るのは初めてだったのだ。

憧れの存在でもあった音門を前にして咲は軽くパニックを起こしている。

「...そそうですか。ちなみに私の研究資料を見たことはありますか?」

「公表されてるものは全て目を通しています!」

「では、闇属性に関する記述も見ましたね?」

咲は闇属性という言葉を聞いた瞬間、雰囲気が変わった。

「はい、僕が最も注目してることですから」

「それなら話は早いですね」

そう言うと音門は口元に笑みを浮かべた。

「栗原 咲さん、私と共同研究しませんか?」

咲は放心状態になった。信じられない言葉が聞こえたからだ。研究というのはわかる。共同研究もわかる。問題なのはその前に「私と」という言葉が付いていることだ。放心状態の咲の頭の中では「私と」という言葉がグルグルと回っていた。

憧れの存在である音門 光からの直接の誘いだ。状況を整理できなくなるのも無理はなかった。

栗原さんと何度か呼ばれ、咲はハッと我に返った。

「共同研究ですか?」

「はい」

「教授と僕で?」

「はい」

自分の聞いたことが信じられなくて単純なことを確認した。音門はそれに淡々と答えた。

「栗原さんの魔法の才能は私以上です。それを扱う技術も持ち合わせています。さらに光属性の魔法に関する知識と理解もあるということでパートナーにふさわしいと判断しました。それに栗原さんは自分で魔法装備を作っているんですよね?既にそれだけの経験がある方となら得られる結果はかなり期待ができます」

音門が事の経緯を説明した。「お願いできますか?」と言おうとしたが言い終わる前に咲が答えた。

「ぜひ!」

またも無駄に大きな声が響いたが、もう驚きはしない。

「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ...よろしくお願いします!」

互いに頭を下げた後に目が合って微笑した。

「それで研究とは具体的にどういった...」

「はーい、研究の話はまた今度にしてね。今日の話はそれだけじゃないんだから」

校長は咲の言葉を遮りそんなことを言う。

咲は「なんだって」と思ったが口には出さなかった。表情には出ていたが。

今まで最高に面白かったのに咲のテンションは一気に下がっていった。

「まだ何かあるんですか?」

低いテンションの咲に校長はため息を吐いた。

「共同研究は光ちゃんの希望だったの。あなたの専属指導を引き受けてもらう代わりにその条件をのんだの」

「えっ?じゃあ僕が断ってたら...」

「断らないだろうって光ちゃんが言ってたけど、黙りこんじゃうからヒヤヒヤしたわ」

完全に賭けだったようだ。咲は目を細めて校長を見た。校長はとぼけた顔をした後に真剣な顔になった。

「魔法魔術学校は魔法師を育成することが目的。既に最高ランクであるあなたにも何かを学んで欲しいって思ってるわ。だからこそあなたと同じ光属性で優秀な彼女に指導をお願いしたの」

咲は目を見開いて校長を見た。

「まぁそういうことだから。光ちゃんの言うことちゃん聞いてね」

はい、と短く返事を終わらせた。

「それじゃあもう一つの話を、っと言っても話というよりこれは念押しみたいなものだけど」

「何ですか?」

「あなたがSSランクであることを口外しないこと。わかってるとは思うけど」

SSランカーの魔法師はそれだけで大きな存在なのだ。普通の魔法師が何十年と時間を費やしてもSSランカーになれないことがほとんどだ。

しかし、それを最短の7年で、しかも12歳の少年が成し遂げたのだ。

魔法魔術学校に通う生徒はそれだけ意識が高い。自分たちと同世代、もしくは下の世代の魔法師の中にSSランカーがいると知れば、個人ならともかく集団ならパニックになりかねない。校長が咲のことを配慮している面もあるが、それと同時に自身への配慮でもあった。大きすぎる力は学校という集団では扱いきれないのだ。その力を秘匿にすることで制御を可能にしようということだ。

咲もそういったことは理解していた。元よりランクを晒す気などなかった。

「もちろんです。変に目立つのは避けたいので。それでもある程度の能力は出しますが、いいですか?」

「本当にある程度ならいいけど、気を付けてね。一応言っておくけど、この学校でSSランカーなのここの三人だけだから」

「そうだったんですか。じゃあ音門教授がいなかったら本当にチーム作りだけになってたな」

咲の言葉に校長も音門も引っかかったようだ。頭の上にクエッションマークが浮かんでいるようだった。

「チーム作りとはどういうことですか?」

校長も思っていたこと音門が聞いた。

「自分のチームを作るってことです、魔獣を狩る。僕はそのメンバーを探す為に学校に入ったんですよ」

その答えを聞いて校長は少し呆れていたようだった。

「そんな理由で学校に入る人聞いたことないわよ。それでさっきある程度能力を出すって言ったのね。自分の力を誇示する為に」

「そういうことです」

咲が得意げに笑顔を見せた。

「随分と地道なことするのね」

「焦る必要もないですから。それに今日、早速いい人見つけられましたし」

「それって紅藤 真理さんのことですか?」

音門が突然そう問うと咲は驚いた表情になった。

「何でわかったんですか⁉︎」

「帰る時何やら親しげに話していたのでもしかしたらと思って」

「...なるほど」

「彼女の何に惹かれたんですか?太ももですか?」

「なんでそうなるんですか!違いますよ!」

「入学式の前何やら一生懸命見ていたのでもしかしたらと思って」

「ちょっと、共学になったばかりでやめてよそういうこと」

「誤解です!あれは彼女の付けてた魔法装備を見てたんです!」

「魔法装備?そんなに強力なものだったんですか?」

「いえ、そういうわけではないんですが。なかなかレアな素材を使っていたので」

「なるほど。安心しました」

音門が全力でホッとしている。

「まったく、僕を何だと思ってるんですか?ていうか教授はその時まだ教室にいませんでしたよね?」

「あなたのことを観察してました。どんな人物なのかと思って」

「いや、教授もなかなか恐いです。僕全く気づかなかったです。本気で気配消してるじゃないですか」

「それはそうと...」

「誤魔化そうとしてます?」

「チーム作りはいいですが、こちらの研究に差し支えないようお願いします」

音門が淡々と忠告すると咲はため息を吐いた。

「問題ありませんよ。そっちも抜かりません」

咲の返答に音門は微笑した。

校長も話すことは話したようでソファーにもたれかかり、すぐに体勢を直した。

「それじゃあ、話は終わりかな。色々言ったけど諸々よろしく」

校長は笑顔でそんなことを言う。

「それでは、共同研究の詳細はまた後日連絡します。改めてよろしくお願いします」

音門は事務的な連絡を済ませ、頭を下げた。

「こちらこそよろしくお願いします。それでは僕はこれで失礼します」

音門と校長に頭を下げ、「失礼しました」と咲は校長室を出ていった。

咲が校長室を出たのを見送ると、音門は先程まで咲が座っていたところに行き、校長と向かい合うように座った。

「彼のこと、どう思う?」

「そうですね、何というか...変わった子ですね」

「それ、私も思った」

ふふっ、と校長が微笑した。それに対し音門は真面目に話す。

「12歳でSSランカーになった奇才、トリックスター。その正体があの少年だとはとても思えませんでした」

「ほんっと、どこでそんな能力を手に入れたのかしらね...」

影が落ちたように校長の表情が曇った。

「それについて妙な噂があって...」

「噂?」

「はい。栗原さんというかトリックスターについての噂なんですが...」

音門が慎重に続けた。

「彼は魔道家と繋がっているそうです」

音門が口にした「魔道家」という言葉を聞いて校長は目を見開いた。

「なるほど...」

まだ疑問は残るものの校長は納得したような表情になった。

「光ちゃん、彼のことお願いね」

「はい」

校長の言葉に音門は短く返した。

部屋には何か大きな物が落ちた後のような沈黙が残った。

一方、校長室を後にした咲は校舎を出ようとエントランスホールに向かっていた。改めて校舎を見回すと豪華な造りに目が回りそうだった。先程の校長室もそうだが、建物全体にかなりの費用がかけられているのがわかる。

そして気付いてことが一つ、校長と音門とはそれなりに長い時間話していた。あの空間だけ時間がゆっくり流れているわけではないにも関わらず、まだ新入生らしき生徒があちこちにいる。特に何をするわけでもなく、ただただ群になって喋っている。咲が苦手な雰囲気だ。

あまり見られないようフードを被ってささっと歩いているのだが逆に目立って注目を浴びている。

そんなことには気付かず真っ先に校舎を出ようとしたその時、トントンと肩を叩かれた。咲はビクッとなって後ろを振り返った。

そこにはピンク色のツインテールの少女が立っていた。

「咲くん!」

「真理さん⁉︎」

帰ったと思っていた真理が目の前にいた。

真理の後ろには友人であろう二人の少女がいた。

「一緒に帰ろ!」

真理が笑顔でそう言うと自分の心が浄化されるような感じがした。

今まで感じたことのない感覚を感じた瞬間、咲は目に熱いものを感じた。

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