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魔法魔術学校

白いジャケットを着た人々が道を行き交っている中、咲は紺色のローブに身を包み、フードまでかぶっていた。周りの人々が着ているのは学校の制服で、無論咲も着ている。ただローブに隠れていてその機能は果たされていない。

白いジャケットを着た生徒たちの意識が自身に向けられているのを咲は気づいていた。いつもとは違う雰囲気で動きが少しぎこちない。昨日はただただ楽しみというだけだったが、いざその場に来て緊張しているのだ。こういうところはまだ子どもっぽい。この様子をあおいが見たら間違いなく喜ぶだろう。

そんなこんなで門の前にたどり着いた。門を通るとそこには西洋の庭園を思わせる景色が広がっていた。色とりどりの花が咲き、芝は綺麗に刈られている。

咲は被っていたフードを外し、その景色に関心しながら歩を進めて、校舎の正面まで来た。

校舎を目の前にして改めて思うのは大きいということ。その盾構えは学校というよりむしろ宮殿に近い。

建物を一瞥した後、新入生であろう人が群がっているのが目に入った。

そこには魔力によって書かれた青い文字が宙に浮いていた。新しいクラスが表示されているのだ。

咲もその中に入ろうとした時、視線が一斉にこちらに向いた。

それもそのはず、去年まで女子校だった学校で男子は圧倒的に少ない。故に男子は珍しいのだ。

群れになっている生徒の中には女子しかいなかった。というより学校に来るまでに男子を見なかったかもしれない。

そんなことに今さらながら気づいた咲は頭を抱えたが、ここに来た以上いちいち気にしてられないと思い、前に進んだ。それと同時に表示に群がっていた生徒が一歩引いて、咲から距離をとった。

自分のクラスを確認しようとすると周りがざわつき出した。つまり、女子が当たり障りのない評価しているのだ。

居心地悪いこと極まりない。咲はさっさと確認してフードを被り直し、足速にその場を後にした。

校舎内に入り、辺りを見回すとその豪華な造りに触れずにはいられない。正面玄関を入ってまず現われるのは巨大なエントランスホールだ。白を基調にした建物はとにかく明るい。高い天井には豪華なシャンデリア、所々ある柱や壁には細かく金の装飾が施されている。

エントランスホールの両側には螺旋階段があり、咲は左側の階段で2階に上がった。

そこからエントランスホールを眺めるとやはり豪華だと改めて思う。それと同時に、人にちらちらと見られていることにも気づいた。周りが白いから紺という色は目立つのだろう。

今度こそさっさと教室に向かった。

教室の前にたどり着いた咲はすでに疲労しているように見えた。

ふっと一息ついてドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。

ドアが開いたことで教室中の視線が咲に集まる。咲は苦い顔をしながらも自分の席を探し、そこに座った。

.......

(地獄だ!)

心の中でそう叫んだ。

圧倒的にコミュニケーション能力のない咲にとって集団生活はそれだけ困難なのだ。それも学校という咲と同世代の人、今まで関わってこなかった人が集まる場所だ。普段から特定の人としか話さない咲には過酷なことだろう。

「あの」

今後の学校生活に不安しか抱かなくなり、頭を抱えていた咲に隣の席の少女が声をかけてきた。

「は、はい」

「フード外さないんですか?視界暗くありません?」

フードを被っているのはいつものことだから気づかなかったのだろう。今までは集会所などで不特定多数に顔を晒すのが嫌だったからそうしていたが学校ではそういうわけにはいかない。

「あっそうですよね」

フードを外すと少女が顔を近づけ、咲の顔をじっと見てきた。

「な、何ですか?」

「綺麗な目ですね」

「えっ」

「紅くて透き通っていて綺麗です」

「そうですか?」

「はい」

明るい声を響かせ、少女は遠ざかっていった。

距離ができてから改めて少女を見た。ピンク色のツインテールに淡い紫色の目が特徴的な活発そうな少女だ。

「突然すみませんでした。フード被っていたからお顔が見えなくて」

「いえ、こちらこそすみません」

何を謝っているかもよくわからないが、とりあえず口を動かした。

「私、紅藤真理っていいます。これからよろしくお願いしますね」

少女の明るい声が跳ねた。

「あっ栗原咲です。こちらこそよろしくお願いします」

「咲っていうですね。珍しいですね。男の子で咲って」

「そうですね。やっぱり変ですよね」

「いえ、素敵な名前だと思います。これから咲くんって呼んでいいですか?」

「あ、どうぞ」

「ありがとうございます。私のことは真理って呼んでください」

咲とは正反対で社交的で明るい性格の真理は咲にとって疑問だった。

(なんでこの人は初めて会った僕に対してそんなに話せるんだ?顔すごく近づけてきたり、綺麗とか素敵とかって普通に言うのか?)

「ところで咲くんってどこ出身ですか?」

咲の思考を止めるように質問がきた。

「僕はトゥモロー出身です」

「えーいいですね!めっちゃ都会じゃないですか!」

「まぁそうですね、今はもう住んでないんですけど」

「今はどこに住んでるんですか?」

「今はトゥーンです」

「えっあのトゥーンですか?世界一変わった街って言われてる?」

「そんな風にも呼ばれてるみたいですけど、意外と普通ですよ、僕にとっては...」

「そうなんですか」

「えっと...真理さんはどちらの出身で?」

「私はウエスタンですよ」

その言葉を聞いた瞬間咲の目が光った。

「ウエスタン⁉︎ウエスタンってランドサイドの西側のウエスタン?!」

「は、はい...」

咲の急なテンションの上がりように真理は困惑している様子を隠し切れなかった。

「すごい羨ましい!ウエスタンといえば魔法生物の化石とか珍しい鉱石とかレアなアイテムが採取できる山だよね?!そこに住んでるってことは自分たちの欲しいアイテムもゲットできるでしょ?!そんなことができたらどれだけいいか!ずっと行きたいと思ってはいるんだけどなかなか時間が作れなくて行けてないんだよね!」

「えー...」

ポカーンとしている真理の表情にも気づいていない咲はひたすら喋り続けた。

「それで行けた時は冥犬といわれてるケルベロスの化石を採取できたらなんて思ってるんだけど、まだ採取できたりするかな?!」

真理を顧みて自らのトランス状態にやっと気づいた。

「あっ、えっと、その...ごめん...なさい」

やってしまったと思った。自分の関心のあることになると熱がこもってしまうのはよくあることだった。見知った人ならまだしも初対面の人に対しては迷惑だろう。

「ふふふっ」

真理の微笑が咲の耳に届いた。

「咲くんっておもしろいね」

またも咲の疑問になるようなことを言った。

「おもしろい?」

「うん!すっごく楽しそうに話してたから私も楽しくなってきちゃった!ちょっとびっくりしたけど、咲くん静かそうだったから」

「普段はもっと普通だよ。学校初めてだから今日はちょっと」

「最初は緊張するよね。私もドキドキしてたもん」

とてもそうは見えなかったが、そういうことにしておいた。

「それで、ケルベロスの化石だっけ?」

話が真理の出身であるウエスタンの話に戻った。

「そう!」

またもテンションが上がった咲だったが、真理は特に驚いてはいなかった。

「今はもう結構発掘が進んでるから数は少なくはなってきてるかな」

「やっぱりそうか」

「うん、それでも昔に比べたらってことだからまだまだ採取はできると思うよ」

「それなら問題なさそうだね」

「魔法装備の素材に使うの?」

「そう、新しい装備に使おうと思って」

「へぇすごいね!それじゃあ狩には結構行ってるの?」

その質問をされた時、咲は何かを思い出したように固まった。

「咲くん?」

「あっごめん、狩は、まぁまぁ行くかな」

「そうなんだ」

咲の歯切れの悪さに違和感を覚えた真理はそれ以上は追求しなかった。代わりに別の話題にしようとした。

「咲くんってこの学校に友達いる?」

「いや、いない。真理さんはいるの?」

「うん、小学校も一緒だった幼馴染が2人いるんだ。もし良かったら今日一緒に帰らない?」

「でも僕がいたら邪魔じゃない?」

「そんなことないよ」

うーん、と考える咲の頭が少し下がり、視線が真理の太ももあたりにいった。スカートから露出している太ももに何かを付けているのに気がついた。目を細めてその部分にピントを合わせると咲は真理の太ももを凝視した。正確には太ももに付いているものだが。

真理は顔を赤らめていたが、そんなことに気づく様子は咲には一切ない。

「あの、咲くん?そんなに見られると恥ずかしいんだけど...」

真理にそう言われ我に返った。

「あっ、その、ごめん」

「ううん、大丈夫だよ...男の子だもんね...」

「いや、そうじゃなくて、僕は」

「大丈夫大丈夫!全然気にしてないから!」

変な誤解を招いてしまった。それも女子が多いこの学校で致命的な。

変な空気になって沈黙が続いた。真理はなんだかそわそわしている。視線を咲に向けたりしていたが、咲が見るとすぐに外してしまう。こんなことがしばらく続いたが、この沈黙を破ったのは咲だった。

「今日、一緒に帰ってもいい?」

その言葉に真理は咲の方に振り返り、明るい声で答えた。

「うん!一緒に帰ろ!」

不安そうな顔をしていた咲だったが、真理の言葉に安堵の表情を浮かべた。

場が和んできてたわいもない話をしているとドアの開く音が教室に響いた。

一人の女性が入ってきて、教壇の前に立った。

「皆さんご入学おめでとうございます。これよりホールにて入学式を行いますので私に続いて来て下さい」

教師であろうその女性は見た目はかなり若そうだが、しっかりとした印象を受けた。どこかマニュアルっぽい感じもしたが、経験は浅いのだろうか。

では、と教室を出る女性に続いて生徒たちも教室を出ていった。咲たちもそれに続いて教室を出た。

廊下に出ると他のクラスの生徒の姿も見えた。そこそこの人数がいるはずなのに密度が高く見えないのはこの建物の大きさ故だろう。

校舎とは少し離れたところにあるホールに着いた。白い壁に赤いカーペットの内装はどこか高級感があるように見えた。

ホールに入ると出迎えるのはオーケストラだ。オーケストラと言ってもいるのは指揮者だけで、色々ある楽器は指揮に従ってひとりでに音を出している。

サイドにいるオーケストラの次に目に入ったのは空にみえる天井だ。魔法によってつくられた空は本物と見間違うほどだ。

中央の通り道を少し歩くと2階にある席に上級生がいるのが見えた。視界は開けていて四方から視線が飛んでくる。咲が最も苦手とする場所だ。

そんなこんなで新入生の入場が終わるとステージの中央に校長と名乗る若い女性が出てきて何やら話し始めた。

「新入生の皆さんソフィア学園へようこそ。皆さんのご入学心より嬉しく思います。早速ですが皆さんにお話ししておきたいことがあります。知っての通りソフィア学園は今年度より共学になりました。近年より活発になってきている魔法教育の促進のためです。そこで六大魔法魔術学校の中でも魔力・魔法の扱いに秀でている我が校で男子生徒を受け入れることは非常に意義のあることだと結論に至りました。魔法魔術学校の目的は新たな魔法師の育成です。明日から始まる授業で皆さんには魔法に関する知識を身に付け、技術を向上させていってもらいたいと思います。皆さんの今後の活躍に期待しています。」

話が終わった時、咲は校長と目が合い、笑みを浮かべられた。

式が終わり、教室に戻ると先ほどの女性が来たから今日はもう解散なのかと思った。

「本日は以上で終わりです。お疲れ様でした」

終わりなのかと思ったら言葉が続いた。

「栗原咲さん、あなたにはお話があるのでこの後残って下さい」

そう言うと咲の方をじっと見ていた。

咲は何の話だという疑問を頭に浮かべながら、先ほど校長と目が合った時と同じような感じがした。

それと同時に何か冷たいものを背中に感じた。

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