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02 不可知領域


 今日は、空がやけに青く見える。


 ケインは木陰のベンチに寝そべり、揺れる緑の枝葉をぼんやりと見上げていた。

 風にそよぐ青葉を透過して、強い日差しがまばゆく輝いている。


 頬を撫でる暖かい風が心地いい。


 うとうと微睡まどろみかけていると、土を踏む足音が近づいてくる。

 コーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐった。


「お待たせ、ケイン」

 ジェイミーの声が言った。


 ケインは身体を起こし、スターバックスのカップを受け取った。

「サンキュー、ジェイミー」


 ケインたちは並んでベンチに座り、目の前に広がる緑豊かな公園を見渡した。


「きれいなところだね」

 カップを口元に運びながら、ジェイミーは言った。

「日本に来てから、初めてほっとした気分だよ」


 ジェイミーは日本でのケインのマネジメントを兼務することになり、ニューヨークから来日した。

 今は新しい事務所エージェンシーで引き継ぎ業務に忙殺されている。


「ここはセントラルパークみたいだ」


「新宿御苑、だよ」


「シ、シンジクギョウエン?」

 ジェイミーは繰り返した。

「日本語は難しい」


「それで、連絡は?」


 ケインはジェイミーの横顔を見た。

 ジェイミーはスマートデバイスを取り出してメールを確認し、首を振った。


「動きがあれば、すぐ教えてくれるだろう」


「そうか……」


 ケインたちは黙ってコーヒーを飲んだ。

 連盟のマックスウエル査問委員の突然の死についてサラからメールがあったのは昨日のことだ。

 あまりにも唐突な出来事だった。

 そしてケインとジェイミーが同時に確信したのは、これは自殺ではない、ということだった。


 そこには明らかな疑念がある。


 それはサラも同様だった。

 サラの短いメールは『身辺の警護を強化』で結ばれていたからだ。

 国や通信企業の様々な検閲を通過する一般メールに詳しいことは書けない。サラとは連盟の暗号通信回線を使って話し合う必要があった。


「連盟の委員に手を出すなんて、とんでもないことをしたもんだ。でも」

 ジェイミーは硬い声で言った。

「やつらにとってアンリミテッドでの報復戦はまだ終わっていない。君も狙われていると考えるしかない」


「俺だったら、殺しはしない」

 ケインは自虐的に笑ってみせた。

「むしろ拉致らちって、仲間にするね」


「危険であることには変わりがないよ」

 ジェイミーはカップを持ったまま、周囲を見回した。


「相手の組織は、すぐに次の行動を起こすとは思えないが」ケインは言った。


 ジェイミーは首を振って否定した。

「それはまったく予想できない。憶測は危険だ。何しろ連盟の委員を消してしまったんだ……それも自殺に見せかけて。大変なことになる」


 ケインは眉間を寄せた。

「ああ。どう考えても普通じゃない。もしかしたら、あいつが関わっているのかも知れない」


「あいつって、黒い僧侶(ダーク・モンク)のこと?」


『ダーク・モンク』はサラのメールにあった言葉だ。

 連盟はあのアンリミテッドに現れた暗黒の雲を頭部に持つブレイン・ギアを、そう名付けたらしい。


「ああ」

 ケインはうなずいた。

「あの『ダーク・モンク』の特異性スペシフィシティは異常だった。あれはもう人間じゃない。思い出すだけで、ゾッとする」


 ジェイミーはケインの様子を見つめながら言った。


「ケインにボディガードをつけてもらうよう頼んだ」


「ボディガード?」


「NYの僕のボスから日本のエージェンシーには話が行っているはずだ。奴らに狙われているとしても、僕たちは直接連盟とは関係ない。自分の身は自分で守らなければならない」


「遠慮したいよ」

 ケインは大きく溜息をついた。

「ボディガードも、現実のバトルもね」


 ジェイミーのスマートデバイスが振動した。ケインは携帯電子機器を持ち歩かないので、オフィスからの連絡はジェイミーにかかってくる。

 英語での会話だったが、内容はケインにもわかった。


「ミーティングの時間か」


 ケインはベンチから立ち上がり、大きく背伸びをした。ジェイミーはケインを悩ましげな眼で見上げた。


「どうした、ジェイミー?」


「ケイン、今夜はライセンス復帰第一戦だろ」

 ジェイミーは躊躇ためらいがちに言った。

「なんていうかその、もっと集中していこうよ」


「いつものチームだ。負けやしない」

 ケインは当然のように言った。


「それはそうだが」

 ジェイミーは微かに唇を震わせた。

「もしケインが……」


 ケインはうつむくジェイミーを見下ろした。


 ケインとアッシュ・ガールはアンリミテッドでの戦いから生還できたが、教授はソウル・ケージと共に消滅ロストしてしまった。

 その教授に、ケインを援護してほしいとアンリミテッドへの侵入を依頼したのはジェイミーだった。教授の同意があったとはいえ、その死の責任の一端を問われても仕方がない。

 しかし連盟から咎めはなく、ステージ侵入のためのクラッキング行為も不問に付されている。

 それでもジェイミーの心には、悔恨と罪の意識が重くのしかかっていた。


「心配するな、ジェイミー」


「しかし」


「試合前のバトラーより、マネジャーがナーバスになってどうする?」


「……そうだな」

 ジェイミーは顔を起こし、強張った笑顔を見せた。

「すまな」


 いいかけたジェイミーが大きく目を見開いた。

 ケインは素早く振り返った。


 いつの間にか、数メートル先にジャージを着た背の高い女が立っている。

 ケインは反射的に拳を握って身構えた。

 明らかに一般人の雰囲気ではない。


「あわてるな」

 ジャージの女は両手を上げた。

「警護を依頼されて来た。IDを」


 手にIDカードを持っている。

 急いで立ち上がったジェイミーがケインをかばうように前に出てカードの表示を読んだ。同時にスマートデバイスで誰かをコールしている。


「サイトウさん? ジェイミー・パッカードです」

 女から目を離さず、早口で言う。

「依頼していたボディガードの会社名は?」


 女の地味なジャージ姿は新宿御苑をランニングしている地元住人のように見える。しかしすらりとした全身からは、トレーニングを積んだアスリートの俊敏さが漂っていた。


 女は鋭い視線でじっとケインを見つめている。

 ケインはその視線を正面から受けた。

 相手との間合いを計り合うような、微妙な押し引きがある。

 ケインの記憶のどこかが反応した。


 ─この眼は、戦場の……?


「わかりました」

 ジェイミーは答えた。

「すぐ、戻ります」


「認証を」

 女は簡潔に言った。いつの間にか片手にタブレットを持っている。

 ジェイミーはタブレットを受け取ろうとした。女はすっと身体を傾けると、数歩離れたケインの前に立っていた。

「あんただ」


「OK」

 ケインはタブレットに自身のIDと暗証を入力し、指先でサインをした。


「現時点より警護を開始する」

 女はくるりと回転して、ケインに背中を向けた。


 気がつかなかったが、大きなバックパックを背負っている。女は片手を伸ばすと昔のリモコンのような装置を近くの樹に向けた。


「あの樹に監視バグが来ている。気がつかなかったのか?」

 女は肩越しに装置をかざした。

「見ろ」


 ケインは表示された小さな文字を読んだ。


「ジャパン・マイス・エンターテインメント……」

 監視バグは所属情報を開示するよう各国で義務付けられている。


「一応、連盟は僕たちを気にかけているようだね」

 冗談めかしていいながらも、ジェイミーは険しい顔で樹の梢を見た。

「……話を聞かれたか?」


 ケインはベンチでの会話を思い出した。


「大丈夫だ、ジェイミー。個人名は出していない」


「うん、まぁ、そうだよね」

 ジェイミーは曖昧にうなずいた。


「監視バグのことは聞いていない。警護レベルが違ってくる」

 女は振り返り、眼を細めた。

「あんた達は……?」


「気にしないでくれ」


 ケインは足を踏み出し、前に出た。

 女の目線が素早く周囲を探る。ケインの立ち位置が変わったからだ。


「俺は狙撃されるような重要人物じゃない」

 ケインは苦笑した。


 女はじろりとケインを睨むと、低く言った。

「ここから移動する」


「わかった」

 ケインは肩をすくめた。

「オフィスに戻ろう」


 新宿御苑の正門を出て、タクシーを拾う。後部座席にケインたちは並んで座った。


「狭い」


 窮屈さにケインは顔をしかめた。他人と接触するのは嫌いだ。

 ジェイミーは首を伸ばし、英語で言った。


「ねぇ、君、名前は?」


 女は質問を無視し、大きなバックパックを膝の上に抱え、黙っている。


「俺は、御門ケイン」

 ケインは身体をねじり、女の横顔を見た。

「警護をよろしく」


 女は小さく顎を引き、ぼそりと言った。

「イーノ・セキュリティー、石井だ」


「フルネーム」


「……石井真樹」


「何だよ、それ!」

 ジェイミーは口を尖らせた。





 ケインが所属するブレインバトラー・マネジメントの会社、アルゴ・エージェンシーは、青山一丁目のツインビルにある。

 オフィスの大きな窓からは、青山通りを挟んで緑豊かな赤坂御所が見渡せた。


「全員そろったな」


 ミーティングルームのドアが開いて、マネジメント部長の斉藤が入って来た。

 斉藤はテーブルについた四人のバトラーを一瞥すると、壁面ディスプレイの前に立つスーツ姿の青年に声をかけた。


「よし、間宮。始めてくれ」


 青年は慣れた手つきで手元のデバイスを操作し、大きなディスプレイに映像を出した。


「ジャパンカップ・トーナメント・第三戦。シード権のある我々にとっては初戦になります」

 眼鏡をかけた戦術分析担当者は生真面目そうに言った。

「対戦するチーム、ブラック・ガンズは今大会から登場した新鋭チーム。ただし個々のブレイン・ギアの前歴が不詳。おそらくリコンストラクションされ、新規登録された機体です」


「過去の履歴を消したってわけか」

 サングラスをかけた中年男が、あご髭を撫でながら言った。

「ずいぶんうさんくさい連中だな」


 隣に座る赤髪の少女がぷっと吹き出した。

「おっさんの方がよっぽど怪しいんだけど!」


「なんだと華凛かりん、てめえ!」

 中年男が手を伸ばそうとした。


「岩城よ」

 壁にもたれていた斉藤部長が低い声で言った。

「話を聞けや」


「……すいません」

 岩城は素直に頭を下げ、椅子に座り直した。


「で、こいつらだが」

 斉藤は腕を組んだ。

「登記上は独自資本のチームだ。しかし、バックには例のフラクタル社がいる」


「フラクタル社?」

 ケインは岩城に顔を向けた。

「なにそれ、岩城さん?」


「ケインよ、時代は急速に動いているのだよ」

 サングラスの男は芝居がかった口調で言った。

「お前がアメリカでごろごろしている間にもな」


「ごたごただよ」

 華凛が呆れて言った。


「OKわかった。あんたには頼まない」

 ケインは岩城を指差すと、隣に座る黒いジャケットの長髪の青年に言った。

「ST、頼む! 教えてくれ!」


 エスティーと呼ばれた青年は整った顔を向け、おっとりとした口調で答えた。


「フラクタル社、正式名称はフラクタル・ブレイン・イクイップメント・コーポレーション。ブレイン・バトルの新興勢力。豊富な資金で有力バトラーや有望新人を引き抜きチームを編成」


「このジャパン・カップには、そのチームが?」


「複数エントリー」


「金でつるんだ奴らか」

 ケインは拳を手のひらに打ち込んだ。

「……面白いじゃないか」


「さすが剣豪! 全員やる気です!」

 華凛が恐ろしげに言う。


「フラクタルの本社は北京です」

 間宮が眼鏡を押し上げる。

「ですが、ロシアや中東からの資金も流れ込んでいるようです。マイス社は凄く警戒していますよ」


「だろうな。マイス社にとっては強力な競合相手の出現だ。だが、問題はそれだけじゃない」

 斉藤は苦々しげに言った。

「フラクタル社は、イマジネイティブ・ウエポンの開発・販売元だ」


「イマジネイティブ・ウエポン?」

 ケインは斎藤部長を見た。


「現実の軍用火器をイメージトレースしたものだ。今までバトラーは自分の武器や装備を独自に構築していた。しかしフラクラルはその武器を量産し始めた」


「はぁ?」

 華凛が甲高い声を出す。

「なにそれ、ずるくない?」


「お前も知らないのか」

 斉藤は渋い顔をした。

「バトラーなら少しは情報を仕入れろ」


「興味ないし」

 少女はネイルの指をひらひらさせた。


「イメージトレースはブレイン・バトラーなら誰でもやっている。それを、どうやって量産するんだ?」


 ケインの問いにSTが答える。

「バトラーはフラクタル社の仮想ステージ『武器庫』にエントリー。『武器』を使用した演習チュートリアルにより、自身のイメージとして『持ち帰る』」


「横着しやがって」

 岩城が毒づいた。

「バトラーなら自分のイメージで勝負しろや!」


 間宮が咳払いをした。

 全員がディスプレイに視線を戻す。


「説明を続けます。ブラック・ガンズは全機がアーミータイプの近接戦闘型。フラクタル社のイマジネイティブ・ウエポンで完全武装しています」


「全機が火器で固めた近接戦闘型なのか?」

 ケインは首を傾げた。


「彼等は防御しません」

 間宮はデバイスに触れて画像を変える。

「指揮官もいない特異なフォーメーションで、敵を一体ずつ包囲して撃破していきます」


「群で行動。まるでハイエナ」とST。


「突出したデータがあります。ここまでトーナメント二戦での防御ポイント損失率は、78%」


「何その数字?」

 華凛が甲高い声を上げた。

「味方を犠牲にしても、とにかく誰か生き残ればいいってこと? あったま悪いんじゃない?」


「ダメージを恐れないというのは心理的に相当無理があります。おそらく何らかのマインドコントロールが」


「間宮、ポイントはそこじゃないだろう?」

 ケインは言葉を遮った。

「どうして一体ずつ包囲できるんだ?」


「はい、それは、ええと」

 間宮はちらりと斉藤部長を見た。

「特殊な状況が確認されています」


「もったいぶるな!」

 華凛がガン!とブーツで床を蹴った。


 間宮はむっとして、眼鏡を押し上げた。

「相手チームのギアは、仲間がブラック・ガンズに攻撃されていても助けにいきません」


「はぁ?」

 赤髪の少女は再び声を上げた。

「なんで? どういうことよ?」


 岩城はサングラスを外し、画像をじっと見つめた。


「助けにいかないんじゃない。いけないんだ」


「なんでよ、おっさん?」


「なぜなら」

 STが人差し指を立てた。

「それが見えないから」


「そうだST。その通りだ」

 岩城は拳を握り、唸るように言った。


 全員が沈黙して、ディスプレイを凝視した。

 

「特殊なステルス能力か……」

 ケインは椅子の背にもたれた。

「どのギアだ?」


「おそらく、この黒いギアです」


「みんな黒なんだけど」少女が笑った。


「この黒い翼のある、ギアです」

 間宮は画像を拡大する。


「鳥人間か」

 少女は頬杖をついた。


「デザインは変わっているが、岩城は、わかるよな?」

 やり取りを聞いていた斉藤部長が口を開いた。

「こいつの正体が?」


 岩城は斉藤をじっと見つめ、ぼそりと言った。


「……こいつは、レイブンだ」


 斉藤は口をへの字にしてうなずいた。


「レイブン? 誰それ?」

 華凛は首を傾げた。


「あいつなら『不可知領域』を発生できる」岩城は言った。


「『不可知領域』?」

 STが不思議そうに言う。

「そのバトラーなら、既に引退したはず」


「知ってるの?」

 華凛は青年に顔を向けた。


「特異なステルス・フィールド『不可知領域』を発生させ得る唯一のブレイン・ギア、それがレイブン」

 青年は記憶した文章を読み上げるように言った。

「ただし、その能力はルール抵触の可能性あり。その審議期間中、レイブンはあるバトルで警告した審判を『不可知領域』に引きずり込んで攻撃、重傷を負わす」


「へぇ、なかなかやるじゃん」少女はにやりとした。


「ライセンスを剥奪され、引退」


「ビジネスだもんねぇ」うんうんとうなずく。


「たしか、六、七年前ですよね?」

 間宮が斉藤部長を見た。


「二つ名を持たないギアは、ブレイン・バトルでも初期のものだ」

 斉藤は険しい表情で言った。

「本来ならその希有な特異性スペシフィシティから歴史に名を残すギアだった」


「どこが」

 少女が鼻で笑った。

「単なる旧バージョンじゃん」


「とにかく」

 間宮は切迫した口調で言った。

「このギアがその特殊なステルス能力、つまり知覚をシャットアウトする特異な領域を発生させていることは間違いありません。この中に取り込まれると、外からはまったく見えなくなります。もちろん知覚カメラにも写りません」


「それが『不可知領域』なんだな?」


 念を押すケインに、間宮は深くうなずいた。


「そうです」


「今のそいつの登録名は?」岩城が訊いた。


「ブラックバード」


「そのままですね」STが言った。


「レイブンでいい」

 ケインは黒翼のギアを指差した。

「こいつは俺が倒す」


「出た! ケインの必殺宣言!」

 華凛が嬉しそうに親指を立てた。


「注意しろ、ケイン」

 斉藤は何かを考えながら、ケインに視線を向けた。

「どうも、昔のレイブンじゃない感じがする」


 突然、岩城が声を上げた。

「斉藤さん」


「なんだ」


「俺がやっても、いいですか?」


 室内に沈黙が流れた。

 斉藤は岩城をじっと見た。

 岩城はその視線を逸らすようにサングラスをかけた顔を窓に向けている。

 斉藤は腕組みをほどき、小さく息を吐いた。


「わかった。あいつを楽にしてやってくれ」


 斉藤はドアを開けて出て行った。



「楽にって……」

 華凛は眉根を寄せ、岩城を見つめた。

「おっさん、どういう意味よ?」


 岩城は窓を向いたまま、ぼそりと言った。


「お前は、知らなくていい」


「何やら因縁試合?」STが言った。


「関係ない」

 ケインは椅子にもたれ、頭の後ろで腕を組んだ。

「重要なのは、勝つことだ」


 斉藤が立ち去った後もミーティングは続いた。

 間宮はディスプレイに戦術情報を映していく。


「フォーメーションは従来通り。オフェンスは岩城の疾風の風牙と、ケインのソードマスター・アカツキ。ディフェンスは華凛のボンデージドール・ギャルギャルプリティー・プリンセス、コマンダーはSTのスターシューター・ブルーナイト」


「ギャルギャル……」

 岩城が露骨に顔をしかめた。

「華凛、また改名したのか」


「いいじゃん。姓名判断で占ってもらったんだから」


「どこに姓名判断の要素?」STが首を傾げた。


作戦行動マヌーバーを見せてくれ」

 ケインは間宮に言った。


 ブラック・ガンズ、つまりレイブンのチームのトーナメント過去二戦の機動データが、ディスプレイに高速で再現される。

 その航跡は奇妙といえるほど特徴的だった。

 レイブンたち四機は常に密集して移動し、相手チームは様子を窺いながら単発的な攻撃を仕掛ける。二試合とも試合前半は戦闘にはならず、一種の膠着状態が続いていた。


「ここです」


 間宮が画面をポインターで示した。

 約十分が経過した試合中盤で、相手側のギアがブラック・ガンズを見失ったように不意に散開して混乱する瞬間があった。

 その時、レイブンたち四機は相手側の一機を取り囲み攻撃し、離脱すると敵は撃破されていた。

 奇妙なことは、集団で移動するレイブンチームのギアは攻撃されても反撃せず、一体、また一体と脱落していくことだった。


「理解不能」

 STが首を振った。


「でもあの黒い鳥、ほぼ無傷だよ」

 華凛が画面のレイブンの防御ポイントを指差した。


「他のギアがレイブンを守っているのか?」岩城が言った。


「わかりません。ただ、ポイント数では確実に判定勝ちです」間宮は言った。


「以前のレイブンは、狙った相手を包むように『不可知領域』を発生させ、攻撃していた」

 岩城は考えながら言った。

「だが、今度はより広範囲に、自分のチーム全体を覆い隠している」


「どういうこと?」華凛が訊いた。


「『不可知領域』発生はレイブンの特殊能力です」

 間宮が言った。

「その能力が拡大したことで、何か別の制約を負ったのかも知れません」


「そうだ」

 岩城はうなずいた。

「おそらく、その中では、レイブンは攻撃できない」


「残念な能力」

 STが肩をすくめる。


「ねぇ、そのふかちなんとかは申請しなくていいの? ずるくない?」

 華凛が不満げに声を上げた。


「武器じゃないからな」ケインは言った。


「武器ではありません」間宮が言った。


「故に申請の義務なし」STは言った。


「なによ!」

 華凛は頬を膨らませた。


「それをいうならお前の束縛する鞭(ウィップ・バインド)の方が厄介だ」

 岩城は笑った。

「あれも武器じゃないだろ?」


「そうよ!」

 華凛は傲然と顎を上げた。

「ウイップ・バインドはあらゆる武器を束縛する。相手の武器を使わせない『攻撃的防御』こそ最強の防御よ!」


「わかったわかった」


「最初の『不可知領域』が発生するまで、十分かかっている」


 ケインはディスプレイを指差した。

 全員がケインを注視する。


「その間、レイブンたちはステージ内を移動し続けている。拡大された『不可知領域』を発生させるために、何か必要なプロセスがあるんだろう」


「だったら」華凛が言った。


「発生させなければ問題なし」STは言った。


「では、戦略は決定ですね?」間宮はケインを見た。


「みんな、スピードで勝負だ」

 ケインは拳を手のひらに打ち込んだ。

「レイブン以外の三機を、速攻で撃破する!」

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