1-1 出会い
____その世界は魔法と剣によって刻まれていた。
リスタ・グリルニアは満足だった。今の自分に。
両親に偉大な功績がある訳でもなく、彼にも特別な才能があるわけでもなかった。幼少から両親に望まれるまま鍛錬に励み、気づけば生まれた小さな村では負けなしの魔法士となっていた。そんな彼は力を認められ彼の住むラディウル共和国に4つしかない国の為の魔法士を養成する機関である魔法教育学舎の東支部、通称「イースト」に進学が決まった。彼のイーストにおける成績は華々しいものだった。4年制である学舎で3年生であるにも関わらず総合成績は3位。誰もが彼を羨んだ。彼はそれ以上の望まなかった。今の自分では高みには至れないと分かっていた。でも、彼は自身の変革を望まなかった。
2週間前に行われた魔法力測定の成績上位者が発表される夏休み初日。魔法力とは個人の魔法の威力、適応力、知識、そして身体能力を測定した総合評価の事で魔法国家であるラディウルで将来を左右する順位である。リスタは寮の自室から、廊下の掲示板を見て一喜一憂する寮生達の声を壁越しに聞いていた。
「うるさいなぁ…」
愚痴が溢れる。彼が住んでいるのは成績上位3名にのみ与えられる個室部屋。個室とは言っても通常の3人部屋を一人で使えるというだけで他に特別な待遇があるわけではない。リスタは自分の順位を掲示板を見ずとも分かっていた。魔法以外の座学を含めた総合成績であろうと魔法力のみの成績であろうと上位2人に敵わないことも自分を含めた上位3人と4位以降は成績に大きく差がある事は明白だったからだ。掲示板を見る必要のない彼は再び眠りにつこうと頭を枕につける。
「おいリスタ!89位だ!ついに2桁だ!!」
部屋の扉を強く叩き自らの順位を報告しに来る者がいた。リスタはうんざりしながら寝床から立ち、扉を開け、興奮冷めやらぬ自分より身長の少し高い髪の短い友人に眠気まじりに問いを投げかける。
「わかった。わかったから落ち着け。だからなんだ?」
「100位以内に入ったら奢りだって約束しただろ?」
逆に問いかけられる。リスタはその友人、ルシャーラの問いの答えに心当たりがあった。魔法力測定が行われた日に交わしたルシャーラとの約束を思い出した。
「まだ寝てたのか?もう朝って時間でもないし今から食いに行こうぜ。お前の奢りでな!」
「はぁ…わかったよ…」
こうなってしまっては彼が引くことはないと長い付き合いから知っているリスタは遅い朝食もとい、早い昼食をとる為に身支度を始める。
「どうせならナフィル達も誘っていくか」
支度を終え、部屋から出てきたリスタにルシャーラは提案する。
「おいおい、それは話が違うだろ」
「なんだよイースト4位のリスタ様は懐が狭いなぁ」
「はいはい、わかったわかった。まずお前と2人きりで休日の昼食なんて御免だからな。寛大なイースト4位リスタ様がお前らに昼飯を恵んでやるよ!」
「はっ、ちょろいちょろい」
うまく乗せられたリスタと乗せたルシャーラは別棟の女子寮に立ち寄り友人達を誘い学舎近くにあるファミリー向けレストランで昼食をとることになった。
「はぁーうちはまた50位以内入れなくて落ち込んでんのになんでルシャーラなんて祝わなきゃなんないのよ…」
「まあまあ、ルシャーラ君今回は測定に向けて頑張ってたしお祝いしてあげようよナフィルちゃん」
席について早々悪態をつく赤い髪を揺らす褐色の少女ナフィルを黒髪と白い肌で落ち着いた印象を持つアミラがなだめる。
「リスタ君ほんとにご馳走になっていいの?」
成り行きで奢ることになった事を察していたアミラがリスタを気にかけてくれる。
「ありがとうアミラ…お前のその言葉で後悔がなくなったよ…」
_____彼女になら奢ってもいい…むしろ奢りたい…
リスタが気にかけてくれるアミラに感激していた時にはルシャーラが勝手に注文を始めていた。
料理を食べ始めると当然成績の話が始まった。
「リスタはまた3位なんでしょ?中途半端ねぇ…どうせならトップになりなさいよ!そしたら同期生のうちらも鼻が高いのにさぁ」
「ほんとこいつは向上心がないからな」
本人を前に勝手な事を言うルシャーラとナフィル。
「簡単に言ってくれるけどな、上2人は化け物だってお前らも知ってんだろ」
「何言ってんのよ、あんたも充分化け物よ」
「化け物は言い過ぎだけど、本当にリスタ君も上位の三人は凄いよね。憧れちゃうよ」
言い訳をするリスタにナフィルは反論しアミラが羨む。
「てか、知ってんだろって言うけど知らないぜ。なんせ上位成績者の魔法なんて俺らにゃ拝む機会滅多にないからな」
「そっか見たことないのか。あの2人はまじでやべーよ」
「お前の氷でも敵わないのか?」
「そりゃもう生徒会長の風は俺の氷じゃ速すぎて防げないし、ディスドアの炎は俺の氷なんか一瞬で溶かしちまうからな」
「へぇ、まあ確かにディスドアとは相性悪いだろうと思ってたけど会長もそんなに強いのか」
「当たり前だろうが…お前なんかじゃ秒殺されるだろうな」
「こわ…絶対生徒会案件は起こさないようにしよ…」
イーストを含めた学舎では生徒が起こした事件を鎮圧する仕事を生徒会が務める。そのため、魔法力1位の生徒が生徒会長に就くのが原則となっていて、その他の生徒会メンバーも10位以内の生徒によって組織されるため生徒会は名実共に各学舎の頂点に立っている。しかし、現在イーストでは1位のディスドア・ドゥーガがこれを拒否したため2位であるフィアニール・シャラが生徒会長に君臨している。
問題児であるルシャーラは自分より遥かに強い親友が歯が立たないと聞いて生徒会の厄介にはなるまいと心に誓う。
「ん?なんでリスタはディスドアと会長と戦ったことあるのよ。なんか問題でも起こしたの?」
「んなわけないだろ…上位層で魔法力が拮抗した場合は直接戦って順位を決めんだよ」
「結局あんたもあの2人と拮抗してるってわけね…羨ましい限りよ…」
ナフィルが口を尖らせていると、それまで話を聞いていたアミラが口を開いた。
「そういえば、最近噂のあの話どう思う?」
「同系統の魔法士を倒すと魔法力が強化されるって話か?」
「そうそう、あの噂の妙に現実味があって私、風なんてありふれた能力でしょ?こわくって…」
「まあ確かに基本属性の魔法士は数が多いからな、噂がほんとだろうと嘘だろうと試す奴がでそうで怖いな」
炎、水、風、地、雷、闇6つの基本属性のうち風を持つアミラが噂を恐れるのは当然と言う。
「そんな噂初めて聞いたぞ」
話を進めるアミラとルシャーラの横で首を傾けていたリスタが口を挟む。
「そりゃ上位層の耳には入らんだろうな。入ったら片っ端から刈られそうだしな」
「いや、そんな事したら俺が生徒会に塵にされるから絶対しないけどな…」
笑いながら肩を叩いてくるルシャーラにリスタは眉をひそめた。
「まあ、男子に大人気のアミラを襲ったりなんかしたらうちの学年の男子が黙っちゃいないだろうからアミラは大丈夫だと思うがな」
「そうそ、うちらもいるしね」
魔法力順位が150位以下、つまり番外のアミラは高成績を収める2人の言葉に安心したようだった。
「そういえば今年の夏休みはみんなどうするよ」
ルシャーラが今日から始まった夏期休暇の話題を持ち出す。
「アミラと私は今年は実家に帰らないで寮で過ごすつもりよ」
「お、奇遇だな俺とリスタもだ。これはイースト3位のリスタさんに修行をつけてもらうしかないな!」
女子2人も予定がない事を知り勝手な事を言い出すルシャーラ。
「おい、勝手な事言うなよ俺にも予定があんだろ」
リスタは語気を強めて言う。
「何言ってんだ、彼女もいないお前に予定なんかあるわけないだろ」
声をあげて笑うルシャーラにつられてナフィルとアミラも笑みをこぼす。
「いいんだよ!俺は現状に満足してんだ余計な事に手を出して痛い目にあうのは嫌なんだよ!」
「そんな事言ってるけどよ。お前の成績じゃあと1年もすれば前線警備に配属されるのは確実じゃねーか。残り少ない学生生活楽しみたいだろ?」
ルシャーラの言う通り所謂学生生活を楽しみたいという考えはリスタの本音であった。しかし、余計な事に手を出して痛い目にあうのが嫌なのも本心であった。
「まあ、痛い目にあいまくってるルシャーラが言ってもねぇ」
ナフィルが笑う。痛いところを突かれルシャーラが静かなる。
その時、リスタ達のテーブルに見知らぬ学生が近づいてきた。
「ここにいたのかルシャーラ!お前体力の成績E判定だろ!1時から補習だぞ!」
「おいおい待ってくれ俺はそれに関しては魔法士における体力の不要性を説いた論文を先生に提出したはずじゃ…」
「そんなもん先生読まずに捨ててたぞ」
「なっ…」
ルシャーラのクラスメイトと思われる生徒がルシャーラに悲しい現実を押し付ける。
「ほら、行くぞお前も同期生と同じように進級したいだろ?」
「いやだぁぁ、剣士でもない俺がなんであんなに体を鍛えなきゃなんないんだぁぁ」
ルシャーラは悲痛な叫びとともにクラスメイトに引きづられレストランを後にした。
「ルシャーラ…良き友を持ったようだな…俺は嬉しいよ…」
「う…うん、そうだね…」
リスタが今はもういない友人を皮肉ると一連のやりとりをみて引き気味だった引き気味のままアミラは同意する。
「まったく騒々しい奴ねほんと。そろそろお開きにする?みんな夏休み初日ぐらいゆっくり過ごしたいでしょうし」
リスタもアミラもナフィルに賛成し昼食はお開きとなった。
レストランを後にし、女子寮前で2人と別れたリスタは自室のある棟への並木を歩いる。
ふと、風を感じた。彼はこれまでの実戦経験からそれが魔法によるものだと悟る。珍しい事ではなかった。学舎によって決められた時、場所以外で人に向けた魔法は禁じられていたがそんな事は形骸化しているのが現実で教員もそれを咎める事はしなかった。リスタはどうせ学生同士の悪ふざけだろうと思いつつも風が吹いてきた方に目を凝らす。その風の発生元は近くはなかった。イーストの敷地の東に位置するリスタのすむ男子寮のさらに東に広がる大樹海。4年生になると訓練の一環として使用する事があると聞いた事がある、リスタが1度も足を踏み入れた事のないその樹海から暴風は吹き荒れていた。
_____あそこからここまでこの風がくるって事は中々の火力だな
顔も名も知らぬ魔法士に心の中で賞賛を送っているとリスタは吹き荒れる風の中心に今にも搔き消えそうな小さな火柱が立っている事に気づく。
_____なんだ相手は雑魚か
リスタはその所謂弱いものいじめを見て愉しむほど下賤ではなかった。そして、それを見て助けに行くほど勇敢でもなかった。
自分ではない勇ましい通りすがりが彼、又は彼女を格好良く救ってくれる事を信じ、彼は寮へ向かう足を再び動かし始めた。
しかし、一向に風は止まない。それは当然だった。今日から夏休み。実家に帰る学生が多く寮に残っているものは少ない。中でもあれほどの暴風を起こす魔法に対抗できる力を持つものをリスタは自分しかいない事を悟る。
_____しょうがない…助けてやるか…
自分が勇ましい通りすがりになる事を決心しリスタは東へ走り出す。
彼女は諦めた。
_____でも、どうしてこんな事になってしまったのか…
彼女は夏休み初日の朝、実家に帰っていく同室生達を見送った。廊下に張り出された自分の名の載っていない成績順位を見て落胆する事すらなく、彼女は部屋に戻り自らの炎魔法に関する勉強を始めた。いつもは部屋が騒がしく集中できない勉強は静まり返り、いつもより広く感じる部屋では驚くほど捗り、気づけば時計の針が12時で重なろうとしていた。
_____お腹すいたな…
友人の荷作りを手伝い朝食もとっていなかった事を思い出す。
_____まだ食堂混んでないかな
夏休みになったため、するはずのない混雑を心配しながら、彼女は財布を握りしめ女子寮と男子寮の中心にある食堂に向かった。
食堂についた彼女は閑散としている食堂に驚き、今日から夏休みである事を思い出したが気にせずいつも通り日替わり定食を食べた。1人きりの寂しい昼食を終えた彼女は午後は1人で何をしようかと考えながら女子寮に向かっていた。
その時だった。
風が吹いた。実戦経験などない彼女はこれが人為的なものであるなど考えもせず背後から吹く風に飛ばされぬよう足を強く踏みしめた。
しかし、次の風はそうはいかなかった。一瞬の風が彼女の着ている学舎指定の制服を切り裂いた。
ここで初めて風が魔法によるものだと気がついた彼女は気配を察し背後を向く。そこには制服を着て、黄色がかった緑色の長髪を風に靡かせる青年が立っていた。
「手荒な真似はしたくない。その制服のように切り裂かれたくなかったら大人しく着いて来てくれないか?」
青年は語りかけてくる。
「何言ってるんですか…こんな事する人に大人しく従うわけないじゃないですか!」
彼女は踵を返し青年に背を向ける。彼女には余裕があった。何故なら彼女は青年が自身を傷つける事がないと分かっていたからだ。人に対する魔法行使は事実上お咎めなしだが相手を傷つけたなら話は別だ。魔法による傷害事件は生徒会案件とよばれ犯人は生徒会によって鎮圧された後、退学処分となる。生徒会の恐ろしさを知っている彼女はそんな事する人がいるわけがないと、青年に構う事なく寮へ向かおうとした。
何がが顔の横をすり抜けた。
そして頬に何かが伝う。触れてみると鮮血で指が染まる。驚きすら起こらなかった。
恐怖。
彼女は一瞬で自分と青年の力の差を察する。
_____魔法力上位層レベル…絶対に勝てない…
「言ったはずだ。手荒な真似はしたくないと」
彼女は経験から質量を持たない自分の炎魔法では風魔法を防ぐ事すら出来ない事を知っていた。しかし、絶望はしていなかった。
ただひとつ、身体能力。
身体能力だけなら青年に勝っている自身があったからだ。学舎は魔法士育成機関という事もあり身体能力の水準は低い。
_____お前は剣の国に生まれた方が良かったかもな
偉大な魔法士である父にそう言わしめる彼女の身体能力は総合成績が番外であるにもかかわらずイーストでトップクラスだった。
_____魔法を陽動に使って逃げるしかない!
青年は追ってくるだろう。すぐに捕まり更に酷い目に遭うかもしれない。しかし彼女は決心した。
「諦めろ。傷つきたくなけ_______」
青年の声が途切れる。覚悟を決めた彼女は己の限界、8個の小炎を青年に向けた。番外の彼女放つ小さな炎は青年に届く事はなかった。しかし、片手で炎をはらった青年の前に彼女の姿は無かった。
_____追いつかれるのは時間の問題。どこに向かえば…
青年から離れるため東へ、男子寮の並木を横切り棟の間を駆け抜ける彼女は行き先を探していた。恐らく男子寮にも女子寮にも青年の風魔法に対抗しうる魔法士は残っていないし、生徒会が駐在する本舎は遠すぎる。結局、一連の騒動を見た学生が生徒会に通報し駆けつけてくれるまで耐えるしかない。
_____障害物と可燃物のたくさんある場所…
自らの能力を最大限に活かせる逃げ場を探す彼女の目の前に大樹海が広がった。
「ここしかない!」
声を上げた彼女は立ち入りの禁止されている樹海に迷いなく足を踏み入れた。
そして走った。
ここまでくればすぐには見つかるまいと彼女は上がった息を落ち着かせるため木の根元に腰を下ろす。
しかし、休む間など与えられなかった。
彼女の体は轟音と木の葉と共に宙に舞っていた。体が丁度彼女の身長3人分の高さを超えるほど浮いた時風は止んだ。地上に打ち付けられた彼女は意識を失う。数分後意識を取り戻すも体は動かない。やっとの事で上半身を起こした時、近くの木陰から追跡者が姿を現わす。
「手間をかけさせたな。傷をつけるなと彼に言われているがそうはいかなそうだ」
青年の言う彼が誰の事なのか、そんな事を考える余裕は彼女になかった。
残った全ての力を振り絞り自分を包む火柱を作り出す。
「脆弱だな」
青年は風の刃で彼女を弾き出すことはしなかった。豪風を起こし、彼女の小さな火柱を揺さぶった。火柱の中心にいる彼女は自身の炎によって身を焦がす。
彼女は諦めた。
走馬灯のように1日を思い出す。
_____どんな目にあうのかな…もうどうでもいいや…
彼女の魔力が尽き、火柱が消える。青年は露わになった彼女に今度は容赦なく風の刃を放つ。
彼女は瞼を閉じる。
_____終わった。私はもうここで終わりなんだ。
しかし、刃は届かない。感じるのは微かな冷気。
強く閉じた瞼を開けるとそこに目の前にあったのは氷壁だった。
「流石にやりすぎなんじゃねーの」
彼女ではなく壁の向こう側にいるであろう青年に向けられた聞いたことのない声。
「何故邪魔をする」
青年は問う。
「そういうのいらないからさっさと退散してくんないかな。それとも俺ともやんのか?」
その声は青年の問いに答えない。
「私ではお前に勝ち目はない。これは彼自身に出張ってもらうしかないようだな」
青年は立ち去った。
ただひとり、氷壁に阻まれ状況を把握できない彼女は声も出せなかった。
そして、氷壁が消え声の主が姿を見せる。制服を着た声の主は変わらぬ調子で彼女に言った。
「感謝しろよ。わざわざ厄介事に首を突っ込んだんだからな」
勝手な言い草だが間違ってはいない。彼が来てくれなければ彼女は青年の思うままだっだろう。しかし、-能力は低いが-プライドの高い彼女はこの状況が受け入れられなかった。
「何言ってるんですか!あなたなんて来なくても私は大丈夫でした!」
彼女は威勢を張る。
「お、おう、そうですか…」
_____なんだこいつ…あんま関わりたくないな…
眉をひそめる少年に彼女は尋ねる。
「あなた、名前は?」
「リスタ、リスタ・グリルニア。3年だ」
リスタは応える。
「私はティアール。4年です」
リスタは自分より小さくくりくりした茶髪のティアールを1年生ぐらいだと思っていたため驚いたが興味は無かった。
「そうか、たぶん覚えとくよ、じゃあな」
「待ってくださいリスタ、この状況を見て何も思わないのですか?」
「何が?」
偉そうな口を聞くティアールに、帰ろうとしたリスタは首をかしげる。
「鈍いわね。どう考えても歩けないでしょ。私を女子寮まで運びなさい」
「いや、少し待てば生徒会が来るだろ」
「私は生徒会に頼りたくないんです!それぐらい察してください!」
どこに察せる要素があったのかリスタには分からなかったが、一応先輩ということもあったのでうるさいティアールを部屋までま運ぶ事を嫌々承諾する。
リスタは体格は大きくもなく小さくもなくといったところだが、小さなティアールは簡単に背負えた。
「ティアールさん、何番棟ですか?」
「ティアールじゃなくてティア、さんも要りません。自分より大きい人に敬意を払われるの嫌なんです」
_____いや、あんたより小さい人はだいぶレアだろ…
心の中でツッコミを入れつつリスタは聞き直した。
「じゃあ、ティア。何番棟に連れてけばいいんだ?」
「3番棟よ、優しく運んでくださいね」
「はいはい…」
リスタは溜息をつきながらティアールを彼女の部屋まで運び始める。