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余命宣告は突然に

作者: 緋蝶

あるまだ残暑厳しい九月の頃、ソレは静かに現れた


「あ・な・た・は~、あと六か月で死んじゃいまーす!」


「・・・・・・」


突然の余命宣告、さすがにどんな人間でもこんなことを言われたら大半の人間は否定するか落胆することだろう


だが余命宣告を受けたこの物語の一応主人公である人物はパソコンの前で無表情にキーボードを打ち続けている


「・・・・ありゃ?おーい、聞こえてますか~?」


「・・・・・・・・」


「ふむふむ・・・こういうパターンは初めてですね、まあ資料通りといったところでしょうか」


ニコニコと資料を眺めている突然部屋に降ってわいた人には見えない空中でふよふよ浮いている少女とは対照的に、主人公はいまだにディスプレイから片時も目を離すことなく無表情のままだった


ニコニコしていた少女もさすがにこのお通夜みたいなしんみりとした空気に耐えかねて口を開いた


「あのー・・・・いい加減本題に入りたいんですけどー」


「・・・・・・・・・・」


「ああなるほど、ジャパニーズは名乗るときはまず自分からって風習がありましたねー」


たぶん外れているその考えをすっかり最適解だと思い込んだ少女はぷかぷかと浮くのをやめ、床に足をつけて自己紹介を始めた


「私は冥界管理局特殊事案対策課死神係に所属しているミナイザと申します、以後お見知りおきを!」


「・・・・・・・」


さすがにここまで無視を決め込まれてしまってはどんな聖人君子ですら少しばかりはイラッとするであろう


無論死神であるミナイザは聖人君子などではない、怒りのボルテージが最高潮に達した少女は実力行使に移行した


まず主人公がやっているパソコンから伸びている無数のコードを自前の大鎌で切り裂いた


さすがにこれは主人公も平静を保てなかったらしくヘッドホンをかなぐり捨て勢いよく振り返ってミナイザに罵声を浴びせかけた


「なんてことしてくれんだお前!!お前のせいで、お前のせいであともう少しで終わるはずの二日徹夜で頑張った努力の結晶がぁ・・・・・って、誰だあんた」


「・・・・・・あっもしかして最初から聞こえてませんでした?」





「ほう、要するには俺の寿命はあと六か月余りであんたが俺の監視役についたってことか」


「まあところどころ抜け落ちているところはありますが大体それで合っています」


「くだらな、寝る」


まったく興味がないといった顔で主人公はベッドへとすたすた歩いて行った


「ちょっ、待ってくださいよー私の話信じてないんですか?」


「んじゃあお前はいきなり母親にあんたは川で拾ってきた子だって言われたらそれを信じるのか?信じねぇだろ?アディオス、俺は寝る」


「信じてくださいーお願いしますー!私今回の仕事でポカしたら減給されるうえに休みなしで三か月間一日の休みもなく働かされ続けるんですよー」


「お前の事情なんか知ったことじゃねぇ、いいから袖を離せ、俺は俺の休息不足の脳にひと時の休暇を与えてやりたいんだ」


そういって主人公がうっとうしそうに腕を振り払おうとするが一向にミナイザは手を放そうとはせず、むしろ自分を監視役として認めてくれないと泣くぞと言わんばかりに目を潤わせ始めている


さすがにこれ以上の負担を脳にかけさせるわけにはいかない


だが否定し続けていてもこの小娘が手を放してくれるわけがなく自分の脳がマッハでピンチなのでこれ以上手段は択んでいられなかった


「はいはいわかったわかった、もうその監視?だか何だかをしていいからさっさとあっちに行ってくれ」


「ほんとですか!ほんとですか!!」


「はいはい本当本当じゃあお休み、あっそうだ昼になったら起こしてくれ」


「はーい!」






さて皆さん徹夜をしたことがあるだろうか


やったことがある人は大体わかってくれるだろうがまず極端にお腹が減る


そして眠ってしまったが最後、朝に寝てしまったら夕方近くに起きてしまうということもままある


主人公である彼も例外ではなく、朝の九時にほんの昼寝のつもりでソファーに横になったつもりだったのだが光陰矢のごとしとはまさにこのことであろうという感慨すら覚えてしまうほど一瞬にして十一時間もの時が過ぎてしまっていた


だが、と主人公は考えを少し切り替えた


確か自分はなんとかイザとかいう人?に確かに昼に起こしてくれと頼み当人はそれを承諾してくれたはずだと


それに今日はニヤニヤ生放送でアニメの一挙放送がある日、しかもそれは昼の一時からの放送だ


主人公は時計を見た、だが時すでに遅しでもう午後の六時を回っていた


「あんの薄らバカが、どこ行きやがったんだ」


だがアニメはタイムシフト視聴もできるのでそこまで狼狽えることもない、まずは自分の腹を満たそうととりあえず部屋を出て一階へ降りた


今日は自分のバイトも旅行に行くと伝えて三か月ほど前から三日ほど休みをとったのだが、突然母親がインフルエンザにかかり妹も面倒を見なければならないので旅行はキャンセル、店にシフトがあいているなら入れると一応伝えてはみたが店長に「お母さんの体調が悪いなら見ていてあげなさい」と言われ二日間を何をするわけでもなく三日目の最終日になってしまった


母も体調がだいぶ良くなったので妹は今日仕事にいっているので昼食は妹が作り置きしていたからいいとして夕飯は自分が作らなければならない


一応母の寝室へ行き夕飯は食べれそうか確認を取ろうとしたのだが何か違和感を感じた


まずなぜか自分と病気にかかっている母しかいないはずなのに台所からトントンという小刻みな音といい匂いが漂ってきているということ


そして玄関先には妹のものではないパンプスがきれいにそろえられて置いてあるということ


もちろん自分には世話を焼いてくれるツンデレな幼馴染などはいない


不思議に思いながらも母が料理を作ってくれているのかと思い台所へと進路を変えて扉を開いた


「母さん、もう体大丈夫な・・・・・の?」


「あ!起きましたか、ええと・・・・そういえば資料に名前書いてなかったから聞かなきゃなんだった」


「おい、なんでお前がここにいんだ」


「そりゃあ私はご主人の監視役ですしここにおいてもらっているいわば居候ですからこのくらいのことは

 やって当然ですよ!」


「ちょっと待て、俺はお前を居候としておくことを了承した覚えはないんだが?」

 

「大丈夫です!先ほどこの家の家主であるあなたのお母様に了承をいただきました!」


「マジかよ・・・・・ちょっと母さん!!まじでこのへんてこりんな自称死神を居候として認めたのか!?」


すると台所の扉の所からひょっこり顔を出したケープを羽織った母がニコニコと微笑みながら返した


「うんそうよ、灰ちゃんの初めての友達だもの、私が断るわけがないでしょ?」


「え、なに言ってんの?こいつが俺の友達?んなことあるわけねぇじゃん」


「まあそこらへんは嘘も方便というやつですよ、とにかく私はここを一歩も動くつもりはありませんよ!」


そういってふんぞり返って偉そうにしているこいつは今すぐ死神なんかやめて速攻疫病神に転向した方が

いいと思うのは俺だけだろうか


とりあえず追い出そうと床に胡坐をかいて不動を貫こうとしているミナイザの首根っこをつかもうとした


だが、つかもうとしたが主人公はミナイザの首根っこをつかむことができなかった


それは別にミナイザが避けたわけではない、文字通りつかむことができなかったのだ


主人公のつかもうとした手は虚しく空を切り、バランスを崩し少し前によろけてしまった


「・・・・・え、なんでだ?」


主人公は確かに目の前にいるミナイザをつかんだはずだと錯覚した脳とそんなものつかんではいないという体との齟齬で少し頭の整理が追い付かなくなってしまった


「そういえばご主人には話していませんでしたね~、実は私は物は掴めるんですけど人に触ったり触られたりすることができないんですよ!だから部屋で騒ぐのもお母様に迷惑になってしまうかと思いご主人を昼に起こすことができなかったんです、ごめんなさいでした」


「つうことは・・・お前本当に死神なの?」


「まだ信じてなかったんですか!?」






ミナイザが俺の家に居候として転がり込んできて早三日が過ぎた


さも当然のように家に住みついている寄生死神ことミナイザは今日も今日とて俺の家で居候ライフを送っている


最初のうちは何度か追い出そうと試みたがミナイザは不動を貫き母もすっかりミナイザに懐柔されてしまった


そして今日、妹が短期出張から帰ってくるのだがたぶんそれがこの家からミナイザを追い出す最後の手段になるだろう


信じていた、信じているたのだが結果的には、疲れて帰宅した妹にミナイザはパーフェクトな対応をして見事妹からの信頼を勝ち得た


こうなればもう追い出すことは不可能である


「ご主人、今日の晩御飯は何がいいですか?」


部屋に洗濯物を持って今日の晩飯のリクエストを取りに来たミナイザに、主人公は背を向けたまま返した


「任せる、だがお前本当に家に馴染みすぎだろ」


「適応能力は割と高い方だと自負してるくらいです!管理局に入るときの履歴書のストロングポイントもそう書いたぐらいです」


「あー、そういや聞いてなかったがその管理局ってやつはどこにあるんだ?」


「ええと・・・ここで言うところの東京都庁にありますね~」


「なんだ、俺が知らないうちに都庁は国民の死の管理までする闇の組織になっていたのか」


「いえいえ、東京都庁にあるんじゃなくて東京都庁のあるところにあるんですよ」


「ん?どういうことだ」


ミナイザが言うにはこの世界には四つの界が同じところに重なるように存在していてそれぞれ人間等がいる下界、おもに死や生を管理する冥界、死後の世界がある死界、それらを統括する天界に分かれているという


その中の冥界にミナイザは所属しており今は俺が天寿を全うするまで監視する役についているらしい


その期間はあと181日、それはミナイザの解任までのタイムリミットでもあり俺の寿命までのタイムリミットでもある


まあそんなこと言われても到底信じることなどできるはずもなく聞いといてなんなのだが聞き流すくらいしかできない


「ご主人の死因はこの四界に影響を及ぼすことになるかもしれない死因なので普通は一個人の監視はしないんですけど特例として私が監視役として派遣されたんです」


「こんなどこにでもいるフリーターごときの死がその四界とやらに影響を及ぼすようなことになるとは思えねぇけどな」


「うーん、死因自体は分かってもその原因までは冥界本部もなぜかわからないらしいので私には何とも、その死因だけじゃなく名前や年齢とかまですべての資料から消えていたくらいですし」


「妙な話だな・・・・最後に一つ聞くが一応お役所の人間なんだよなお前、それだけの組織なら寮くらいこの世界に用意してないのか?」


「いやぁ・・・・実は寮に入る予定だったんですけどそこが運悪く私の前の人で満員になっちゃいまして、本部の方からご主人の所に御厄介になれと言われまして」


「ったくお前の所の組織ってホント管理体制ガバガバだな、そういやお前なんで俺のことご主人っていうんだ?この家の主人は母さんだぞ?」


ミナイザの方に向き直り最後の質問をした後でもう一度質問を投げかけた


本当に無様だ


ミナイザは少し首をかしげ考える素振りをした後で曖昧に返した


「うーん、特に理由というほどの理由はないんですがこの世界ではメイドさんなんかの奉公人なんかはご主人様っていうみたいですし、私も一応はこの家に住ませてもらっている代わりに家事なんかを手伝ったりしていますから一応男の方でこの家の次期当主であろうご主人をご主人と呼んでいるだけですよ・・・あ、ひょっとしてご子息とかお坊ちゃまの方がよかったですか?」


「とりあえずそれだけはやめてくれ、だが普通に名前で呼んでいいんだぞ?」


「いや、私ご主人の名前知りませんし」


そういえば三日も経ったのにこいつに名前を教えてなかったことを主人公はいまさら気づいた


というか名前を教えていなくても何不自由なく生活ができていたことに驚きだ


二十三年間生きてきて初めて渾名やお兄ちゃんなどの本名の代わりになるものの便利さをひどく痛感した


だがさすがに名前を教えていないというのは今後の日常生活で少なからず困ることがあるであろうしと主人公は改めて自己紹介をした


「俺の名前は新堂灰里、三日経って今更だがこれから六か月くらいよろしく頼みたくはないんだが・・・まあよろしく頼むよ」


「はい、こちらこそ!私も一応もう一度自己紹介しましょうか流れ的に」


「流れ的にってなんだよ・・・・まあいいや、どうぞ」


「こほん・・・私はミナイザ、冥界管理局特殊事案対策課死神係に所属する

 死神の一人です!これから六か月間よろしくお願いしますね、灰里さん!」


はちきれんばかりの笑顔を返してきてくれたのにさすがに無愛想で返すのもいささかあんまりだと思い、不慣れながらも精いっぱいの笑顔で返してやった


「ああ、こちらこそよろしくな!」




かくしてこの奇妙な自分を死神と自称するはたから見るとものすごくかわいそうなミナイザと名乗る少女と、突然余命宣告された23歳の男の奇妙な余生生活が始まった


皆さんの所にもいきなり余命宣告をする妙な女の子が来るかもしれません


そんなときは優しく家に迎え入れてあげてください


きっとあなたの余生がより充実したものになると思いますよ?




それではみなさん、よい余生生活を












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