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宮廷画家と竜舎番の奮闘:9

二頭の竜がはるかな高みでくんずほぐれつの攻防を繰り返している。

戦いの主導権をどちらが握っているかは、もはや火を見るよりも明らかだった。トンドゥにまたがるミューゼルは先ほどから防戦一方で、エステラーダとアプティカに押されている。

トンドゥが間合いを詰め、エステラーダの顔面に鉤爪を繰り出す。鉤爪が眼球に達するかと思われたその瞬間、エステラーダの吐いたブレスがトンドゥの胴体に直撃する。


「グガァアアアアアアア!!」


見事に後方に吹っ飛ばされたトンドゥは苛立ちを隠せなくなってきているようだった。


「トンドゥ! 何をやってるんだ!? 勝手に突っ込むんじゃない! 後退しろと言っているだろう!?」


ミューゼルの怒鳴り声が空から降ってくる。ヴィオレッタはクウンと鼻を鳴らした。トンドゥが怒りに我を忘れてミューゼルの指示を無視し始めているのが手に取るようにわかる。

ミューゼルは必死に手綱を引いてトンドゥの進行方向を変えようとするが、人間の腕力が竜の膂力に敵うはずもない。トンドゥが手綱による制御を振り切ってエステラーダに体当たりを仕掛ける。が、エステラーダはぐるんと宙返りをしてその攻撃をかわした。


「うわあっ!!」


ミューゼルの体が大きく揺らいで鞍からずり落ちそうになる。ヴィオレッタは落ち着かず翼をバタバタと羽ばたかせた。

ミューゼルがなんとか体勢を立て直すが、二人のコンビネーションは死んでいるも同然だった。

背中に乗っているミューゼルの安否などトンドゥにはもうどうでもいいのだ。己を上手く乗りこなせない、力を存分に発揮させてくれない主人など従うに値しない。そう考えていてもおかしくない。

彼女の頭の中にあるのは勝利への執着。エステラーダにひと泡吹かせてやりたいという激情だけだ。

背中に乗っているミューゼルが落下しようがしまいが、トンドゥには関係のないことだ。


「トンドゥ! 僕の命令を無視するのか!? おい! トンドゥ!」


トンドゥに愛想を尽かされたことをミューゼルも察したのだろう。彼は顔面蒼白になりながら、何度もトンドゥに呼びかける。しかしトンドゥは応える素振りを見せず、がむしゃらにエステラーダに向かっていく。

そしてついに――その瞬間が訪れた。


「うわああああああっ!?!?!?」


エステラーダの尻尾が勢いよくトンドゥの顔面に叩きつけられる。トンドゥの体が勢いよく横に回転し、ミューゼルの体が宙に浮かび上がった。

重力に耐えられずミューゼルの手が手綱から離れる。落ちていく。落ちていく。ミューゼルの体が地面目掛けて落ちていく。

アプティカはなぜかエステラーダの背中にまたがったまま、微動だにしなかった。眉一つ動かさず、ただじっと落ちていくミューゼルを見下ろしている。


「ギュアアアアァアアッ!!」


気付けばヴィオレッタは弾かれたように駆け出していた。

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