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宮廷画家と竜舎番の奮闘:8

訓練所の両端にある二つの出入り口。その内の一つから顔をのぞかせ、決闘の行方を見守っていたジミグは息を呑んだ。


「直撃だ……っ!」


エステラーダが吐いた炎のブレスがトンドゥの胴体に命中する。ブレスの勢いに押されてトンドゥの体が後ろに吹っ飛ぶ。

己のほうに向かってきたトンドゥを、エステラーダは体をひねってかわした。翼を小さく折り畳んだエステラーダが、急降下しながらトンドゥを追いかけ、強烈な体当たりをお見舞いした。

トンドゥの怒り狂った鳴き声がとどろき、空気をびりびりと震わせる。

崩れた体勢を整えたトンドゥがまとわりつくエステラーダを尻尾で薙ぎ払おうとする。頭目掛けて振り下ろされた尻尾をエステラーダは両前足でがっちりとつかんだ。

かと思えば、たやすく鉄を裂いてしまえる鋭く硬い歯をトンドゥの尻尾に突き立てる!

エステラーダの歯は鱗を貫通し、トンドゥの尻尾に深々と突き刺さった。


「ギャアアァアッ!」


トンドゥの悲鳴が訓練場の空に響き渡る。緑色の血が尻尾を伝って流れ落ち、雨となって地面に降り注いだ。


「っ!」


ジミグは痛々しい竜の鳴き声と空から落ちてきた緑色の血を見て、反射的に首をすくませた。自然と呼吸が浅くなり、手が震える。


(竜同士の戦いがあんなに激しいものだったなんて……)


知らなかった。竜は本来、誇り高く獰猛で攻撃的な生き物だとは教わった。しかし今の今まで実感を持てていなかったのだ。燃え盛る炎のように激しいミューゼルとアプティカの戦いを見てジミグはようやく理解した。

ロワルメル王国は豊かな国で、過去には何度か大戦を経験している。その度に華々しい勝利を手にしてきた。それはロワルメル王国が竜騎士団という巨大な軍事力を擁しているからだ。

竜を手懐け意のままに操る術を心得ている竜騎士と竜舎番は、この国の防衛の要であり、だからこそ己の地位や仕事に誇りを持っている。譲れない矜持があり、曲げられない信念がある。

宮廷画家という仕事を軽んじられると我慢できないジミグと同じように、ミューゼルとアプティカにもそれぞれの掲げる正義があるのだろう。


(だからこそ、僕たちは……わかり合う努力を惜しんじゃいけないんだ)


どこかで落としどころを見つけて、戦いをやめる理由を見つけなければ、でなければ大変なことになる。このままぶつかり続ければお互いに無事では済まないだろう。

アプティカと立てた作戦を実行に移す前に、どちらかが大怪我をしてしまう。そんな予感しかしない。


「アプティカさん……無茶だけはしないでくださいよ……。ミューゼルさんを追い詰め過ぎたら、何が起きるかわからない」


ただ指をくわえて決闘を静観するしかないのが歯がゆくもどかしい。ジミグは下唇を嚙みながら、二頭の竜が吐いた炎が空を切り裂くさまを見上げる。

戦闘に集中するあまり、ジミグはヴィオレッタが不安そうな面持ちで鼻先を左右に振っていることにとんと気付かなかった。

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