友達の気遣い
「…―――二人とも、遅いね…」
私は、秋の部屋でドキドキしながら話しかけてみた。
「うん…」
秋はそれしか言わない。
「………。」
「………。」
気まずい沈黙が続いて、私はいたたまれなかった。
(小学校のころは何でもないことでよく言い合いになったりしてたのに…ーーなんで今、話しかける話題ひとつも浮かばないんだろう…)
「遅ぇな、謙介のやつ…」
ボソッと言うと秋は部屋から出ていった。
そして、家の電話の子機を持ってきた。
金子にかけているらしい。
「お前どこまで買いに行ったんだよ」
イラついたように秋が電話越しに金子と話している。
「は?――――海?」
秋が珍しくでかい声を出した。
(――――…う、海?)
秋の声を聞いていた私も驚いてしまった。
(なんで飲み物買いに出掛けた二人から、海の話が出てくるの?)
「――――…分かった、じゃあな」
電話を切った秋が、今日初めて私の方を見た。
そして一言、私に言った。
「謙介と柚希ちゃん、今、海にいるらしい」
「なんで海?寒くない?」
私が秋に話し掛けられて動揺しながらもそう言うと、
「なんか、変な気を遣ったらしくて」
と、秋が今度は私から顔を背けて言った。
「どうする?」
秋が私に言う。
「どうするって…?」
(私に、聞かれても…ーーーー)
私が返事に困っていると、秋が言った。
「俺らも、海に行く?」